![【水素特集】水素STを技術で支える、車両・工業への供給も進む](https://www.gas-enenews.co.jp/wp-content/uploads/2021/11/20211115-tokusyu-part-3-4-pdf.jpg)
国は、燃料電池自動車(FCV)について2030年までに80万台、水素ステーション(ST)については25年度までに320カ所の整備を進める目標を定めている。さらに20年代後半までに水素ST事業の自立化を目指す目標を設定している。この目標に沿って、国内4大都市圏を中心に水素STの整備が進んでおり、ST事業の自立化に向けて、ST無人化を進める動きも出ている。10~11面では、水素ST、FCVの最新技術を支えるディスペンサー、水素製造装置、水素センサー、水素流量計、吸蔵合金水素圧縮機のメーカー、水素STを運営するエネルギー事業者の取り組みを紹介する。
〇自社コンポーネント充実へ、市場に合わせた独自製品開発で/タツノ
タツノの強みは計量器など水素ディスペンサー(充てん機)の主要な構成部品が自社開発製品であることだ。ノズルも、昨年から自社製に切り替え出荷している。ノズルまで自社製のメーカーはガソリン計量でも珍しいという。
ノズルに組み込まれるIR(赤外線)受光部についても以前は海外製であり、故障すると国内のノズルメーカーに送り修理するので時間がかかっていた。自社製への変更後は故障が発生しても、現地で迅速な修理対応が可能になった。
ディスペンサー本体や計量機などの構成部品を国内だけでなく、北米、中国、韓国にも販売しており、この4カ所を主要市場と捉え、それぞれの市場に合わせた製品展開を進めている。
国内市場は、水素ステーション(ST)の設置法令の規制緩和により2020年度に遠隔監視型無人セルフ充てんSTの設置が可能になった。これに対応するため、タツノはPOS(販売時点情報管理)のタッチパネルを組み込んだディスペンサーを発売し、既に10台出荷している。
ディスペンサーは爆発を誘引しない防爆構造であることが求められる。このため、通常はPOSシステムとディスペンサーは分離して設置され、利用者は料金精算のためにディスペンサーとPOSの間を行き来する手間がある。
しかし、タツノは独自技術でディスペンサーの一部を非防爆構造にしても爆発を誘引しない設計にして、非防爆構造部分にPOS機器を組み込むことを可能にした。ガソリン計量機で培ったノウハウで、水素STの設置が可能になった。POSシステムのタッチパネルが組み込まれた水素ディスペンサーは同社製のみだ。
水素事業部の小嶋務部長は「製品開発に加え、石油関連事業で構築したネットワークを生かし、設置工事やメンテなどにも注力する。メインの石油関連機器が、自社での開発、販売、設置、メンテナンスを基本にしており、それを水素ST関連機器で、どこまで実現させるかを今後検討していく」と話す。
一方、北米は環境意識が特に高い米国のカリフォルニア州が有望市場だ。
北米向けには1台のディスペンサーで2台の燃料電池自動車(FCV)に同時充てん可能なタイプをラインアップしている。内部に搭載しているコリオリ型流量計は、これまで分かれていた計測部と表示部(変換部)を一体にしてコンパクト化を実現。その結果、ディスペンサー本体に2台の流量計や充てん回路の搭載が可能になった。その結果、ディスペンサーの両側での充てんが可能になり、水素STのスペースの有効活用が実現した。
同社は米国にも既に販売拠点を置いており、同国の安全基準に基づく認証も取得済みだ。同社はディスペンサー本体の販売のほか、流量計やノズルなどの主要コンポーネントを現地のディスペンサーメーカーに供給している。
アジアでは、中国、韓国などにも、現地で要求される仕様に合わせた操作部などを組み込み、同社の拠点を中心に販売に注力していく。
〇コンパクトな新製品を投入、充てんシミュレーションも可能/トキコシステムソリューションズ
トキコシステムソリューションズは、自社の事業をエネルギーソリューション事業とインフラ・エンジニアリング事業の二つのセグメントに分けており、水素ディスペンサーの製造・販売などの水素ステーション(ST)関連事業は、インフラ・エンジニアリング事業に属している。
同社は圧縮天然ガス(CNG)用ディスペンサーでは国内トップシェアを誇っている。そのノウハウを生かし、2001年から水素ディスペンサーの製品化に着手。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業も含めて水素ディスペンサーの開発に取り組んできた。
