日本ガス協会は、2023年度の技術大賞2件、技術賞12件(ガス技術部門8件、サービス技術部門4件)を決定した。業務用では、ガス導管内露点・圧力遠隔管理システム、都市ガス・水素バイフューエルバーナ、ガス火力発電量予測技術の確立と実運用、埋設管照会支援システムなど、家庭用では、家庭用スマートメーターの開発など幅広い分野の技術・製品が対象となった。技術大賞、技術賞の概要を紹介する。技術大賞・技術賞の表彰式は11月7日、東京都中央区のベルサール東京日本橋で開催するガスイノーバの中で行われる予定だ。
●ツナガルde給湯器を活用したデジタル接点強化―大阪ガス、大阪ガスマーケティング、オージス総研
ツナガルde給湯器は、無線LANルーターでインターネットに接続し、スマートフォンで湯張りや床暖房などを操作できる給湯器。アプリやリモコン画面に災害時の注意喚起、便利なガス機器の使い方などを配信する機能を備える。給湯器の運転状況をインターネット経由で常時監視し、異常発生時は顧客のスマホに通知する。リモコンの専用スイッチで大阪ガスの駆け付けサービスを呼び出すこともできる。
○開発経緯
社会のデジタル化が進展する中、ガス業界においても給湯器のIoT対応が進んでいる。そのガス給湯器を単なるガス消費機器としてではなく、顧客とのデジタル接点として捉え、ガス会社が従来から持つ地域に密着したサービス体制や暮らし周りのサービス等と連携させることで、リアルとデジタルの垣根を超えたさらなる安心、便利を顧客に届けることを目指して開発した。
IoT給湯器から取得できるさまざまなビッグデータによって深いレベルでの顧客理解が進んでおり、適切でタイムリーな顧客提案が可能となる環境が整いつつあるため、その実現を目指し開発に取り組んだ。
大阪ガスでは2016年4月エネファームでIoTを活用したサービスをリリースしたのに続き、17年10月からガス給湯器でのIoTサービスをリリースした。大阪ガスブランドのIoT対応ガス給湯器を「ツナガルde給湯器」という名称で販売している。17年当初は新築分譲集合向けの給湯暖房機からIoT対応を始め、その後、戸建向けやふろ給湯器へのラインナップ展開をしてきた。新築分譲集合住宅におけるツナガルde給湯器の採用率や、サービスショップでのツナガルde給湯器の販売率は高い水準にある。
現時点でツナガルde給湯器をインターネット接続している顧客は約7万件となっている。このデジタル接点を拡大する取り組みは今後も加速していく方針だ。デジタル接点の特徴として顧客とのつながりが「直接」「継続的」という2点が挙げられる。その特徴を生かし給湯器購入から経年、買い替えまで、満足・安心して給湯器を使ってもらうことをデジタル技術でさらに充実させていく。
都市ガス事業において、家庭用の給湯、暖房ガス需要は何十年にわたり収益の屋台骨であり、給湯器のIoT化はこの需要をデジタル技術と相性良くすることを意味している。
ツナガルde給湯器のサーバーシステムは他ガス事業者でも安全に利用できるよう構築されており、大阪ガスに依頼があれば個別、カスタマイズ含め対応している。
IoT対応の給湯器およびペアリングされたアプリを顧客とのデジタル接点と捉え、以下の付加価値機能の開発とリアルとデジタルをつなぐサービス開発を行った。
(1)スマホアプリによるふろ、床暖房、浴室暖房乾燥機の遠隔操作機能、エネルギーの見える化機能。
(2)アプリやリモコン画面へのプッシュ通知による情報配信機能(災害時の注意喚起、便利なガス機器の使い方、イベント案内等)。
(3)リモコンに専用スイッチ(ツナガルスイッチ)を搭載し、住まいの困りごと駆け付けサービスを容易に呼び出せる機能。
(4)APIで他社のスマートホームサービスから給湯器を操作したり、機器データを他社サービスに提供する機能。
(5)給湯器の燃焼頻度やお湯や温水暖房の利用状況に基づき、機器の経年状況をユーザーに知らせ買い替え時期を示す機能。
(6)給湯器リモコンのソフトウェアを遠隔で更新する機能。
