ウィズガスCLUB(住宅生産団体連合会、キッチン・バス工業会、日本ガス石油機器工業会、日本ガス体エネルギー普及促進協議会で構成)とエネファームパートナーズ、日本ガス協会は10月28日、「暮らしとまち未来会議2020」をオンライン開催し、約900人が視聴した。基調講演に続き、2会場に分かれて「暮らしの未来シンポジウム」と「まちの未来シンポジウム」を同時開催した。
〇主催者あいさつ
ウィズガスCLUBを代表し、高松勝日本ガス体エネルギー普及促進協議会会長(東京ガス副社長)があいさつを行った。
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世界規模で影響を及ぼす新型コロナウイルスは私たちを取り巻くさまざまなモノ・コトを激変させている。そのような環境を踏まえ、「コロナがもたらす『暮らし・まち』のパラダイムシフトを読み解く」を本日のイベントのテーマとした。
今後、私たちの暮らしやまちの未来はどのように変化していくのか、どのように変化させていくべきか、本イベントがこれらを考える機会になることを願っている。
〇基調講演「世界経済動向とポストコロナ社会」レジリエントで持続可能な社会に向けて/三菱総合研究所シンクタンク部門副部門長(兼)政策・経済センター長チーフエコノミスト武田洋子氏(米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。1994年日本銀行入行。2009年三菱総合研究所入社。財政制度等審議会財政制度分科会委員、産業構造審議会委員、労働政策審議会臨時委員、行政改革推進会議構成員、税制調査会委員等を務める)
新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に及ぼした影響は非常に大きい。だからこそ、今から一歩先を見据えた行動をとることこそが、ポストコロナ社会により良い社会を築くことにつながる。
まず、コロナの世界経済への影響を見ていく。世界の感染拡大は今なお続いている。国・地域によってばらつきはあるが、外出行動はおおよそ8、9割のレベルに抑制された状況にある。
そうした中、34カ国の実質GDP(国内総生産)成長率を見ると、外出が抑制された4〜6月期はマイナス7・4%となった。7〜9月期はだいぶ戻していくことが予想されるが、感染拡大によって10〜12月期は反動が出てくるだろう。
一方、金融市場は対照的で、世界の株価はコロナ危機前を上回る水準に戻している。中央銀行の素早い対応が反転のきっかけとなったほか、株価は先の企業収益を見込むものであり、コロナから回復しさえすれば収益は戻るとの見方も背景にある。
しかし、金融市場が見込むほど実体経済は素早く回復できるのか、そのギャップがどういう形で現れるのか、目が離せない状況にある。
今後の世界経済については三つのシナリオを考えている。
シナリオ①は、感染自体は拡大を続ける中、一定の防疫措置を継続し、経済活動は緩和と抑制を繰り返すメインシナリオ。シナリオ②は重症化率の上昇等により防疫措置を強めなければならず、シナリオ①より経済活動を強めに抑制するもの。シナリオ③はワクチンなどの普及が進み、防疫措置が緩和できるようになるものだ。
シナリオ①の場合、世界の実質GDPは、ここ1、2年でなんとかコロナ前の水準に回復してくるのではないかと見ている。
・日本経済回復の課題は資金繰り、雇用、消費
日本経済への影響はどうか。4〜6月期は年率換算で28・1%と大幅なマイナス成長に落ち込んだ。経済活動が再開する中、景気の見方を先取りする現状判断DI(動向指数)も上向きになってきており、7〜9月期はかなり上に向かうと見込んでいる。
しかし、乗り越えなければならない課題はある。
一つ目は企業の資金繰りだ。日銀短観の資金繰り判断DIは大企業、中堅、中小でレベル感に差はあるが、一様に低下し、資金繰りは楽から苦しい方へと大きく変化している。中小の一部業種は相当苦しく、引き続き予断を許さない。