同社の水素ディスペンサーの納入実績は、計画を含め、55カ所。それには東京オリンピック・パラリンピックで活用された東京ガス豊洲水素ST(東京都江東区)、東京晴海水素ST(同中央区)、東京高輪ゲートウェイ水素ST(同港区)も含まれる。
同社は従来機よりも体積を約2割削減したコンパクトモデルの新型ディスペンサーを発売、今年9月に初納入した。水素STのセルフ充てんが認可され、今後は無人化も検討される方向だ。無人化水素STの場合、複数のカメラで充てん作業などを遠隔監視して安全性を担保する。その際、カメラの死角を少なくするため、コンパクトなディスペンサーが求められる。
同社の設計開発本部の榧根尚之担当本部長は「コンパクト化の技術は、将来的に1台のディスペンサーに二つの充てん回路を搭載し、2台の車両に充てん可能なダブルタイプの商品化に役立つ」と説明する。
ダブルタイプは蓄ガス機など充てん機器の全体的な制御が必要になる。同社はNEDOの委託事業で研究開発に取り組んでいる。ダブルタイプは万一、一つの回路が故障しても、もう一方で充てん可能なため、ステーションの運営を継続できる。
新製品はコンパクト化するとともにガソリンディスペンサーと共通イメージとなるデザインを採用した。水素ステーションとガソリンスタンドの併設が増えてきており、統一性を持ったデザインのスタンド建設が可能になる。
多くのCNGスタンドの建設や設置にかかわった経験から、水素ST建設時の申請業務なども行う。水素STに顧客が充てんに訪れる時間、車両数などの事前予測に合わせ、関連機器の容量やレイアウトを決定するシミュレーションを得意とする。建設後は充てんされた水素の品質などが国際標準規格(ISO)に定められている条件に合致することの検査や、定期点検なども実施している。
海外向けの販売も昨年から開始し、12月に韓国へ1号機を出荷。今年は計5台を納入している。今年7月には中国の上海で開催された展示会に、1台で35メガパスカルと70メガパスカルのどちらの圧力でも充てん可能な水素ディスペンサーを出展した。中国では現在、35メガパスカルが主流だが、今後、70メガパスカルになると同社は期待している。中国には、ポンプや流量計などの部品は既に出荷している。
同社は静岡県掛川市に技術開発センターを設置しており、掛川駅に水素ディスペンサーの広告を掲示しているほか、同市コミュニティーバスのラッピング広告でも水素ディスペンサーをアピールしている。
〇東京オリパラで活躍、水素製造装置ハイサーブ/Daigasガスアンドパワーソリューション
コンパクト水素製造装置「HYSERVE」(ハイサーブ)は、大阪ガスが培った高性能触媒技術をベースに、都市ガスを原料として高純度水素を発生させることができる装置。水素ステーション(ST)や工場など現場に設置するオンサイトタイプで安価かつ省スペースなのが特徴だ。Daigasガスアンドパワーソリューション(DGPS)がハイサーブの製作と水素STへの販売を、工業用ユーザーへの販売は大阪ガスリキッドが担当している。
ハイサーブは製造した水素を東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(オリパラ)の大会用車両として使用された燃料電池自動車(FCV)に供給することで活躍した。DGPSは、ENEOSが開所した東京大井水素ST(東京都品川区)と東京高輪ゲートウェイ水素ST(同港区)の2カ所にハイサーブを納入した。
ハイサーブ300を2台設置している東京大井水素STは、JERAが運営する大井火力発電所敷地内にある。オリパラで使用されたFCVへの水素供給のほか、首都圏のオフサイト型水素STへの水素出荷機能を有している水素STだ。
一方、ハイサーブ300を1台設置している東京高輪ゲートウェイ水素STは、オリパラで使用されたFCVへの水素供給を行っただけでなく、災害時には、FCVなどの燃料電池を非常用電源として使用することが可能であり、地域の防災力強化と先導的な環境都市づくりに貢献する拠点と位置付けられている。
同社エンジニアリング事業部の西田隆一事業開発部長は「特にオリパラ期間中は、水素ST事業者様にご迷惑をおかけすることのないよう、万全の準備をしていた。事業者様をはじめとした関係者の皆様のご協力のおかげでトラブルもなく安定操業できたことで、国としての水素社会への取り組みのPRに貢献できてよかった」と話している。
〇5立方㍍タイプを開発、メルマガ利用で認知度向上へ/大阪ガスリキッド
