![健康・快適住宅の実現を目指して/暮らし創造研究会](https://www.gas-enenews.co.jp/wp-content/uploads/2019/03/20190318-tokusyu-part-21024_1.jpg)
日本ガス体エネルギー普及促進協議会は、超高齢・高度省エネ社会への移行を見据え、「暮らし創造研究会」を2014年3月に立ち上げた。暮らしにおける(1)健康・快適、(2)安全・安心、(3)省エネ・省CO2—を推進するための適切な設備と暮らし方を研究し、成果の発表・啓発を通じて豊かな暮らしの実現に貢献するための組織だ。健康・快適住宅の実現を目指す同研究会の活動と、国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進モデル事業」で取り組む実証実験の中間報告のほか、ヒートショックなど高齢者の住宅事故を防ぐためのベターリビングや都市ガス事業者の取り組み、国が進める住宅政策などを紹介する。
<床暖房の優位性を検証、省エネ改修促すツール作成/第6回会合>
暮らし創造研究会は、建築環境・省エネルギー機構の村上周三理事長、住環境計画研究所の中上英俊会長、ベターリビングの井上俊之理事長が幹事を務め、9団体で構成する。オブザーバーとして厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省、日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会が参加する。
14年度から16年度までは、(1)ヒートショック対策をテーマとする効果・効能研究部会(主査・高橋龍太郎多摩平の森の病院院長)、(2)省エネ型ライフスタイル実現をテーマとする暮らしの意識・行動研究部会(坊垣和明東京都市大学名誉教授)、(3)地域コミュニティー活性化をテーマとする超高齢社会の居住環境研究部会(園田眞理子明治大学教授)—の3部会が研究を実施。17年度からは(1)健康・快適な暖房利用方法の追求をテーマとした暖房の健康影響研究部会(主査・伊香賀俊治慶応大学教授)、(2)省エネリフォーム推進をテーマとしたストック住宅の省エネ化推進手法研究部会(前真之東京大学大学院准教授)—の2部会が研究に取り組んでおり、今年度は3カ年の研究期間の2年目に当たる。
11日、東京・霞が関で行われた第6回会合では、2部会の主査が研究成果を発表した。伊香賀主査の部会は、断熱性能と暖房方法の違いが、特に長期間居住の際の健康などに与える影響について研究を行っている。具体的には主居室で主にエアコン暖房を使う「気流式暖房群」と床暖房を用いる「放射式暖房群」をアンケートと実測で比較する。
17年度はアンケートと実測調査を実施。18年度は被験者を追加し、暖房の運転頻度も指定した実測調査を行った。19年度は17年度の対象者にアンケートを再度行い、経年変化に着目した分析を行うと同時に、実測調査の結果をとりまとめる予定だ。
11日は17年度の暖房使用時期に行った調査結果を報告した。アンケートはエアコン358世帯684人、床暖房261世帯517人の計1201人、実測はエアコン43世帯82人、床暖房46世帯88人の計170人を対象に実施。住まいの評価に関しては、居間の「寒さ」「足元の冷え」について床暖房の方が寒さを感じる頻度が、統計上有意に少ないことが分かった。高血圧、肩こり、手足の冷えなどの症状も床暖房の方が少なく、「暖房方式が一部の疾病・自覚症状に影響を及ぼす可能性」や「特に高齢者において大きく影響を受ける可能性」があることが分かった。
起床後すぐの血圧(高い方の値)と居間の床からの高さ1mの温度の関係性も調べた。1m温度が10℃高いと血圧は6・2㎜Hg低くなるという有意な関連が確認された。また、血圧比較では床暖房の方がどの年齢層でも男性は1・6㎜Hg、女性では1・9㎜Hg低かった。伊香賀主査は「今回の調査ではどの年齢でも血圧差は同じだったが、サンプル数を増やすと高齢者ほど血圧差が大きくなる結果がおそらく出ると思う。次年度にその報告ができることを期待している」と述べた。