設備投資については日本政策投資銀行の大企業調査を見ると、コロナで見送った設備投資があると回答した企業が全体の3割となった。
事業の見直しが必要な場合に想定される取り組みとして「事業の整理・縮小」を挙げた企業も3割近かった。
一方、6割が「新たな製品やサービスの提供」、4割が「サービスのAI・デジタル化」と回答するなど、かなり明るい動きもある。競争力に大きく差をつける要素になるのは、ピンチをチャンスに生かすか、どうかだ。
二つ目が雇用の問題。政府は雇用調整助成金という政策で支えている。しかし、売り上げに対して人材がどの程度余っているのかを推計したところ、足元では多くの人を抱えたままで、リーマンショックと同レベルの雇用過剰な状態にある。企業が新しいビジネスにシフトする中、どうやってより伸ばしたいセクターに人を移すかが大きな鍵を握る。
三つ目は消費の問題だ。当社の調査では6割の世帯がコロナで所得が変化しないと答えた一方、所得が50%以上減ったと回答した世帯も1割あり、所得・消費の二極化が起きることが予想される。
春に支給があった特別定額給付金について生活者アンケートを実施したところ、貯蓄が6割、消費3割だった。消費に慎重な理由を聞くと、66%が将来に対する不安の増加を挙げた。不安をさらに分析すると、社会保障で財政が悪化するなど、構造的な問題に対する不安が非常に根強いことが分かった。ポストコロナ社会でも向き合っていかなければならない要素だ。
・世界の潮流に変化、未来見据えた一歩を
最後にコロナによる世界潮流の変化とポストコロナ社会の在り方について説明する。
コロナにより世界の潮流がどう変化したのか。一つ目は持続可能性の優先順位の上昇だ。SDGs(持続可能な開発目標)に象徴されるように企業においても国民の暮らしにおいても、より重要度が上がった。二つ目は集中から分散への変化。集中による効率性だけでなく安全を重視する分散がより意識されるようになった。三つ目はデジタルの加速とリアルとの融合。リアルの価値を高めるため、いかにデジタルを活用するかという視点が重要になっている。
そうした中、どのようなポストコロナ社会を目指すべきか。当社はレジリエントで持続可能な社会であると考えている。レジリエントとは感染症等に柔軟に対応できることであり、持続可能とは地球環境を維持しつつ、経済の豊かさと個人のウェルビーイング(良好な状態)を持続的に両立することだ。
それでは、どのように実現するのか。国際分野では、国際的なパワーバランスがより不安定化する中、日本としてはルールに基づく国際秩序を再構築するため、重層的な国際協調の実現に尽力していくことが求められる。
産業・企業分野では、デジタルとリアルを掛け合わせて付加価値をより高めていくことが重要だ。6月以降、企業の売り上げ・利益は改善傾向にあるが、元の水準に戻らない需要があるのは事実。重要なことは新たな需要創造だ。コロナで生じた課題に対し技術を活用しながらうまく解決し、ビジネスチャンスにしていくことが求められている。
また、さまざまなステークホルダーを重視する経営の意識も一層高めていくべきだろう。
社会・個人では、自律分散による社会の強じん化と、利他的視点に立った協調がより目標とされるべきだ。
暮らし方、住まい方はおそらく今後、さまざまな形に変わっていく。未来社会をイメージし、新しい市場創出に向けて取り組むことが極めて重要な要素になる。
人々が未来の暮らしや社会を求める中、企業がそうしたことを可能にするサービスを提供して初めて、暮らしが変わる。言い換えれば、それだけ新たな市場のポテンシャルがあるということだ。こういう時期だからこそ、未来を見据え、次の一手、前向きな一歩を踏み出すきっかけにしていただきたい。
〇暮らしの未来シンポジウム/パネルディスカッション1
【テーマ】ニューノーマル時代、「脱炭素・レジリエンス強化」の流れとエネファームの価値