(7)給湯器内部の詳細な運転データや、故障発生時のドライブレコーダデータを取得することで、メンテナンス効率化や今後の商品仕様検討などに活用することが可能になる。
●「ガス導管内露点・圧力遠隔管理システム」の開発―西部ガス、北海道ガス、京葉ガス、大多喜ガス、大分ガス、宮崎ガス、日本ガス、武州ガス、北陸ガス、静岡ガス、広島ガス、Braveridge
ガス導管内露点・圧力遠隔管理システムは、ガス導管内の露点(温湿度より算出)、圧力を測定し、LPWA(省電力広域通信技術)を用いて安価な通信コストで、インターネット環境があれば、場所を選ばず計測データを確認できる。
システムは、ガスメーター立管部等、ガス導管のネジ部に設置するセンサーユニットと、通信方式を選択できる通信ユニット、設置場所や計測頻度等を設定・管理可能なアプリケーションで構成される。
システムのセキュリティーに関しては、システム専用の回線を用いて閉域網となっており、高い安全性を確保している。
主な使用用途は、差水による滞水箇所の調査やサンドブラスト等の差水原因箇所の面的な調査、法定圧力箇所等の経時的な導管内の圧力監視となる。
露点や圧力といった計測したデータに関しては、GPSを利用して地図上に容易に表示でき、また経時的な変化をグラフと、閾値トリガー通信機能等で管理可能だ。
差水による不具合は、滞水箇所や原因箇所の特定が困難であり、複数箇所の道路掘削を伴うことが多く、修繕・復旧作業が長期化し、対策コストが高くなっている。
また、対策完了後も再発がないことを一定期間確認する必要があり、作業員が計測器を持って現場を定期的に巡回することが必要となることから作業負荷・作業コストが高くなる要因となっている。
そこで、差水による不具合対応の効率化とコスト削減を目的に、現場設置が可能で、ガス導管内の露点を遠隔で計測・監視できる安価なシステムを開発した。
装置の原理・構造
耐ガス性を有した温湿度センサーの計測値から露点を算出することで、高価な露点センサーを使用することなく、従来型の露点計と同等の精度を確保している。
また、センサーユニットと通信ユニット(合わせてセンサーデバイス)を分離した構造で、防爆性を確保している。
センサーデバイスの特長
汎用性が高く、ガス耐性がある温湿度センサーを採用した。通信には、LPWA方式を採用しており、安価で広いエリアでの使用が可能だ。
本体材料には耐衝撃性・耐候性に優れるポリカーボネートを採用した。
多目的での使用も見据え、圧力センサーも搭載しており、圧力計測も可能だ。ガスメーター付近への据置設置を想定しており、携帯型と比較しコンパクト化した。
管理ソフトの特長
GPS機能を採用しており、地図上で簡単にセンサーデバイス位置を表示できる。案件ごとに設置した複数台のセンサーデバイスをまとめたグループ化が可能だ。
取得したデータは、一定期間保存可能で任意の期間を選択し、グラフやCSVなどのファイル形式で出力できる。計測閾値を設定可能で、設定値を超えた場合に、メールにより通知する。
●eガスノート(スマホ・タブレットを利用した工事点検・設備点検アプリケーション)―東京ガスネットワーク
東京ガスネットワークは、本支管工事の抜き取り検査などで紙帳票を用いた点検作業を実施しており、業務効率化が求められていた。そこで、2019年度より点検業務において汎用的に活用できるシステムを導入することでペーパーレス化を実現している。
現在、東京ガスネットワークは、大容量メーターの管理業務、地境切断(建物解体や大規模改装の場合に必要になる、ガス管を敷地境界付近で切り離す作業)の記録業務でも活用している。管理工数の削減につながると同時に現場点検員の人材育成・技能伝承に寄与できるシステムであることを確認した。
システムは、全国の多くのガス事業者が有するスマート保安推進などの課題に対し、ペーパーレス化や技術伝承などの価値を提供できるシステムであることから、東京ガスネットワークとしてサービスを開始した。