一方、前主査の部会は、リフォーム事業者が提案時に省エネや温熱環境の改善について定量的に効果を提示することにより、施主に省エネリフォームを促すツールの開発を行っている。11日は、17〜18年度に行ったアンケートを踏まえて作成した「健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本」の試作版を配布した。前主査は「安くて住みながらできる簡便なリフォームも必要。事業者と施主の理解を深めるコミュニケーションツールとして活用してもらいたい」と述べた。今後、リフォーム事業者の活用を通じて読本の効果を検証し、来年度の完成を目指す。
リフォーム読本は、(1)リフォームする人のホンネ、(2)「暖かい家」の基礎知識、(3)「暖かい家」のつくり方と効果を知ろう、(4)もっと暖かく、快適な家をつくるには—の4部構成とする予定。(1)では18年度の調査を基に、「冬の寒さ」「床の冷たさ」「温度差」など住宅に対する不満を紹介。(2)では寒い家に住むことによる健康上の危険を伝えることで読者が自分事と認識するよう促す。その上で暖かい家をつくるためには断熱と暖房の選択が重要と訴える。(3)は断熱リフォームのレベルによって効果や費用が変わる事をシミュレーションで示した。(4)では床暖房とエアコンの暖まり方の違いや水回りの温熱環境改善策を紹介した。
18年度のアンケート調査も振り返った。81〜99年築の2階建て(延べ床面積80〜160㎡)で断熱リフォームを行っていない住宅に住み、リフォームを検討または強い興味がある1031人を対象に行った。リフォームを決断する上での不安として、費用や依頼先探しのほか工事中に転居の必要があることなどが挙がった。ヒートショックについては約9割が認知していたものの、現在の住まいで危険性を感じている人は約6割にとどまった。
アンケートの中で、断熱(窓・床・天井)や暖房方式(床暖房・エアコン)に応じて複数の改修パターンを設定し、省エネ性や工事費、光熱費、工事期間、温熱環境等の情報を提示した。その結果、窓だけではなく床・天井と断熱レベルを上げるほど実施意欲は下がり、工事費や工期が足かせとなる可能性が分かった。
一方、暖房リフォームに関しては情報提供前後で実施意欲が倍以上になり、特に「上下温度差」「工事費」「床表面温度」「設定温度への到達時間」に対して魅力的・印象的との回答が多かった。
参加者からは「伊香賀主査の住宅の屋内環境と健康影響の報告は大変意義深い。また、リフォーム読本ならば省エネ改修が進められるのではないか」(村上建築環境・省エネルギー機構理事長)、「エネルギーは使用量ばかりでなく本来の目的である快適など生活の質の追求が重要だ。より消費者に分かりやすい形の情報発信を求める」(中上住環境計画研究所会長)、「放射暖房の優位性を示す伊香賀主査の今後の研究に期待したい」(井上ベターリビング理事長)、「省エネは身近な一方、具体的な行動には結び付かない。住宅分野では健康や快適性が重要なキーワードであり、省エネとこれらの情報を結び付けて分かりやすく提供することが必要」(吉田健一郎経産省資源エネルギー庁省エネルギー課長)、「今年度まとめている高齢者住宅のガイドラインでは配慮事項の一つに温熱環境を挙げた。周知に関しても研究会と連携して進めたい」(多田治樹国交省住宅局安心居住推進課長)、「建築物省エネ法改正の説明義務制度について建築士が施主に説明する際に、コスト面に加えて省エネや健康・快適性も併せて伝えられるとよいと思う。前主査の研究データは既存ストック対策に役立てていきたい」(長谷川貴彦国交省住宅局住宅生産課長)、「省エネ改修は業界横断的に取り組んでいきたい」(小田広昭住宅生産団体連合会専務理事)などの意見が寄せられた。
<研究成果を教材に活用、省エネ行動を後押し>