・資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギーシステム課長/水素・燃料電池戦略室長白井俊行氏(1999年通商産業省(当時)入省。エネルギー政策やバイオ産業、非鉄産業、経済協力や欧州、中央アジア地域の通商政策等を担当。04年、ジョージタウン大学経営管理学専攻修了。08〜10年、在イラン日本大使館に一等書記官として勤務したほか、15〜17年には国際エネルギー機関(IEA)のシニアアナリストを務める。19年7月に新エネルギーシステム課長に着任)
・東京工業大学特命教授・名誉教授/コージェネレーション・エネルギー高度利用センター理事長柏木孝夫氏(米国商務省標準局(現NIST)招へい研究員、東京農工大学教授などを経て、2007年東京工業大学大学院教授に就任。09年同学内に現先進エネルギーソリューション研究センターを設立し、センター長に。経産省総合資源エネルギー調査会委員、省エネルギー・新エネルギー分科会長など国のエネルギー政策作りに貢献。「超スマートエネルギー社会5.0」など著書多数)
・積水ハウス常務執行役員環境推進担当工学博士石田建一氏(1985年積水ハウス入社。06年温暖化防止研究所長、11年から環境推進部長兼任。16年常務執行役員、19年より現職。08年に世界初の家庭用燃料電池搭載住宅、11年に3電池連携住宅、13年にZEH「グリーンファーストゼロ」を発売、早くから住宅のレジリエンス性強化に取り組む。日本気候リーダーズ・パートナーシップの共同代表)
石田このほど菅総理が2050年脱炭素化を発表したが、積水ハウスは08年に50年に脱炭素宣言をし、09年には1990年比で二酸化炭素排出量50%以上削減する「グリーンファーストモデル」、13年にはネットゼロエネルギー住宅(ZEH)「グリーンファーストゼロ」を発売した。ZEHは昨年度の販売戸建住宅の87%に達し、販売戸数は累積5万棟超と世界一。エネファーム付き住宅も5万8000棟超と世界一だ。
当社は季節変動が大きい日本における脱炭素実現には、エネルギーの長期貯蔵の観点から水素が必要と考え、水素社会のキー技術である燃料電池の普及に努めてきた。エネファーム市場における当社のシェアは10年の50%から約10%に下がったが、新築設置率は13年の60%をピークに今も50%を維持している。
しかし、エネファームの出荷台数は3年前をピークに徐々に減っている。脱炭素およびレジリエンスに貢献する燃料電池を官民を挙げて促進していかなければいけないという思いで今日は参加した。
柏木第5次エネルギー基本計画では、不安定性のある再生可能エネルギーを最大限活用するとある。電気は同時同量、使っている時に発電しなければいけないので何らか調整電源をデマンドサイドの中に組み込むことが重要だ。再エネの需給状況に合わせ、住宅団地などに大量導入したエネファームをデジタル技術で遠隔制御すれば、系統の安定化が図れる。分散型電源を束ねた仮想発電所(VPP)という新しいコンセプトだ。
また、エネファームは災害時の電源確保による住宅のレジリエンス性を強化するシステムとしても注目される。地下のガス導管は風水害や地震にも強い。強じん性と電力需給調整がエネファームに課された大きな貢献点だと思う。
今後、強じん性に優れた「ZEH+R」の拡大が予想される。経産省の働き掛けで「R(レジリエンス)」の要件に蓄電池、太陽光と並び、停電時に発電するエネファームが盛り込まれ、太陽光とエネファームのダブル発電を積極推進する動きが出てきた。制度、エネファームメーカー、ハウスメーカーが力を合わせた素晴らしい成果だ。
・脱炭素の鍵「水素」
白井脱炭素については梶山経産大臣からも再生可能エネと扱えるものを最大限活用しつつ、新たな選択肢として水素を追求するという発言があった。国は「水素基本戦略」を策定し、30年に向けコスト低減マップを描き、利用面でもモビリティー分野での活用を進めつつ、民生分野ではエネファームを含め利活用を拡大する方向性を示している。
