【導管特集】全国ガス事業者の最新導管技術

ガス事業を支える供給技術、メンテナンス技術は、ガス事業者やメーカーなどの開発により、新技術・新工法が生み出されている。今年の導管特集では、埋設内管改善折衝ツール、中圧B導管にPE管を採用する際の防護材、レーザー式ガス検知器、工事現場自動認識AIカメラ、ねじ配管工事用トルクレンチなどを取り上げる。このほか、ガス事業者の災害に備えた社内体制の整備や、サンドブラストに起因する供給支障からの復旧対応の取り組みを紹介する。

●腐食リスクを定量化—埋設内管改善折衝ツール

経年埋設内管改善折衝ツールは、土壌抵抗率と管対地電位を測定し、管種、口径、埋設延長、埋設深さ、埋設経過年数などとともにエクセルシートに入力することで、ガス管の腐食貫通リスクを自動で算出し、定量的に需要家へ提示することができる。過去23回の折衝でも改善を拒否していた需要家が一転して改善意向を示すなど、折衝現場で大きな効果が出ている。

経年埋設内管とは、需要家の敷地内に埋設された白ガス管(亜鉛メッキ鋼管)などを指す。年数の経過に伴って腐食・劣化する恐れがあり、その改善はガス事業者にとって保安上の最重要課題の一つとなっている。1996年のガス事業法技術基準の改正により、現在こうしたガス管を土中埋設部に使用することは禁止されている。不特定多数が出入りする「保安上重要な建物」に残存する経年埋設内管は2003年度に約38万本だったが、20年度には約4万本まで減少した。

経年埋設内管は需要家の資産であるため、改善には需要家の理解・協力が不可欠となる。現在も残存する経年埋設内管のほとんどは、複数回の折衝を経ても、財政難などを理由として需要家の同意が得られないケースだ。地中に埋設されたガス管の劣化状況を目視できないことが折衝を難しくしている。

17年に施行された改正ガス事業法では、経済産業相から需要家に対して経年埋設内管対策への協力勧告を行う法的措置が整備された。これを受けて経済産業省は、科学的な根拠に基づいて経年埋設内管の危険性などを精緻な形で需要家に示し、自主的な取り換えなどを促すため、「経年埋設ガス管のリスク評価手法・基準開発事業」において経年埋設内管からのガス漏れの可能性に関する評価方法・判断基準について検討を進め、内管の経過年数と腐食量の相関関係を明らかにした。

これらの成果を活用したのが経年埋設内管改善折衝ツールだ。ガス管の腐食リスクレベルを4段階で判定。最もリスクが高い「腐食リスクレベル4」=ガス管腐食度指数50%以上=は、同じ埋設環境において2件に1件以上の確率でガス管が腐食貫通していることを意味する。21年度に実現場への適用を開始したところ、48件中35件で取り換えの必要性について理解を深めてもらうことができ、そのうち20件は見積もりや成約など次のステップに進むことができたという。

経年埋設内管改善折衝ツールのエクセルシートは、日本ガス協会の正会員向けウェブサイトから入手できる。土壌抵抗率測定機器や管対地電位測定機器など必要な機材は日本防蝕工業が販売している。これらを準備して事業者自身で腐食リスクレベル判定を行うことができるほか、日本防蝕工業に業務委託することもできる。

●法廷検査での活用に期待—レーザー式ガス検知器

レーザー式ガス検知器は、気体を採取することなく、レーザー光を照射するだけで離れた場所からガス漏えいの有無を検査できる装置だ。2020年のインフラメンテナンス大賞では経済産業省特別賞を受賞した。大空間の天井付近の配管などの点検では、足場を組む手間が省けるため点検コストを大幅に削減できる。これまでは自主保安のみで利用されていたが、今後は法定検査でも積極的な活用が期待されている。

検知原理は、メタンガスがレーザー光を吸収する特性を利用している。メタンガスに吸収される波長のレーザーを検査箇所に照射し、地面などで乱反射した光をレンズで集光検知する。メタンガスが途中に存在する場合には反射光が減少するため、メタンガスの存在を離れた場所から瞬時に検知できる。測定可能距離は最大30メートルだ。

遠隔でガスを検知できるため、接近が困難な場所や天井配管などの高所、床下、気体が採取できない窓越しの測定などで威力を発揮する。米国、カナダ、イタリア、中国、韓国など、世界の約30カ国で6千台以上が導入されている。

日本ガス協会は3月、ガス工作物等技術基準調査委員会でレーザー式ガス検知器の技術基準適合性評価を完了。レーザー式ガス検知器は、法令で義務付けられた内管の定期漏えい検査で使用できる「適切な漏えい検査方法」の一つとして「供給管・内管指針(維持管理編)」に掲載された。

レーザーメタン・スマートは、従来機のレーザーメタンミニを改良した最新機器だ。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)とガスターが開発した。新たにデジタルカメラを内蔵し、検査箇所の状況と測定値を画像データとして記録することができるようになったのが大きな特徴だ。