暮らし創造研究会は、研究成果を教材や営業ツールなどの形にして、消費者に発信する普及活動にも力を入れている。小中高向けの教材には、(1)省エネ行動スタートBOOK、(2)エコな住まい方すごろく、(3)省エネ行動トランプ—がある。いずれも「暮らしの意識・行動研究部会」の成果物だ。
(1)は、省エネ行動に関する17のテーマについてワークシート(生徒用)と指導案(教師用)をセットにしたものだ。環境教育の要素を体系化し、学校現場での指導がしやすいように工夫した。教育現場等での活用も進み、18年10月には改定版を発行している。横浜国立大学の松葉口玲子教授が監修した。
(2)は、主に中学や高校の家庭科補助教材としての使用を想定。日常生活における省エネ行動の重要性や省エネ行動が地球環境にどのように結び付くかを学ぶ。住環境の抱える問題点や改善方法を知り住宅リフォームの意義を理解してもらう。慶応大学の杉浦淳吉教授が監修した。
(3)は、省エネ行動の認知・理解の向上と実践につなげることを目的に開発した。さまざまな省エネ行動をリビング・キッチン・お風呂・ライフスタイルの四つに分類し、年間削減金額とCO2削減量をそれぞれのカードに記した。(2)と同じく杉浦教授が監修した。
これらは実際の授業でも活用が進む。写真は昨年11月、千葉県茂原市の県立長生高校2年生が家庭科の授業で省エネ行動トランプを使い、7並べを行った様子。東京ガスと住環境計画研究所が環境省の受託事業「学校における省エネ教育プログラムの開発・実証」の一環として行った。生徒たちはカードに書かれた省エネ行動の文面を読み上げることで新たな知識を得ながら、ゲームを楽しんた。
<断熱化で健康改善へ、全国調査第3回中間報告会/日本サステナブル建築協会>
住宅性能と健康の関連の調査は国も進めている。その経過報告として日本サステナブル建築協会は2月1日、「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査第3回中間報告会」を東京都内のホテルで開催した。
この調査は同協会が国から委託を受けて2014年度から18年度までの5年間、国土交通省の「スマートウェルネス住宅(SWH)等推進モデル事業」で断熱改修した住宅を対象に居住者の改修前後の家庭での血圧や活動量などを測定し、健康への影響を検証している。SWHとは高齢者、障害者、子育て世帯等の多様な世代が安心して健康に暮らすことができる住宅のこと。
生活空間の温熱環境を良くすることで居住者の健康状態が改善した検証結果(エビデンス)を多く収集し、その成果を普及させることでSWHの整備を図り、国民の健康状態を向上させることが調査の目的だ。比較対象として改修しない世帯のデータも収集している。改修前に2307件・4131人の調査を行い、改修後の679件・1194人のデータを収集した。今回は昨年度の冬期までの分析結果の発表で、調査は継続中。当初の調査期間終了後も長期間にわたり追跡調査を行うことを検討している。
国土交通省住宅局の長谷川貴彦住宅生産課長は冒頭のあいさつで「この調査で取り扱っている住宅の断熱と居住者の健康との関係の研究は住宅政策上重要なテーマだ。断熱化と健康の関係は十分なエビデンスが整っていないという指摘がある。エビデンスを積み上げ、どう使うかが今後重要になる」と述べた。
調査やデータ分析を行うSWH等推進調査委員会は東京大学名誉教授で建築環境・省エネルギー機構理事長の村上周三委員長をはじめ、建築学や医学などの専門家で構成されている。
同委員会幹事で調査解析小委員会の伊香賀俊治委員長(慶応大学理工学部システムデザイン工学科教授)らが室温と血圧・活動量・諸症状の関連を分析し、得られつつある知見を発表した。発表内容を紹介する。
◇
夏季よりも冬季のほうが死者数は増加する。その増加率は欧州では寒冷地のフィンランドに比べ、温暖なポルトガルのほうが約3倍も高くなる。日本でも栃木県は北海道より約2・5倍増加率が高い。これは寒冷地のほうが断熱住宅の普及率が高いことと相関があると推測される。