今や世界が注目する水素だが、そのきっかけの一つが私どもが18年から開いている水素閣僚会議だ。今年度はコロナ禍、オンライン開催したが23カ国・地域、民間からも約25社が参加し盛況だった。登録者数は約2800人と昨年の4倍以上、動画視聴回数も延べ8000回超と海外からも多く視聴してもらった。
背景には、脱炭素化の切り札として水素が認知されていることがある。欧州委員会はコロナ禍における経済復興パッケージの中で、水素の活用を柱の一つに位置付けた。欧州を中心にカーボンニュートラルの実現を旗印として政策を実現していく中で、オランダ、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランドがこの1年間に水素戦略を打ち出した。国際エネルギー機関の世界エネルギー見通しでも、50年のカーボンニュートラルの世界実現には水素の生産量を現状の約百倍に高めなければならないとしている。
石田当社は04年に太陽光+蓄電池の防災住宅、11年には東日本大震災の計画停電を踏まえ太陽光+蓄電池+燃料電池の3電池連携住宅を発売した。太陽光だけだと晴天時しか充電できないが燃料電池は充電しながら使えるためほぼ普段通りの生活ができる。静岡県で停電が起きた際には、当社で建てた通常仕様の家に住む兄が、3電池仕様の弟の家を家族で訪問し、普段通りの生活ができることに感心されたそうだ。昨年と一昨年、大阪で台風が起きた時には800棟以上が停電時に電力供給できて喜ばれた。中には「燃料電池があるので携帯電話の充電ができます」と垂れ幕を出された方もいた。温暖化で自然災害による停電も増える中、ますます天候に左右されないエネファームのレジリエンス性能に対する評価が高まっている。エネファーム住宅が増えれば、街全体のレジリエンス性能の向上にも貢献できると思う。
また、脱炭素社会では、クリーンな分散型発電というのが非常に重要となるため、この面でも燃料電池の位置付けは上がってくるだろう。
・530万台へ課題
柏木わが国では「水素燃料電池戦略協議会」と「強靭化基本計画」に燃料電池の活用を掲げ、何があっても災害に強い日本を目指している。スマートな都市づくりと強じん化を同時に進めており、エネファームを含めたこのパッケージの輸出も可能だろう。
そういう意味で期待度は非常に大きく、30年に530万台という目標は不可能ではないと考える。現在の普及台数は約33万台だか新設着工数の半分40万戸に毎年入れば、これが加速すると思うからだ。
白井エネファームの初期需要の創出に、国は補助金を助成してきたが、レジリエンスに対する評価の高まりから自立的普及段階に入ってきたと捉えている。高度な利活用では分散型電源としての普及を促進していく必要があると考えている。コスト面の問題では技術開発支援も行っている。エネファームについては今後、分散電源として住宅や地域のレジリエンス強化への貢献、VPPとして電力の需給調整への活用が期待されるほか、日本が誇る技術の一つとして、水素に対する関心が高まる世界でも導入が進むことを大いに期待している。
石田年4万台の普及ペースを40万台へ引き上げるにはコスト低減が必須だ。コストに関しては売れないから下げられない、下がらないから売れない、という卵と鶏の状態が続いている。この流れを変えなければいけない。コスト低減は量産化を意味する。国として1企業1ラインに補助金を出すのは難しいのかもしれないが、一回安くなれば海外でも売れ、台数が増え、コストダウンが加速するという好循環に入る。日本はいつも技術で勝ってビジネスで負ける。世界トップの燃料電池分野も、いつ中国にとって代わられるかもしれない。今回はそれを阻止して、ぜひ世界で燃料電池を売ってほしい。
柏木将来的にVPPはエネファーム設置住宅に収入をもたらすだろう。今までエネルギーの消費者でしかなかった住宅が、人が必要とする時に自分の家をうまくコントロールし、電気を売ってキャッシュを得る。そういう良い循環を生む制度設計がうまくリンクすると、一挙にエネファームに対する期待は高まってくると信じている。