ノーコードでの帳票作成
同システムを活用することで、ガス事業を運営する上で必要な工事検査や施設点検の点検計画立案からスマホやタブレットを用いた点検の実施、点検の確認ができる。本システムは、ノーコードでの帳票作成が可能でありさまざまな業務において利用することが特徴である。
東京ガスネットワークでは、本支管工事の抜き取り検査、大容量メーターの管理業務、地境切断の記録業務での活用実績があり、契約先の事例では、本支管工事の抜き取り検査、他工事巡回業務での活用実績がある。また、ガバナー管理、バルブ管理、日報作成、架管管理、共同溝管理、定期保安検査、ガス生産工場管理などの業務でも活用可能と想定している。
ウェブ画面上で帳票の編集が可能であり、各ガス事業者の既存業務に合わせた帳票作成が可能。ウェブ画面で編集可能な項目では、点検項目内容、評価方法(数値入力・選択入力等)、検査項目に格納する添付資料、ワークフローの設定などがある。
点検項目への添付資料
各点検項目にPDF資料を添付可能である。現場において点検実施時に社内基準や過去の指導事例等を閲覧することができるため、人材育成・技能伝承に寄与することができる。
写真・動画等の添付
各点検項目にスマホやタブレットで撮影した写真、動画、音声データを登録できる。また、お絵描き機能を有しており、写真や添付資料に対してお絵描き機能を使って、コメントを残すことが可能だ。
クラウド型システム提供
クラウド型のシステムで提供が可能である。それにより、顧客はサーバーの用意が不要であり、アプリやOSの更新対応も東京ガスネットワークでサポートするため、従来負担になっていた顧客のシステム維持管理対応の負荷軽減につながる。
●埋設管照会支援システム―協振技建
秦野ガスは、住宅工事・不動産売買に係わる都市ガス整備状況の照会や、道路上の他工事にかかる埋設管照会に日々対応している。
○照会業務の課題
埋設管照会対応は重要な業務であるため、照会受け付けがあった際、回答対応に担当部署の社員が対応しており、多大な労力を要している。
照会担当者は次のような課題があった。電話対応の際、口頭での説明では伝わりにくく別途ファクス受け付けで対応していた。
ファクス受け付けは、件数が多く、管理が煩雑になり、図面の文字等が見づらい際は確認が必要になる。
窓口受け付けの際、回答に時間を要する場合がある。照会受け付けは社内でしか対応ができず、社外業務時は帰社した後に確認が必要となる。
照会情報を管理するためには、調査依頼書を元にエクセルへ情報を入力する。調査依頼書や回答書・添付資料はファイルに整理して一定期間保管するために、ファイリング作業と保管場所が必要になり、資料管理が煩雑になっていた。
協振技建が開発した「埋設管照会支援システム」の導入により、クラウドサービスを活用して、照会受け付けから回答までをウェブシステム上で行うことができるようになり、埋設管照会業務の省力化を実現する。
システムの利用には、ID・パスワードによるログインが必要で、ID・パスワードは会員登録を行うことで取得できる。
パススワード取得時に、導管事業部門担当者・小売事業部門担当者へ自動振り分けすることができ、情報遮断に対応する。
○申請機能
申請者は工種・調査目的などの情報入力に加えて、地図上で申請位置を指定することで申請を実施する。申請を行うと秦野ガスに通知メールが自動送信される。
○機能概要
地図上の申請位置から、マッピング画像の自動作成と供給区域内外の自動判定を行い、回答画面に表示する。担当者は本支管・供給管の情報を入力し回答。回答完了後、申請者に通知メールが自動送信される。
申請者は再度ログインして、マッピング画像を含めた回答情報を閲覧。回答情報はプリンターなどで印刷できる。
○その他機能
申請情報、照会情報は全て地図上に全体表示され、照会情報の集計、分析を行う。
○導入効果