冬季の死因の6割は呼吸器系疾患、脳血管疾患、心疾患の三つが占める。このうち脳血管疾患、心疾患などの循環器系疾患は血圧の上昇と密接な関係がある。厚生労働省は循環器系疾患の予防のために国民の最高血圧(収縮期血圧)を低下させることを推奨しているが、最高血圧を下げるためには生活習慣の改善だけが言及されている。
例えば英国で実施されているイングランド防寒計画では、呼吸器系や循環器系の疾患の予防のために住宅の断熱改修により室内環境を最低18℃以上に維持することが推奨されている。ニュージーランドで1200件、3300人を対象に断熱改修とその後の短期的変化を調査した先行事例もあるが、それは質問調査と小規模な温度測定にとどまっており、今回の調査のように大規模かつ居住者の活動量や血圧を測定し、健康診断の結果まで盛り込んだ調査は世界的にも珍しい。
昨年実施された第2回中間報告会では冬季の居間の室温が低いほど居住者の血圧が高く、健康診断での心電図異常が多く、夜間頻尿のリスクが高くなるデータが得られており、居間の室温を18℃以上に保つ断熱住宅の普及が死亡率の増加を抑制する効果が報告された。調査に参加した住宅は断熱改修前、18℃未満の家は約6割で、日本全体でみると温度が低い住宅の割合はより高くなると考えられる。
今回の報告会では(1)室温が年間を通じて安定している住宅では居住者の血圧の季節差が顕著に小さい、(2)居住者の血圧は部屋間の温度差が大きく、床近傍の室温が低い住宅で統計学上有意に高い、(3)断熱改修後に居住者の起床時の最高血圧が有意に低下、(4)室温が低い住宅ではコレステロール値が基準を超える人、心電図の異常所見がある人が有意に多い、(5)寝室の室温が低い住宅ほど過活動膀胱(OAB)の人が有意に多い、断熱改修後に就寝前居間室温が上昇した住宅ではOAB症状が有意に緩和、(6)床近傍の室温が低い住宅ではさまざまな疾病・症状の人が有意に多い、(7)断熱改修に伴う室温上昇によって暖房習慣が変化した住宅では住宅内身体活動が有意に増加—などが報告された。
この中で特に注目したい点は(2)と(6)である。(2)では居間だけでなく浴室や寝室など家中を一定の温度に保つ必要があることが指摘された。調査に参加した住宅で脱衣所の平均室温が18℃未満の住宅は89%、同じく寝室が18℃未満の住宅は90%と多く、ほとんどの住宅では部屋間の温度差が大きい結果が示された一方、居室と寝室の両方が18℃以上に保たれている居住者の方が、循環器系疾患が発症しやすい起床時の最高血圧が低くなる結果も示された。こうした傾向は床近傍の室温が1℃低下した場合に血圧への影響がより大きいことも示された。
また(6)では同じ温度の室内でも床に近い箇所の室温が高いことがさまざまな疾病・症状の低下に影響がある可能性が指摘されている。調査対象を温暖群(床上1m16℃以上で床近傍15℃以上の部屋)、中間群(床上1mは16℃以上だが床近傍は15℃未満)、寒冷群(それぞれ16℃、15℃未満)の3群に分けて比較した。その結果、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、骨折、ねんざ、脱臼などほとんどの調査項目で、温暖群がほかの二つに比べ疾病・症状が少ない結果が得られた。
報告会の後半では調査委員会の主要メンバーによるパネルディスカッションも行われ、本調査の背景となった寒冷による血圧上昇が循環器系疾患が発症する引き金になる可能性があるほか、血管の収縮が繰り返されることで血管の老化が進む慢性的な影響の可能性があることが言及された。近年、住宅の温熱環境改善による健康維持効果は数多く示されているが、まだエビデンスとしては低いランクであるため、この調査をベースに10年以上の追跡調査を実施するというコメントもあった。この調査の成果が医療行政や住宅行政に反映されることが望まれる。