〇暮らしの未来シンポジウム/パネルディスカッション2
【テーマ】ウィズコロナ・アフターコロナで変化する新たな時代の「暮らし」のゆくえ
・トレジャーデータエバンジェリスト/consulting&more代表若原強氏(パネリスト・東京大学工学部、同大学院工学系研究科修了後、システムインテグレーター、戦略コンサルティングファームなどを経て2019年トレジャーデータ入社。現在データを活用した社会変革の拡大に従事。前職のコクヨではワークスタイル研究所所長を務め、働き方・暮らし方のトレンドを研究。自身のコンサルタント事業は3期目を迎え、複業家としても活動)
・早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授・工学博士田辺新一氏(パネリスト・専門は建築環境学。早稲田大学理工学部建築学科、同大学大学院修了。デンマーク工科大学研究員、カリフォルニア大学バークレー校研究員、お茶の水女子大学助教授、早稲田大学理工学部建築学科助教授を経て2001年から同大学教授。日本学術会議会員、空気調和・衛生工学会前会長。主な著書に「ゼロ・エネルギーハウス」(萌文社)など)
・SPEAC共同代表/東京R不動産ディレクター林厚見氏(ファシリテーター・東京大学工学部建築学科、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。マッキンゼー&カンパニー、国内の不動産デベロッパーCFOを経て、2004年から現職。不動産セレクトサイト「東京R不動産」や「toolbox」のほか、建築と地域の開発・再生のプロデュースや、宿泊施設、広場、飲食店舗等を運営する。東京大学工学部、早稲田大学創造理工学部で非常勤講師を務める)
・変化をチャンスに
林私は「社会課題と事業課題を空間と仕組みのデザインで解決する」をテーマに事業を手掛けている。
「東京R不動産」は不動産セレクト仲介サイト。古いが趣のある建物などを紹介している。建物や設備のスペックではなく風情や情緒など、今までなかった切り口で物件を提案しており、不動産の新しい価値創出につなげている。このサイトから派生した「toolbox(ツールボックス)」は、オンラインショップでオリジナリティのある内装建材や家具パーツの販売などを行っている。
公共施設を民間事業者に活用してほしい自治体と利用したい民間事業者のニーズを受けて始めた「公共R不動産」では、廃校や公園などのデーターベース化のほか、マッチングイベントなどを開催している。
共同事業として携わっているのが定額制の多拠点居住プラットフォーム「ADDress(アドレス)」だ。月額4万円で全国各所にあるリノベーションした空き家や別荘に宿泊・居住が可能で、今後拠点を増やしていく。
コロナ禍で生活様式の変化が予想以上に進んでいくだろう。多拠点居住やシェアオフィスなど一部の人たちだけに限定されていたライフスタイルが広がれば、15年後には別世界になっている可能性がある。そういった社会を想像し、ニーズに合った商品やサービスを実現させることが企業にとってビジネスチャンスになる。
・健康・強じんな住環境
田辺コロナ禍でオフィス勤務と在宅勤務の両立など働き方が大きく変わった。この二つの勤務形態について企業と共同研究を行ったところ、在宅勤務ではコミュニケーションの不足を感じている人が多かった。一方、アイデア創出や業務への集中力はオフィス勤務と同程度などという結果となった。
暮らし方も変わり、在宅時間が多くなった。しかし、古い住宅に住んでいる場合、断熱性が低いことが多い。世界保健機関は、健康面での暖かさと断熱性の重要性をまとめた「ハウジングアンドヘルスガイドライン」を公表し、冬の室温は18度以上を保つことなど快適で健康性の高い冷暖房が必要だと指摘している。
レジリエンスについては今年8月、大阪ガスなどと停電を想定した共同実験を同社の実験集合住宅NEXT21で実施。全10戸34人が48時間参加し、停電時にエネファームを使ってどのくらい電気や熱を利用できるのかを実証した。その結果、エアコンや冷蔵庫などの家電が使えることが分かった。