ウェブシステム化により、照会対応をまとめて実施。また社外でも照会対応が可能だ。照会情報の一覧管理により管理台帳を登録する時間が削減できる。照会位置のマッピング画像自動作成と供給区域内外の自動判定機能により、調査時間を削減できる。照会資料を保管する必要がなくなり、ペーパーレス化を実現。また、過去資料の検索時間を削減できる。
●住宅用火災CO警報器10年寿命品の実用化―矢崎エナジーシステム、新コスモス電機
住宅用火災CO警報器はCOセンサーの寿命を考慮し有効期限5年だった。矢崎エナジーシステム、新コスモス電機は、COセンサーの技術改良等により長寿命化を実現し、日本ガス機器検査協会検査規程の新たな技術基準の制定により、住宅火災警報器と同じ有効期限10年の製品を実用化した。
建物火災による死者のうち約4割がCO中毒・窒息で死亡している。一方、業務用厨房分野では業務用換気警報器の設置促進を図った結果、CO中毒事故は確実に低減している。
これより、一般警報器においてもCO検知機能の付いた警報器を普及することにより、火災の早期発見とともに燃焼機器などによるCO中毒事故を未然に防止することができる。
住宅用火災警報器は設置義務化されてから10年以上が経過し取り換え時期を迎えている。10年寿命化により、さらなる普及促進が見込まれ、顧客の保安向上に大きく貢献することが期待できる。
両者の開発ポイントは、以下の通り。
○COセンサーの耐久性評価
電気化学式COセンサーの各種耐久性評価を実施し、住宅用火災CO警報器の仕様として10年の耐久性を十分に有することを確認した。
○温度加速試験による寿命評価
10年以上の経時評価や各種信頼性試験を行った。
○住宅用火災CO警報器のCO警報による火災早期検知有効性検証
布団とたばこによるくん焼火災の再現実験により、壁面設置した住宅用火災CO警報器のCO警報は火災(煙)警報と比較して早いタイミングで発することを検証し、火災の早期検知に有効であることを確認した。
○火災早期検知、非火災報低減アルゴリズムの搭載
検知した煙濃度とCO濃度の推移等より火災、非火災を判定するアルゴリズムを構築し、警報器に搭載することで火災の早期検知、非火災報の誤報の低減を実現した。
火災と判定した場合、煙警報濃度を下げることにより火災を早期に検知する。
○日本ガス機器検査協会検査規程の技術基準制定
COセンサーの耐久性、火災早期検知有効性の検証結果より、日本ガス機器検査協会検査規程において、新たに住宅用火災CO警報器検査規程の技術基準を制定し、有効期限10年の製品を実用化した。
●家庭用スマートメーターの開発―愛知時計電機、関西ガスメータ、竹中製作所、東洋ガスメーター、矢崎エナジーシステム、パナソニック
○製品開発の背景と流れ
都市ガス事業を取り巻く環境は、少子高齢化による保安・安定供給の担い手不足、自然災害の頻発化・激甚化、顧客のライフスタイルの多様化による非対面・非接触への移行など、大きく変化している。こうした中、都市ガス事業の根幹である保安水準・安定供給の維持・向上、さらには、業務効率化や生産性向上を一層進めていく方策の検討が、官民を挙げた取り組みとして進んでいる。
一方、過去から顧客の全件自動検針を目指して通信機能付きのガスメーターが開発されたが、電話回線を利用した通信網においては、その都度発生する通信費用がネックになり実現には至らなかった。
ガスネットワーク3社(東京ガスネットワーク、大阪ガスネットワーク、東邦ガスネットワーク)は、複数のメーターメーカー、およびデバイスメーカーと共同で、それら課題を解決すべく新たな通信方式としてUバス通信機能や多段中継無線機等の開発を進め、双方向遮断弁、液晶表示と合わせて、スマートメーターとして開発した。
家庭用スマートメーターは、従来のマイコンメーターより保安機能が更に高度化し、感震遮断時の自動復帰機能や圧力センサー導入による復帰漏えい確認時間の短縮などの機能を備えている。また、高速・大容量のUバス通信インターフェースを搭載しており、遠隔で検針や開閉栓、さらには保安情報の取得が可能となり、平時の業務効率化、災害時等におけるレジリエンスの向上が期待できる。