<ヒートショック対策を、ガス事業者が啓発活動展開>
ヒートショック対策を促進しようとガス事業者もさまざまな活動に乗り出している。
東京ガスは2018年11月から今年2月までの4カ月間を重点期間とし、ヒートショック対策に関する啓発活動「STOP!ヒートショック」プロジェクトに取り組んだ。17年に行ったキャンペーンを格上げし、コロナ、セコム、TOTO、ノーリツ、パーパス、LIXIL、リンナイ、ダイキン工業・ダイキンHVACソリューション東京、日本気象協会、ベターリビングの11者協働で実施した。
まず、11月にオフィシャルサイト「STOP!ヒートショックSTATION」を開設。「おうちの対策おすすめポイント」「お風呂の安心度チェック」など自宅ですぐに実践できるコンテンツを提供している。「おうちの対策」では玄関、トイレ、浴室といった空間ごとに、暖房機器や内窓など協賛企業の役立つ設備を紹介。「湯はり時に浴室内を暖めておく」「入浴前に水分をとる」など入浴時に心掛けたい七つの対策も解説した。日本気象協会と東京ガスが共同開発したヒートショックのリスクの目安をチェックできる「ヒートショック予報」(10〜3月)も掲載している。
サイトの他にも、ヒートショックに関する情報を掲載したポスターとリーフレットを作成し、協賛企業が開催するイベントなどで活用している。同プロジェクトの幹事を務める東京ガス暮らしサービス事業推進部の濱田結子氏は「来年度以降もイベントなどでの周知活動やサイトのさらなる充実により、一人でも多くの方がヒートショックを回避し、快適な暮らしが送れるように協賛企業とともに努めていきたい」と話す。
●合同キャンペーン
東京ガス山梨は、UTYテレビ山梨グループが昨年10月15日から2カ月間展開した「ヒートショック対策を考えるキャンペーン」に、吉田ガスやLPガス3社、ガス・住設機器メーカー、ハウスメーカー、病院など30社とともに参画した。UTYが月〜金曜日の午後6時15分から放映中のニュース番組「ニュースの星」で、10月15日から4日連続でヒートショックを特集。キャンペーン期間中に3種類のテレビCMも投入し、理解の浸透を図ると同時に東京ガス山梨がヒートショック防止活動に取り組んでいることをアピールした。
11月2日には甲府市の県立図書館で「ヒートショックを知る防げる特別講演会」を開催し、約70人が参加した。東京都健康長寿医療センター研究所の前副所長で暮らし創造研究会の「効果・効能研究部」の主査も務め、現在は多摩平の森の病院院長の高橋龍太郎氏、山梨大学医学部付属病院副病院長で救急集中治療医学講座教授でもある松田兼一氏による講演に、多くの質問が投げ掛けられた。
11月16〜18日に本社などで開催したガス展ではUTYのブースを設置。ポスターを掲示し、パンフレットを配るとともに映像を流してヒートショックの怖さを訴えた。アンケートも行い、他事業者と情報の共有化を図った。機器販売では浴室でのヒートショック事故が多いことから浴室乾燥暖房機や脱衣所に設置するコロナの壁掛型遠赤外線暖房機「ウォールヒート」をPR。家全体の良好な温熱環境に寄与する床暖房やファンヒーターなども提案した。
山本洋史営業企画グループマネージャーは「10月27日に石和温泉近くで行ったミニイベントでは来場者の大半がテレビの特集を見ており、ウォールヒートは用意したリーフレットが全てなくなり、3件の現場調査を依頼された。県民にヒートショックを知ってもらおうという初年度の狙いはまずは達成できた。12月から2月までは、『ニュースの星』の天気予報で県内5地域のヒートショック予報も流した。来年度は東京ガスとの連携を強化し、もう一段踏み込んだ活動としたい」と語る。
●産学官が連携
福岡県の大牟田ガスは、産学官連携でヒートショック事故防止に向けた啓発活動を展開する。大牟田市の人口に占める65歳以上は35・9%を占め、その半分弱が一人暮らし。ヒートショック関連の救急出動・死者が増えており16年11月、同社の呼び掛けで「大牟田ヒートショック予防対策委員会」が結成された。