ハイサーブの導入コストや管理コスト、手間を減らすため、大阪ガスリキッドは20年近くの間、保守契約付きリースの形態でハイサーブ販売を行っており、機器改善と信頼性向上に取り組んできた。従のハイサーブ30、100、300に加え、比較的小規模工業用ユーザー向けに毎時5立方㍍のハイサーブ5を単独開発し、販売を行っている。
ハイサーブ5は燃料電池(FC)フォークリフトを7~8台充てんに適した能力であり、FCフォークリフト採用を検討しているユーザーに対する提案も強化している。トヨタ自動車の元町工場(愛知県豊田市)はFCフォークリフトを約200台使用しており、水素充てん用にハイサーブ30を2台導入している。
大阪ガスリキッドはコロナ禍の影響で、減少している対面での営業活動を補うため、今年6月からメールマガジンの配信を始めた。
水素ソリューション部企画チームの石川眞穂華氏は「ハイサーブユーザーの現場の声の紹介をメインコンテンツに、水素製造の仕組みや、当社の特徴である人工知能(AI)を活用した故障の予兆監視システムの解説など、興味を持ってもらえるよう内容を考えている。年に4回発行する予定」と話す。
同社がハイサーブを納入したユーザーでは機器故障による水素供給停止はない。それを支えているのがこれまでの改良とAI活用の故障予兆監視システム。ハイサーブの作動温度や圧力等の変化のトレンドを遠隔監視し、プログラムで今後起こる可能性が高い故障を検知する。故障発生前に調整作業や部品交換を実施することで、水素供給停止を未然に防いでいる。
同社は12月15~17日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される半導体関係の展示会「セミコンジャパン」にハイサーブ5を実機展示する。
内田睦水素ソリューション部長は「工業用ユーザーに対するハイサーブの認知度はまだ上がる余地が大きい。コロナ禍で直接お会いできなかったお客さまにお越しいただき、実機を前にしてハイサーブの特徴をアピールしたい」と話している。
〇23年度に水素ST国内83カ所へ、運営コスト削減への取り組みも/岩谷産業
岩谷産業は、国内53カ所の水素ステーション(ST)を展開している(国内全ST数は155カ所)最大手だ。23年度までにはさらに30カ所増やし、83カ所とする計画だ。岩谷産業は、米国でも4カ所の水素STを展開しており、数年間で20カ所程度まで増やす予定。今後も、国内外の知見を生かしながら、水素STの運営・建設を進め、水素ST自立化に向け、水素ST運営コスト削減のための取り組みを進める。
水素STの低コスト化に向けた取り組みの一つとして、遠隔監視による無人化が検討されている。岩谷産業は「無人化に必要な遠隔監視システムは、近々導入する予定。充てんはセルフ方式で、FCVの運転者にやってもらう考えだ。ただ、日常点検などの必要性から、完全な無人化はまだ時間がかかる。しばらく各水素STに担当者を常駐させることになるが、将来は各STを原則無人化し、近隣の基幹STに担当者を常駐させ、何かあれば駆け付ける方式をとりたい」(水素本部寺岡真吾水素ガス部長)という方針だ。
これまで開設した53カ所の水素STは、1カ所を除き全て別の場所から水素を運び込むオフサイト型だ。水素ST向けの水素は、輸送・貯蔵効率の高い液化水素によるローリー供給が多いとのことだが、同社は、岩谷瓦斯千葉工場(千葉県市原市)、ハイドロエッジ(大阪府堺市)、山口リキッドハイドロジェン(山口県周南市)の3工場で液化水素を製造している。寺岡部長は「水素STが商業的に成り立つにはステーション1カ所あたり700~1000台のFCVユーザーが必要になる。これを実現していくには、トレーラー(長尺容器を複数本束ねたもの)を毎日運送するのでは難しく、液化水素で供給する方法が適していると考えている」と話す。
再生可能エネルギー由来のグリーン水素への対応も進めている。今年8月に開所した「イワタニ水素ステーション仙台空港」(宮城県岩沼市)は、福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)において太陽光発電による電気で水を電気分解し製造した水素を供給し、FCV充てん用に利用している。専用の圧縮水素トレーラーで1回に2000立方㍍の水素を輸送している。岩谷産業は国内ではFH2Rでのグリーン水素製造に加えて、北海道の褐炭を利用したブルー水素の製造等の検討を開始している。さらに、海外では、豪州の褐炭を活用した水素サプライチェーンの実証を進めるHySTRAに参画している一方、グリーン水素についても、海外からのサプライチェーンを構築する考えだ。