計測方式は超音波式、計量機能は計量法に準拠した。保安機能は、日本ガス機器検査協会マイコンメーター検査規程に準拠している。モーター式双方向遮断弁搭載による遠隔開閉栓に対応。通信機能には、Uバス通信機能を搭載し、通信端末を接続し、スマートメータシステムを構築可能だ。
○開発の動機・目的
顧客の全件自動検針を目指して通信機能付きのガスメーターが開発されたが、その都度通信費用(電話回線の費用)がネックになり実現には至らなかった。その通信費用削減のために新たな通信方式としてUバス通信機能や多段中継無線機等の開発を進め、双方向遮断弁、液晶表示と合わせて、家庭用スマートメーターとして開発した。
ガス業界初のスマートメーター導入に向け、低コストでの製品化を目指すべく、メーターメーカー3社(愛知時計電機、竹中製作所、関西ガスメータ)で既存の膜式メーターを活用した膜式スマートメーター(JO、NO)の共同開発を行い、製品化を実現した。
一方、超音波式スマートメーターはガスネットワーク3社と矢崎エナジーシステム、東洋ガスメーター、パナソニックで開発した。
全国でのこれまでの販売実績(膜式)は、23年3月31日時点で約390万台(愛知時計電機・竹中製作所・関西ガスメータ合算)となっている。
●石灰焼成炉(ライムキルン)向け天然ガス・重油混焼バーナ技術を活用した省エネ・省CO2の達成―Daigasエナジー
製紙会社で使われているライムキルン(焼成に使用する窯)は主に重油燃料が使用されており、製紙工場の中でもCO2排出量の大きい設備の一つ。そのためライムキルンのガス化や省エネによる省CO2が検討されてきたが、従来のガスバーナーをライムキルンに使用すると、重油燃焼時と比較して、火炎の輝度や炉内温度分布の変化の影響で、原単位が悪化する可能性が高いと言われていた。
一方、Daigasエナジーでは、天然ガスと重油の混焼方式のバーナを開発し、同時に省エネも行うことで大幅な省CO2を達成した。
具体的な取り組みとしては、ガラスタンク窯に適用していたガスアトマイズ(重油の霧化媒体である蒸気・高圧エアの代わりにガスを使用する混焼方式)技術をライムキルンに展開することで、一からバーナー開発を行うより早くニーズに対応できると考え、ライムキルン向けのガスアトマイズバーナーの開発を行った。
実験場でのテスト、製紙工場実炉でのテストを経て、ガスアトマイズバーナーの開発に取り組んだ。
重油バーナーは、重油を霧状にして燃焼させる必要があるため、霧化媒体として、蒸気や高圧エアを使用することが多い。今回開発したガスアトマイズバーナーはその霧化媒体に天然ガスを使用する混焼方式のバーナーである。天然ガスの混焼比率は約30%を標準仕様としている。
○ガスアトマイズバーナーの特長
既存バーナーを流用し、中心のガンの部分のみの交換なので、2時間以内の消火時間で燃料転換が可能。
霧化媒体の蒸気や高圧エアが不要となり、それらを作り出すエネルギーコスト削減が可能。
ガン先端のノズルを交換することで、火炎形状を変えることができ、温度分布を目的に合わせて変更させることが可能。
霧化媒体に可燃物である天然ガスを使用しているため、蒸気アトマイズなどと比較し着火性、燃焼性が向上するため、燃焼エア量の削減が可能。
○開発のコンセプト
ライムキルンでは、CaCO3↓CaO+CO2という焼成反応が高温で行われている。この反応の焼成率は焼成帯での石灰温度が高いほど、高くなる傾向があるため、火炎長を従来の重油バーナーより短くすることで温度ピークを高くすることを目的とした。この目的達成に向けてさまざまな火炎形状を作ることが可能なノズルを何パターンも製作し、Daigasエナジー実験場テスト炉で燃焼試験を繰り返した。その結果、焼成帯付近の温度分布をある程度任意にコントロールすることに成功した。
●メンテナンス作業の効率化を実現したガバナユニットの開発―大阪ガスネットワーク、協成