メンバーは大牟田市、大牟田市消防本部、大牟田警察署、大牟田医師会、帝京大学福岡医療技術学部、福岡県大牟田地区LPガス協会。大牟田ガスが事務局を務め、ヒートショック事故の多い冬季に重点的に啓発チラシの配布や講演会などを行う。
昨年は9月に同委員会後援の下、九州で初めて「健康・省エネシンポジウムinおおむた」が開催された。学識者や医療関係者、住宅会社等で構成する「健康・省エネ住宅を推進する国民会議」が、国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進事業」の一環で行った全国調査の知見「暖かい家は健康に良い」を消費者に伝えるために各地で行っている。11月4日には三川地区公民館で同委員会がヒートショック予防対策講演会を開催。市と医師、設計事務所、消防本部が講演し、100人を超える参加者を集めた。
大牟田ガスは単独でも啓発活動に取り組む。15年に制作したマスコットキャラクター「ぬっかさん」の着ぐるみを作り、幼稚園や老人ホーム等を訪問してヒートショック予防を訴え、ガス展では「健康セミナー」も実施。今年度は大牟田市生涯学習まちづくり推進本部が行う「企業出前講座」に手を挙げ、10月と1月に集合住宅の集会所やデイケア施設で「ヒートショック事故を防ごう豆知識講座」を開催した。
同社の中嶋覚理事は「講演会はこれまで大会場で行ってきたが、今年度から高齢者が足を運びやすい小規模施設でも行っている。委員会では市に七つある公民館を3年かけて回る。初回の三川地区は予想をはるかに上回る参加者でヒートショックに対する関心の高さを実感した。もう一歩進んで効果的な対策をとってもらえるように引き続き啓発活動に注力したい」という。
<賃貸集合を「エコリノベ」、産学連携で断熱性比較実証/日本ガス>
日本ガスは今年度1年間のプロジェクトとして、エネルギーの観点から住宅資産の価値向上を目指す「賃貸マンションエコリノベーション実証実験」に取り組んだ。鹿児島市内の築37年の賃貸マンション1棟を購入、空室2部屋を断熱改修し、改修前後の室内環境の改善効果などを検証した。地域の建築・不動産事業者と今後のエネルギーと住まいの在り方を考察するとともに、今後は賃貸物件オーナーに都市ガス採用を働き掛ける際の営業ツールとしてデータを活用していく。
プロジェクトは3社連携で行った。日本ガスが物件オーナーと事務局、エネルギーまちづくり社(東京都港区)が設計とDIYの技術指導、建設会社の大城(鹿児島市)が工事とDIYワークショップの運営を担務。鉄筋コンクリート造の5階建ての賃貸マンション1棟(住戸15部屋)のうち空き室だった3部屋を(1)DIYで断熱改修(501号室)、(2)プロが断熱改修(502号室)、(3)無断熱(302号室)—とし、同じ間取りの502号室と302号室を比較した。2部屋にはそれぞれ5カ所に温度センサーを取り付けた上で同じ設定でエアコンを運転し、温度と電力量、サーモグラフィーによる熱の分布状況を比較した。
鹿児島大学大学院二宮秀與研究室の分析によると、冬期(12月18〜30日)22℃設定で24時間暖房運転を行ったところ、エアコンの消費電力に1日当たり15〜31%の差が出た。また、窓や壁の表面温度に5℃以上の違いが見られ、アルミフレーム・単板ガラスの無断熱の部屋は冷たい空気が対流を起こし、寒さが感じられた。夏期(9月18〜19日)は502号室の屋根断熱の効果を検証。屋根の表面温度が55℃以上となる中、室内の天井表面温度にはほとんど変化がなく改修の効果が表れた。
501号室は10〜12月の5日間、DIYワークショップを開き、延べ30人が参加。断熱改修に関する座学の後、プロの指導の下、床・壁・天井への断熱材の充填と壁の塗装、木材による内窓作りを体験した。日本ガス家庭用営業グループE—STYLEチームの泊和哉氏は「一般の方にはエコリノベは自分でもできることを、プロには温暖な鹿児島でも一般人の断熱に対する関心は高いことを知ってもらいたかった」と話す。10月には賃貸物件のエコリノベの可能性についてトークセッションを実施。1〜2月には3部屋の見学会も行った。