同社が直近で開設した水素STは、仙台空港、埼玉川口、東京東久留米、長野北長池、浜松インター、広島西、熊本南でいずれも8月8日の開所だ。さらに今年度は、和歌山南インターと東京羽村を開所する予定だ。現在、全国で運用する水素STの水素供給能力は小型の100N立方㍍/時から大型の900N立方㍍/時まで範囲がある。同社は将来、大型トラック等の商用車向けの需要が増加してくると考えており、大型トラックの充てんにも対応できるような充てん能力を持つ水素STの設置を進めていく。
〇水素ディテクタを製品化、MIRAIへ搭載/新コスモス電機
新コスモス電機は、昨年12月に販売を開始したトヨタ自動車の燃料電池自動車(FCV)新型「MIRAI」に、水素の漏えいを検知し警報する車載用水素センサー「水素ディテクタ」の搭載が決まり、供給を開始した。新コスモス電機は、これまでにも水素ステーション(ST)のディスペンサーや蓄圧器、建屋に設置する警報器などを販売しており、8割強の高いシェアを持っている。さらに水素ディテクタがFCVに搭載されることになり、同社の水素インフラ関連への貢献度が高まっている。
水素ディテクタの設置個所は、水素タンク周辺に2カ所、車体フロント部分に1カ所の計3カ所だ。万一、水素漏えいがあれば、数秒で検知し運転者に警報すると同時に、水素タンクの元弁を遮断し、FCVは停止する仕組みになっている。
水素ディテクタの営業を担当する執行役員営業計画推進部の岩見知明担当部長は「車載センサーはあまり経験がないなかで開発を進め、チャレンジングな部分も多かった」と話す。
新コスモス電機が、水素ディテクタの開発に着手したのは2008年。2015年にトヨタ自動車から新型ミライ用の開発委託を受けて、約3年半をかけて製品化を実現した。
高圧ガス保安法で定められている水素センサーの応答速度は30秒以内だ。しかし、FCVに搭載する場合は、乗用車であるため、より安全性が考慮され、水素漏えいを数秒以内で検知する性能が求められた。さらに車両の寿命に合わせ、15年の耐久性も要求された。
今回、水素ディテクタが搭載されたミライは第2世代車だ。第1世代車は他社の製品が搭載されていたが、第2世代車では、さらにコストを3分の1に落とすことにも成功し、トヨタ自動車からは評価されたという。
これまで同社の警報器やセンサー関連の製品は、手作業工程があった。水素ディテクタについては、製造工程を見直し、完全自動化の製造ラインを作ったことで、コストダウンを実現した。製造工程の品質向上のための多くのアドバイスをトヨタ自動車から受け、製造ラインに生かすことができた。
水素ディテクタは、海外を含め、複数のFCVへの搭載を目指していく考えだ。
水素STは、国が2025年度に320カ所の設置目標を示しており、毎年、設置が進んでいる。水素ST関連の製品では、KD—12、PD—12などが好調だ。KD—12は、漏えいした水素を検知する拡散式で、設置場所は蓄圧器のパッケージ、圧縮機本体、ディスペンサー内などだ。
PD—12は、本体から離れた場所の空気をホースなどで吸引して水素を検知する吸引式だ。主な設置場所は、水素ディスペンサー内部で、充てん用ホースのカップリング部(FCVの充てん口との接続部)の水素漏えいを監視する。
〇液化水素流量計開発に挑戦、複数の計測原理で検討/オーバル
オーバルは、コリオリ式、容積式、熱式、渦式など多様な計測原理を採用した水素流量計をラインアップする。新たな市場が期待される水素の計測分野開拓に向けては、2025年を目途に、液化水素の流量を計測できる流量計の開発を進めようとしている。
現在、国内で流通する水素は、ローリー車両で圧縮水素の状態で出荷され、水素ステーション(ST)や工場、研究所などに供給されている。将来は、海外からも大量の水素供給が行われる予定だ。取締役兼執行役員の加藤芳樹営業本部長は「将来は、豪州やカナダ等から大量の水素が輸入される。輸入基地から液化水素、高圧水素の形態でコンビナート周辺の発電所、製鉄企業、石油精製、化学プラントなどに供給されることになる」と、水素バリューチェーンの将来像を予想する。
オーバルは、5種類の計測原理で8機種の水素流量計をそろえている。
超高圧形のコリオリ流量計は、地球の自転作用で北半球では台風が左巻きになるといった慣性力(コリオリの力)を利用し、質量流量を計測する。70メガパスカルなどの高い圧力での使用が求められる水素ステーションで採用が進んでおり、現在稼働中の水素ステーションのうち約14%で採用実績がある。