大阪ガスネットワークは、都市ガスを減圧し市中に供給するガバナーを1600基保有している。このガバナーをメンテナンスするには一時的に仮供給する代替のガバナーが必要だ。通常供給用ガバナーと一時供給用ガバナーの2系統を現場に常設しなければならずメンテナンス負担を大きくしていた。また、メンテナンスには大きな力が必要となるため、実施できる作業者が限られることも課題であった。
この課題に対応するため、一時供給用ガバナーをカートリッジ着脱式として非常設化するとともに、メンテナンス作業に大きな力が不要となるガバナユニットを開発・導入した。
本検討においてはカートリッジ着脱式の一時供給用ガバナー(フィルター内蔵)を開発し、必要時のみ取付ける運用を考案した。今まで現場に常設されていた1600基の一時供給用ガバナーとフィルターが不要となるためメンテナンス対象機器の削減ができ、この現場作業時間短縮により今まで困難であった1日2現場のメンテナンスが可能となった。
また、メンテナンスに必要となる力の低減も進め、通常供給用のフィルター蓋ボルト締結など重労働であった部位の設計見直しにより非力な作業者でも従事可能となった。
●都市ガス・水素バイフューエルバーナの商品化―東邦ガス、日本ファーネス
東邦ガスは、NFKホールディングスグループの日本ファーネス製都市ガス用ハイスピードバーナーをベースに、部品を交換せず、都市ガスと水素を兼用して燃焼できる「バイフューエルガスバーナ」を共同で商品化した。
○開発の動機・目的
東邦ガスは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた「ガス顧客の低・脱炭素化」と、「水素の普及拡大に向けた基盤構築」の取り組みの一つとして、水素燃焼に関する工業用ガスバーナーの開発に複数取り組んでおり、熱処理炉向けのシングルエンドラジアントチューブバーナーの水素適用化開発やアルミ溶解向けの水素燃焼実証試験などを実施している。
新たな取り組みとして、当社は、ガス使用量が多く、ガスバーナーの水素適用化による二酸化炭素(CO2)排出量の削減効果が大きい鋼材加熱分野を対象としたガスバーナーの水素適用化を企画しました。今回、当社と過去に共同開発を行っており、当該分野向けに都市ガス用バーナーを多く製造・販売している日本ファーネスと共同で取り組みを実施することになった。
○製品の特徴
部品交換なしで都市ガスと水素の双方の燃焼が可能な国内初の工業用ガスバーナーとなる。緩やかな燃焼の実現により、水素燃焼における火炎温度の急上昇を抑え、排出窒素酸化物(NOχ)値の抑制、部品の耐久性を確保した。
空気と燃料をノズル先端で混合させる構造により、燃焼速度が速い水素の逆火を防ぎつつ、都市ガスと水素ともに安定して着火ができる。
視認性の悪い水素でも、都市ガスバーナーで用いる燃焼安全装置にて火炎を検出が可能だ。
○開発のポイント(工夫した点)
(1)空気と燃料を高速で噴出させ、炉内雰囲気を攪拌するハイスピードバーナーを採用。
(2)燃料の噴出速度増加と空気の旋回流によって、空気と水素の初期混合を抑制し、燃焼速度が速い水素でも緩やかな燃焼を実現。
○導入効果(兼用可能の効果)
部品交換なしで都市ガスと水素の双方の燃焼が可能なため、ガスを利用いただく顧客への導入コストを大幅に低減した。
BCPの観点で、水素から都市ガスへ切り替える必要となった場合、燃料種の切り替えのみで顧客の負荷なく、操業させることができる。
●独自気象予測・AIによる、ガス火力発電量、予測技術の確立および実運用―大阪ガス
○開発の動機・目的
天然ガス火力発電は、その日の気象条件(空気の密度など)で出力が変化する。このような変化は、インバランス(計画発電量と実績の差)を生む原因となる。発電事業者はインバランスに応じた金銭ペナルティーを支払う義務があるため、出力を正確に予測できなければ収益性を悪化させる。