今回の実証の背景には、総合エネルギー企業として質の高い賃貸物件を増やすことで入居者の退去を防ぎ、入居者、オーナー、日本ガス、地域それぞれにメリットをもたらす好循環を形成する狙いがある。間取り変更や設備の交換にとどまらず、建物本体の性能を向上するエコリノベで快適性向上と光熱費の削減、ヒートショック予防など健康面にも良好な環境を整えられれば空室率が改善できることを示し、賃貸オーナーや建築・不動産事業者にエコリノベを働き掛けようと考えた。
502号室は入居者が決まり、501号室は募集中。今月には1棟売却手続きに入る。泊氏は「購入価格より高く売却できればエコリノベの効果を示せる」と話す。
<高齢者の住宅事故を防げ、温熱環境の向上を目指して/ベターリビング>
優良な住宅部品に対する認定等を行うベターリビングは、住宅ストック(既存住宅)の品質をより良くするというミッションに向け、高齢者のヒートショックなどを防ぐ上で重要な住宅の温熱環境の改善に取り組む。建築学・医学の専門家を含む委員会を設置して実証実験や議論を行い、パンフレットやシンポジウムでその結果を消費者等に周知するとともに、建築・不動産会社や住宅部品メーカー、国・地方公共団体等に提言を行っている。
最初の実証実験は2011年度にさかのぼる。建築系・医療系学識者と東京ガスなど民間企業7社で立ち上げた「健康長寿住宅エビデンス取得委員会」(委員長・高橋龍太郎前東京都健康長寿医療センター研究所副所長、事務局・ベターリビング)が、住環境と居住者の健康との相関関係を証明するため、11年度から4年間にわたり戸建住宅39戸53人の高齢者を対象に断熱改修前と改修1年後の健康指標の変化を検証。断熱改修後は血圧変動が少なくなり、睡眠の質が改善したなどの結果をリーフレット「人は住まいとともに生きる」にまとめ14年に発行し、ホームページでも公表した。15年3月には都内でシンポジウムも開催した。
次に14〜16年度の3年間にわたり、集合住宅についても断熱・気密改修と暖房の違いが身体に与える影響を検証した。前述の高橋氏が主査を務めた暮らし創造研究会の「効果・効能研究会」がこれに当たる。
16年6月には「住宅における良好な温熱環境実現研究委員会」(委員長・村上周三建築環境・省エネルギー機構理事長)が発足。冬場の低室温が健康へ悪影響を及ぼすと考えられることから2年間にわたり、浴室、脱衣所、トイレ等に配慮し、住宅の温熱環境改善のための具体的な対応策を検討。昨年7月のシンポジウムで研究成果を報告した。そして最終年度となる今年度は実証で得た知見の普及を図る。その前段階として「健康に暮らすためのあたたか住まいガイド」や自宅の温度や入浴法をチェックしてもらうチェックシートを作成。建築事業者などに活用を促し、使い勝手を調査している。報告書と各主体への提言書はホームページに公表した。折田信生調査研究部長は「今年度は温度に着目し、特製の温度計も作った。消費者自ら寒いところに住んでいることを自覚してもらおうという狙いだ。消費者、事業者、国や自治体、どこが欠けても良好な温熱環境は実現できない。今後も高齢者が安心して暮らせる住宅ストックの質向上に努めていきたい」と語った。
<住宅の省エネ対策を推進、効果の定量化とツールに期待/国土交通省住宅局住宅生産課・長谷川貴彦課長に聞く>
—日本の住宅政策における省エネ対策について。
住宅政策は非常に幅広い。空き家対策や、低所得者層の住宅をどう確保するかといったことをはじめ、さまざまな問題がある。その中の一つが住宅性能の向上だ。日本の住宅ストック全体の性能は、まだまだ十分ではない。耐震性能や省エネ性能が優れた、暮らしやすく安心・快適な住まいづくりをどう進めていくかが、大きな課題になっている。