コロナ後の社会は超分散化、デジタル化、脱炭素化が一層進む。住宅関連サービスも住み心地や快適さに加え脱炭素化に向けた投資が必要だ。
・暮らしの分散化
若原当社が取り組むのが、さまざまなテクノロジーを活用したコンセプト住宅「OUTPOST(アウトポスト)」プロジェクトだ。
特徴は二つ。一つはオフグリッド(送電網等につながっていない状態)でインフラ環境がない場所でも自家発電設備などを活用し熱や電気、水を使用できることだ。たっぷりのお湯でお風呂に入れトイレも使え、空調も保たれる。
もう一つはコネクテッド(通信のつながる環境)で、人里離れた場所でも見守り機能を設置し、異常を検知した際は病院や警察に通報するなど、住人の安全を担保できることだ。
このように、大自然の中でも都会と同じ住環境で暮らすことができ、住人の生活をモニタリングすることで健康で豊かな暮らしを実現する。このプロジェクトによって、人々の暮らしは本来どのくらい分散しているべきなのかという問い直しのきっかけになればいいと考えている。
コロナ禍でオフィスの在り方が見直され、働く場所の選択肢が増えた。さまざまな選択肢の中から自分に合った働き方を組み合わせることで、暮らし方を最適化できるのではないか。
・加速する暮らしの変化
林コロナの影響で暮らし方が根本的に変わったというよりは、変化が加速されたように思う。
田辺孤立化が加速したのではないか。人は心身共に健康でいることが大切だが、コロナ感染による重症化リスクの高い高齢者は友人や親戚に会う機会が減り、孤立を感じている。心の健康のためにはデジタル技術等を活用し、孤立化を防ぐことが重要だ。
若原働き方についても孤立化が進んでいる。オンラインでできる仕事が増えた一方、同僚と顔を合わせる機会が少なくなった。対面コミュニケーションが不足すると雑談で生まれていたアイデアが減り、その結果、組織の弱体化につながるのではないかという懸念もある。仕事の効率化は必要だが、リアルの場も必要と考える。
田辺在宅勤務によって自宅の暖房や日当たりなど住環境の見直しを考えた人が多い。オフィスは画一的な環境に大勢の人が過ごす。一方、自宅は暮らしやすく働きやすいように自分で快適な環境に調節できる。
若原暮らし・住まいの快適化にデータが生かせる。住人の行動分析を行い、これらのデータを活用してスマートハウスやエネルギーマネジメントなど暮らし方、住まい方にフィードバックできる。一方で、データに全てを決めさせるのではなくデータは快適に暮らすための判断材料にし、最終的にはどういった暮らし、住まいにするのかを自分で決めることが大切だ。
林確かに人の定めた価値基準で選ぶと自分の選択は正しかったのか不安にかられてしまい、幸福にたどりつかない。暮らし方や働き方を能動的に選択する事で快適さや幸福につながるのではないか。
・選択を促すには
林日本の住宅のあるべき姿や政策の話は、ネガティブな情報よりも楽しさや気持ち良さといったポジティブな体験を伝えた方が、訴求力があると考える。明日が楽しくなるというワクワク感を打ち出せるといい。
田辺日本の住宅の多くは冬になると室内が寒く感じられる構造になっており、健康を害するリスクもある。例えば、脱衣所と浴室との温度差で心筋梗塞など重篤な病気を引き起こす「ヒートショック」は、1年間に1万7000人が亡くなっている。適切な温熱環境を広めるためには危険だからダメというよりも、快適な暖房や環境がある生活は人生を楽しくするといった視点で話をした方が効果的かもしれない。
若原自分の暮らしをもっと楽しく、豊かにするには能動的に選択することが重要だ。住宅地に住まなければならないとか、家族構成から暮らし方はこうあるべきとか、そういった固定概念を取り払って家族が楽しく暮らせる方法を議論する必要がある。
・新サービス創出へ
林災害に対する不安は10年前に比べて明らかに高まっている。