今回の開発の目的は、気象予測と人工知能(AI)を活用して発電量を事前に予測することで、このインバランスを減らし、電力事業の収益性を向上させることだ。
独自の気象予測およびAIモデルによる、30分ごと・3日先までの天然ガス火力発電量予測手法を開発した。さらにこの手法をほぼ自動化したうえで、自社の天然ガス火力発電所で実運用し、売電収益アップと省力化を同時に実現した。
○開発の内容
(1)高精度の気象予測モデル(高解像度気象シミュレーション+AI)
大阪ガス独自の2・2キロメートルメッシュ気象シミュレーションで、発電所ピンポイントの気温・気圧・湿度を予測。さらに吸気温度・気圧・湿度の過去実績データをAIで学習することで発電施設の気象条件に特化した、高精度の気象予測モデル(発電計画上のニーズに合わせ、30分ごとに3日先まで予測)を開発した。
(2)発電量予測AIモデルの開発
(1)で得られた気象予測と、火力発電量の過去実績を学習した発電量予測AIモデル(こちらも30分ごと・3日先まで)を開発した。この時、気象以外の変動要因も洗い出し、これらに対応できるよう工夫した。
(3)運用のデジタルトランスフォーメーション(DX)
(1)(2)を実装したシステムを構築し、日々の発電量予測から発電所における運用に至るまで、ほぼ全工程を自動化した。さらに、(2)のAIモデルも自動更新可能にして、気象以外の変動要因が変化することにも自動的に対応できるようにした。これにより、大幅な省力化を実現した。
泉北天然ガス発電所には、同技術を導入済みで、予測活用による売電利益アップと省力化が確認されている。将来的には、Daigasグループ内の他発電所、同様のニーズを有する事業者向けに拡大が期待されている。
●車載AIカメラによる工事現場の自動認識―大阪ガスネットワーク
上下水道管や通信関連の工事で、掘削を伴う場合は、誤ってガス管を破損しないよう、工事事業者に対し、大阪ガスネットワークへの事前連絡を依頼しているが、無届で他工事が行われる事例がある。このため、一部の重要路線では毎日車両によるパトロールを実施し、これらの工事を監視してきた。しかし、この業務は労働集約型の業務であり、広大な導管網をカバーするには、多くの人員が必要だ。また1日に1回の巡回では巡回タイミング外で実施される工事の発見が困難だった。そこで、路線バスに「工事を検知できる人工知能(AI)」を搭載したカメラを設置し、路線バスが走行することによって工事を自動検知できるシステムへ置き換えを図った。
従来実施してきた無届工事パトロールにおいて、自動検知するAIカメラを路線バスに搭載することで、パトロール業務の要員効率化により、将来的に従来のパトロール延長を7割削減することによる生産性向上と監視の高頻度化による保安向上を実現した。
同システムは、バス側の汎用品であるUSBカメラ・GPSアンテナ、開発品であるコンピュータ、事務所側の情報を統括処理するセンターシステムから構成される。カメラはドラレコのようにバス前方を撮影し、バスがガス管付近を走行した際にAIが工事の特徴物(掘削機、工事看板など)を発見すれば、工事と判定し、事務所のモニターへ工事画像が転送される。
これにより、事務所にいながらガス管周辺工事をリアルタイムに把握することが可能となる。
●3D写真技術を活用した出来型図の自動作成―大阪ガスネットワーク
建設工事などで埋設配管工事を行った際、配管の工事内容を、従来は現場にて野帳(野外で観測・測量・測定した結果を記録する手帳)へ工事内容をメモし、その後事務所にて専用システムを用いた正確な出来型図を作成する必要があった。これは作業負担が大きかった。今回の取り組みでは一連の業務負担を軽減するため、スマートフォンで配管を撮影することで自動的に出来型図を作成する技術を開発した。また、配管結果のエビデンスが得られるため、出来型図の信頼性向上にも寄与する。
○開発の内容