容積流量計は、流体により回転子(歯車)を作動させ、回転子の回転数から流量を算出する。同社では取引用として多くの実績がある。
熱式質量流量計は、流体の中にヒーターを設置し、その上流と下流の2点で流体温度を計測し、2点間の温度差で質量流量を割り出す。同社の熱式質量流量計として、マスフローメーター「504FTB」を製品化している。実験用として微量の水素の高精度計測、水分を含んだ水素の計測にも対応できることから、燃料電池関連の研究機関などで多くの採用実績がある。
渦流量計は、液体・気体・蒸気のいずれも計測でき、幅広い流量に対応できる特徴がある。流体の中に柱状の障害物を置くと、下流に交互に渦が発生し、この渦の個数を検出することで流量を計測する。
オーバルは、将来の水素大量導入に合わせて、液化水素取引用流量計の開発を進めようとしている。「液化水素の流量計測は難易度が高く、まだ製品化されていない。当社は新たなチャレンジとして、渦流量計で開発を進めているが、ほかの測定方式も含めて検討を進める」(加藤取締役)という。
また、水素のキャリアとしてアンモニアへの期待も高まっている。火力発電の燃料としてアンモニアを混焼させる取り組みも進んでいる。これに伴い、同社には、アンモニア計測用途の流量計の引き合いも来ている。同社は、複数の水素キャリアへの対応も進めながら、液化水素への対応を主体とし、流量計開発を本格化させていく。
〇製造能力高め商用化、吸蔵合金水素圧縮機/三菱化工機
三菱化工機は、神戸工業試験場、那須電機鉄工、ダイテック、広島大学、四国産業・技術振興センター、グリーンエネルギー研究所と共同で、水素吸蔵合金(水素を取り込む性質の合金)を用いた吸蔵合金水素圧縮機の開発を進めている。現在、実証機では工業用として流通する水素の圧力(19・6メガパスカルG)に昇圧できる。水素製造能力を現在の30倍の30N立方㍍/時までスケールアップさせ、2025年度の商用化を目指している。
吸蔵合金は、低温時に水素を吸蔵し、加熱することで水素の吐出・昇圧が可能だ。吸蔵合金水素圧縮機は、従来の機械式圧縮機に比べ、吐出・昇圧に関する機械的な駆動部分が不要となり、メンテナンス費を低減できる可能性がある。吐出・昇圧に必要な温度は現状では約250度としており、工場の排熱を利用することを想定する。また運転音が従来の機械式の70~90デシベルから、ほぼゼロになるため、住宅地の近隣でも設置できるメリットもある。
概念設計、基本・詳細設計サポートなどを担当する神戸工業試験場の鶴井宣仁専務は、「商業化に向けた取り組みを進める中で、熱交換性能の向上やスケールアップに取り組んでいる。当初は250度としていた作動温度を200度程度に下げても同じ機能を発揮できるよう取り組みを進めている」と話す。
水素吸蔵合金の製造を担当する那須電機鉄工の徳山榮基・研究開発部副主管は「作動温度をさらに、低い170度をターゲットに技術開発を進めている」という。170度の温度まで利用できれば、吸蔵合金水素圧縮機自体の効率も向上し、工場での排熱利用の幅が広がることになる。
現在の実証機の吸蔵合金水素圧縮機の能力は1N立方㍍/時だが、これを30立方㍍/時まで高めるには、水素吸蔵合金の使用量も30倍の約300~500㌔㌘程度に増やす必要がある。那須電機鉄工は、レアアースに比べ安価な鉄チタン合金を使った水素吸蔵合金を大量製造できる生産体制を備えており、大量製造によりコストを低減できる見込みだ。従来、水素吸蔵合金はランタンなどのレアアースを使うケースが一般的だったが、同社は、鉄チタン合金を使うことで大幅なコストダウンが期待できる。
共同開発を手掛ける各社の開発により、まずは吸蔵合金水素圧縮機の能力を30~50立方㍍/時の製品を商用化する。さらに開発を進め、将来的には、水素ST向けに300N立方㍍/時までスケールアップした製品を投入できればと考えている。
現在、水素STで使用される水素圧縮機は機械式だ。FCVへの充てんに必要な82メガパスカルGまで昇圧するには、5→20→82(メガパスカルG)と段階的に圧力を上げていく。この作業行う際、低圧部分(5→20メガパスカルG)の効率が低いことが指摘されている。低圧部分を吸蔵合金水素圧縮機、20メガパスカルG以上の昇圧を機械式の水素圧縮機と役割を分担することで、効率改善につながるとみている。
三菱化工機企画部岩井浩一主幹は「今後は、産官学の体制で実証を進めていきたい。地産地消のメリットが出せるような実証フィールドを現在探している」としており、商用化に向け、実証試験を本格化していく方針だ。