田辺これまで住宅をめぐる災害は地震や火災が多かったが、近年は水害が増加した。災害の変化に対応したレジリエンスを考えなければならない。レジリエンスは非常に大きなサービス価値を持っており、ニーズがある。
林企業が新たなサービスを提供するには頭の切り替えが必要だ。不動産分野では、特に郊外に空き家が増えている影響で住宅の価値が下がることが予想される。一世帯が一つの住居を所有するというこれまでの考えでは市場が縮小していくが、発想を変えると多くの住宅を使った新たなサービス創出のチャンスと捉えられる。
若原これまでの考えから脱却するには多くのハードルが存在するが、このハードルをどう解決していくかということにビジネスチャンスがある。脱却した先にある豊かさというのは非常に楽しみだ。
林今後は、人口流出などにより住民サービスが低下する街が増えるだろう。その中で、住民がお互いに暮らしを作っていくための仕組みが必要だ。ガス会社は地域を地盤に事業を行っており、住民ネットワークなどサービス提供のインフラを持つ。社会変化に対応した付加価値サービスの提供が期待される。
〇ウィズガスCLUBの主な活動
(1)政策提言—ウィズガス住宅の提唱(2)情報発信—シンポジウム開催、住生活イベントへの出展(3)社会貢献—クッキングコンテストの開催(4)環境貢献—ブルー&グリーンプロジェクトの推進
ウィズガスCLUBはガス、住宅、キッチン・バス、ガス石油機器の4業界が参加するコンソーシアムだ。2005年10月、都市ガス、LPガス、旧簡易ガスのガス3団体が立ち上げた日本ガス体エネルギー普及促進協議会(コラボ)が中心となって、06年6月に設立した。
「人々の豊かで潤いのある暮らし」の実現を基本方針に掲げ、(1)政策提言(2)情報発信(3)社会貢献(4)環境貢献—活動に取り組んできた。
政策提言では「ウィズガス住宅」を提唱。快適で環境性に優れ、家族団らんをもたらす住宅を最新の省エネ住宅・ガス機器でかなえようという構想だ。情報発信では18年まで「ウィズガスCLUBシンポジウム」を、昨年からは「暮らしとまち未来会議」を開催。今年はコロナ禍で中止となったが国土交通省が推進し、住宅生産団体連合会が取り組む10月の住生活月間中央イベントにも出展してきた。
社会貢献では食育をテーマに「ウィズガス全国親子クッキングコンテスト」を開催している。07年度から毎年、全国のガス事業者が募集活動に従事し、19年度の応募総数は5万8402組に達した。コロナ禍に見舞われた今年度は代替策として、親子で楽しく作れるレシピと動画を公開した特設サイト「ウィズガスおウチで親子クッキングチャンネル」を11月24日に開設。調理を通じ、親子のコミュニケーションを深め、家庭での食育推進を促す狙いだ。
環境貢献では、ベターリビングが主催する「ブルー&グリーン(B&G)プロジェクト」に協賛する。この取り組みは06年6月に「BL—bsガス給湯・暖房機」に認定するエコジョーズ、エネファーム、エコウィルの出荷1台につき1本をベトナムに植樹し、省エネガス機器の普及と植樹によるダブルの温室効果ガス削減を図る活動として始まり、15年度からは東日本大震災で津波被害のあった岩手県陸前高田市の名勝「高田松原」の再生支援事業に取り組んでいる。
〇まちの未来シンポジウム
基調講演/分散型エネと面的利用
まちの未来シンポジウムは、コージェネレーションを主体とする分散型エネルギーシステムの環境性やレジリエンス性の価値、それをまちづくりに生かす方向性を示す講演で構成した。2者の都市ガス事業者が自治体と連携した取り組みを発表した。
日本ガス協会の沢田聡専務理事は「このシンポジウムは日本ガス協会が事務局を務め全国10エリアで活動している官民連携のプラットフォームであるコージェネレーション・地域エネルギーシステム協議会の取り組みが母体となっている。まちづくりと一体となった地域エネルギーシステムの構築が求められており、その担い手に地域の生活や産業を支える都市ガス事業者は最適。ガスだけでなく地域の多様なニーズに合わせ、さまざまな関係者と協力して取り組むことが必要だ」と開催趣旨を説明した。