同システムは、スマートフォンと深度カメラをセットにした撮影機材とこれにより撮影された動画データを3D化して閲覧・編集するためのセンターシステムで構成される。スマートフォンは撮影したガス管から多数の特徴点を認識する。撮影者はガス管に沿ってスマートフォンで撮影するため、移動に合わせて画像内の特徴点の位置が少しずれる。このずれ量からスマートフォンと特徴点の距離を算出し、被写体であるガス管の3Dモデル化が可能となる。現在の開発品はスマートフォンと深度カメラを組み合わせることで誤差1%程度以下を達成している。最新機種であればスマートフォン単体で同等の精度を確保できるか検証中である。
システムには、ガス管の継手形状を学習した人工知能(AI)を組み込んでおり、配管に使用した部材の延長・個数の自動集計が可能だ。これにより、検収業務の効率化に寄与する。さらに現場対応力強化のため、死角部両端の継手をAIが認識することで、死角部を直線で補完する機能や、マーキングシールを認識することで日々生成された3Dモデルを自動的に重ね合わせる機能を有している。
●デジタル技術を活用したエネファームメンテナンスツールの開発―大阪ガスマーケティング
○開発の動機・目的
エネファームのメンテは故障箇所を特定する診断知識や部品交換技術など、数多くの経験や高度なスキルを必要とする。そのためメンテ担当者の育成には、教育や現場OJTなどの負荷が大きく、多大な時間を要するという課題があった。
難易度の高いエネファームメンテを行うには、(1)高度なスキルを必要とするエネファームメンテの効率化(2)メンテリソースを拡充し強固な体制の構築――が必要だ。
○開発概略
IoT(モノのインターネット)活用によりエネファームの故障を遠隔で覚知した際、故障箇所をRPA(ロボティックプロセスオートメーション)で自動診断する。あわせて、必要部品の情報と、部品交換作業手順動画を自動でメンテ担当店に情報連携するツールを開発した。
○開発の内容
IoTを活用して受信できるデータから故障箇所を自動で診断し、準備が必要な部品を特定するツールを開発した。
自動診断した結果とあわせて、準備が必要な部品の情報と交換作業手順動画をメンテ担当店に自動メール配信することにより、故障覚知から現場作業までを一元的・均質的にサポートする。
故障箇所の自動診断ロジックの構築には、これまで蓄積してきた大阪ガスマーケティングのノウハウとビッグデータを活用して検証し、97%以上の精度を誇る。
また、煩雑な作業手順を動画化することで、作業手順の手戻りを抑制し、初めての部品交換作業において作業時間を大幅に削減することに成功した。
豊富なノウハウとビッグデータを併せ持つ同社の強みを生かしたツールとして効果的に活用している。
また、当ツールはIoT接続のない機器においても、現場での故障診断や部品交換場面で利用ができる仕様としており、同社だけでなく他事業者のニーズに合わせた汎用的な利用が可能だ。
●停電時自立発電継続サポートシステムの開発―大阪ガスマーケティング、大阪ガス
エネファームの自立発電機能は、停電発生時に発電状態である必要があるが、マイコンメーターの内管漏洩対策として、27日に1回、終日発電を停止する。
この停止日と停電が重なった場合、自立発電機能が使えないことになる。この状況を回避するため、顧客が事前に停止日を確認し、台風襲来時に停止日が重なる可能性があれば、停止日を前倒しさせるため、操作が必要であった。
この課題を解決するために、常時接続でつながっている機器に対し、遠隔操作により、台風到来より前に強制的に停止させることで、バッティングを回避するフローを構築し、それを自動化することで運用負荷を抑えつつ、顧客の利便性を向上させた。
大阪ガスの持つ気象予報データ予測ロジックを活用し、大型台風接近を予測した場合、停電発生するエリアに設置された対象機器を抽出し、前倒しで停止を発信、その後関係者へメール送付するまでの一連のフローを全て自動で実施するシステムを構築した。
台風予測から遠隔停止操作まで自動化したことで、運用側の省力効率化、ミス防止を実現するとともに、顧客の安心につながった。