—社会資本整備審議会が今年1月に、今後の住宅・建築物の省エネ対策に関する報告書を取りまとめた。
本答申を踏まえて、建築物省エネ法の改正案を提出している。改正案には、新築を中心に、建物の特性に応じて省エネ性能を引き上げるための仕組みがパッケージで盛り込まれている。現在、省エネ基準への適合が義務付けられているのは非住宅の大規模建築物(延べ床面積200㎡以上)だけだが、これを中規模(300㎡以上)まで拡大する。マンションなどを対象とする省エネ基準適合の届け出制度の手続きも合理化する。
小規模の住宅や非住宅建築物については、設計に携わる建築士に対して当該物件が省エネ基準に適合しているかどうかを施主に説明することを義務付ける。また、目標年度において、高い水準の省エネ性能を求める「住宅トップランナー制度」の対象を大規模な建売戸建て事業者だけでなく、注文住宅や賃貸住宅の事業者も加える。
行政庁が認定した高いレベルの省エネ基準に適合している建物には、省エネ性能を高めるための設備が占めているスペースを容積率にカウントしなくてもいい仕組みがある。この仕組みを単独の建物に加え複数の住宅・建築物が連携して省エネを行うケースにも広げる。
こうした内容を盛り込んだ改正案を今後国会で審議する予定だ。
—同報告書は床暖房等の省エネ基準やヒートショックの防止にも言及している。
床暖房に関しては「快適性等の観点から市場に流通している床暖房等の省エネ基準における取り扱いについて検討を進める必要がある」という記述が盛り込まれた。
審議の過程では「増エネになるけれども健康のためには大事な技術もある。省エネという一つの物差しだけでみてしまうことで、そうした技術が消えることがないよう配慮が必要」という意見があった。一方で「快適性という言葉で多様な手法を認めることはかなり慎重になるべきである」との意見もある。これらの意見を踏まえて、床暖房等の省エネ基準の取り扱いについて検討を進めていく。
ヒートショックに関しては、2016年に改訂された現行の住生活基本計画で初めて言及された。今回の報告書では、住宅・建築物の省エネ性能向上を進めるうえで、断熱化による室内の温熱環境の改善がヒートショックや結露・カビの発生を防止し、居住者の健康維持等につながることについて、消費者の理解を促す必要性が指摘されている。本法案が順調に可決成立された場合には、建築士が施主に省エネ基準への適否を説明する際に、断熱性能を高めると健康にも良いことを併せて説明してもらえるような取り組みも今後考えていきたい。
—国交省は省エネで健康に暮らせる「スマートウェルネス住宅」を提唱し、補助事業を行っている。どのような成果が出ているのか。
スマートウェルネス住宅事業では、今年度までの5カ年事業で断熱改修が健康に与える影響に関するデータ、エビデンスを集めている。例えば、断熱改修をすると居住者の起床時の血圧が低下する傾向があることが明らかになってきている。室温が低い家では、コレステロール値が基準範囲を超える人や、心電図の異常所見のある人が多いというデータも出ている。
ほかにも生活空間の温熱環境の改善が、さまざまな側面で健康に良い影響を与えるというエビデンスが積み上がってきている。「断熱性能が高い住宅は、エネルギーコストが軽減できるだけでなく健康にも良い」ということを消費者に理解してもらい、省エネと健康増進を同時に実現するような効果を期待している。
—暮らし創造研究会の活動をどう評価しているか。
健康については、経験的なデータを積み上げていくことが重要なので、暖房方法の違いが血圧に与える影響についてもエビデンスを積み上げていく取り組みは意義深いと考えている。来年度、どのような形で効果の定量化が図れるのか注目したい。
もう一つの消費者向けの省エネリフォームの分析等については、政策的にも大きな課題になっている分野であり、大変興味深い分析を進めていただいている。分析結果等が今後の省エネリフォーム促進につながる提案ツールの整備等につながることを期待している。