経済産業省資源エネルギー庁の下堀友数ガス市場整備室長は「ガス市場整備室では2050年のガス事業の在り方について研究会で議論を進めている。ガスの強じん性や、分散型エネルギーシステムを活用したエネルギーの面的利用によって省エネと脱炭素化に貢献できることが強みだと認識し、今後のエネルギー政策に生かしたい。ガス事業者や自治体、不動産事業者などの関係者の皆さまと連携し、まちぐるみで分散型システムの整備を進めることが持続可能な社会につながる」とあいさつした。
同庁省エネルギー・新エネルギー部の山口仁政策課長兼熱電併給推進室長は「昨今の情勢変化を踏まえたエネルギー政策の検討と分散型エネルギーの推進」をテーマに、基調講演を行った。
山口課長は、再生エネルギーの主力電源化を進める上で、分散型エネルギーシステムの重要性が増していると説明。より環境性の高いエネルギーを求める需要家ニーズが高まっていることや、レジリエンスの観点の広がりが分散型エネルギーシステムの普及を後押ししていると述べた。
分散型エネルギーシステムの整備を進めるために政府が進めるエネルギー供給強じん化法や地域マイクログリッドの構築支援策、各種の実証事業、エネルギー基本計画の改定作業などに取り組んでいることなども紹介。ガス事業者に対して「これまでの地域密着の実績を生かしながら、分散型エネルギーの普及推進役の中心として活躍してほしい」と期待を語った。
国土交通省都市局の菊池雅彦市街地整備課長も「国土交通省におけるエネルギー面的利用に向けた取り組み」をテーマに基調講演を行った。
菊池課長は災害時のエネルギーの供給途絶による都市機能が停止するリスクの軽減のために、エネルギーの自立性の向上や多重化を推進することが必要と述べ、特に自立分散型面的エネルギーシステムを街区に導入することが、全体のエネルギー効率と防災性の向上の観点から、より効果的だと指摘した。
国交省は自立分散型エネルギーシステムの導入は都市開発と一体的に行うことが有効と考え、「国際競争拠点都市整備事業における業務継続拠点整備事業」で大都市におけるエネルギー導管等のネットワーク整備を支援している。菊池課長は、さらに地方都市にも導入を進めるためのコンパクトシティ化と一体的な取り組みが重要と述べ、次年度予算案の概算要求に「都市構造再編集中支援事業」を盛り込み支援する考えを示した。
・東京・北陸ガスが事例発表
東京ガスエネルギー企画部の清田修エネルギー計画グループマネージャー(GM)と北陸ガス営業部の田村鉄弥エネルギー企画GMは、自社の取り組みを紹介した。
清田GMはスマートなまちづくりに向けた官民連携の取り組みとして、コージェネと再エネ、情報通信技術を組み合わせ、環境性、レジリエンス性を実現した「田町スマートエネルギーネットワーク」(東京都港区)や「GREENSPRINGS」(東京都立川市)の事例を挙げた。
田町スマエネは港区と連携し、再開発に合わせて開発した。一方、GREENSPRINGSが立地する立川市は規模や人口減少のペースも全国の地方の中核都市と類似しているため、同様の取り組みを全国展開する際のモデルケースになるという。
田村GMは、国交省が地域の特色を生かしたまちづくりを支援するために創設した「シビックコア地区整備制度」を活用し、新潟県長岡市で行った防災力向上のための取り組みを説明した。
長岡防災シビックコア地区では、04年の新潟中越地震で被災した経験に基づき、市と連携して消防本部庁舎などの拠点施設に停電対応型コージェネ等を導入し、施設間でエネルギーを融通している。
最後に日本ガス協会の吉田範行天然ガス普及ユニット長が、今後のまちづくりにおける分散型エネルギーシステムの貢献を、多様な実事例を交えて紹介した。さらにコージェネ等の分散型エネルギーシステムの普及促進に向けた同協会の活動と、それらのシステムが将来的に脱炭素化社会に貢献していく絵姿を、都市ガスの脱炭素化の取り組みと合わせて解説した。