ディスプレイに表示された測定値、測定時間と検査箇所の画像を1枚の画像ファイルとしてマイクロSDカードに保存する。ブルートゥース搭載機では、専用アプリをインストールしたスマートフォンを経由してクラウドサーバーに自動的に転送・保管することもできる。

これまでは検査結果を記録するために、事務所に戻ってから現場のと測定データをパソコン上でひも付けるなどの手間がかかっていた。レーザーメタン・スマートは、漏えい検査から検査記録の作成、保管までの一連の業務を現場で完結でき、データのひも付けミスや改ざんも防ぐことができる。

大きさは、横55ミリ、縦200ミリ、厚さ53ミリ。重量は500グラム。連続使用時間は2・5～3・5時間。

●従来品より施工性向上—新型防護材「パイプフィットガード」/東邦ガスネットワーク

東邦ガスネットワークは、中圧B導管へのPE管適用を進める中で、他工事対策として新型防護材「パイプフィットガード」を採用している。従来型の防護材に比べ、現場での施工性に優れ、掘削土量も削減できる。東邦ガステクノ、大東電材を通じて他事業者への外販も行っている。

東邦ガスネットワークは、中圧B導管へのPE管適用拡大を進めており、22年3月時点で約64キロメートルの累計施工実績がある。PE管は鋼管や鋳鉄管に比べ、耐震性・耐食性に優れるものの、外力に対する強度が劣ることから、他工事によるガス導管損傷への対策として、PE管用防護材を開発、導入してきた。

16年度に導入した「パイプフィットガード」の前身にあたる防護材は、板状の防護材3枚をPE管の左右と上部に「コの字型」に設置するタイプ。ただ、防護材をPE管から数センチ離して設置する必要があり、施工に時間を要していた。また、天板の幅は42センチあり、施工スペースを確保するため少なくとも70～80センチ幅で掘削工事を行う必要があった。

施工性を高めるため、大東電材と共同で新たな防護材「パイプフィットガード」の開発に着手、20年度に導入した。「パイプフィットガード」は、側板をPE管の側面にぴったりフィットする円弧形状とし、天板の幅は35センチとした。従来型に比べて掘削工事幅を約10センチ縮小でき、掘削土量も削減できる。大型の掘削機械の打撃に対しても、PE管に傷や凹みを発生させない防護性能を備えている。側板と防護シートは200A用と150A用があり、天板は各口径で共通となっている。

「パイプフィットガード」の施工は、(1)地上でPE管を融着した後、防護シートを取り付ける(2)連結ひもでつながった側板をPE管に取り付ける(3)埋設位置までPE管を吊り降ろす(4)既設管と新設管を接続(5)埋戻しながらPE管の上部に天板を設置(6)他工事業者への安全措置として標識シートを天板の上部に埋設(7)埋設場所を完全に埋め戻し道路を復旧——という手順で行う。

●生産性と保安品質向上—工事現場自動認識AIカメラ

工事現場自動認識人工知能(AI)カメラは、主に無届けの他工事現場を見つけるのに使われている。人が車両でパトロールするのに比べ、大幅な省力化による生産性と、巡回頻度の増加による保安レベルの両方が向上する。

他工事業者に事前協議を依頼しているものの、届け出なしに工事が実施されるケースがある。車両でパトロールすることで、無届けの他工事が行われていないかをチェックしている。中圧管のパトロール業務は工事会社に委託し、約6千キロメートルの半分弱を毎日、20台程度の車でパトロールしている。

しかし、所定のルートを一日に1回通過するだけでは他工事を見つけられないこともある上、パトロールには多くの人手・時間を要する。

そこで工事現場を自動で認識できる「AIカメラ」を開発した。「AIカメラ」は、USBカメラとAI処理・通信用のコンピューター、GPSアンテナで構成されている。

運転席周りに設置可能な小型で、高温(約60度)にも耐えることができ、運転手の操作が不要な製品をパートナー企業であるアプトポッドとの協業により開発。

大阪ガスネットワーク導管計画部R&Dチームの藪内傑氏は「車両に取り付けたAIカメラが、工事看板や重機、カラーコーンなど、工事の特徴を示す対象を認識すると、待機しているオペレーターに発報するシステムを構築した」と説明する。届け出のない場所での工事と判断した場合、現場に対応者を直行させ、破損を防止する。

AIカメラを2021年12月から大阪シティバスの路線バス40台に取り付け、パトロール業務を代替し、業務効率化を実現した。路線バスは同一路線を一日に複数回走行するため、既存のパトロールよりも巡回頻度を高められる利点がある。今後は関西全域に適用エリアを拡大する予定で、約350台の路線バスへの設置を目指している。

●サンドブラストへの対応—632戸を供給停止/新発田ガス

昨年9月、新発田ガス管内で、ガス管の近くに設置された水道管からの漏水で発生したサンドブラストでガス導管が損傷したことで供給支障が発生、632戸が供給停止となった。新発田ガスは、緊急体制でガス管の補修と閉開栓作業を行い、約4日で全戸の復旧を完了した。同社の復旧対応の取り組みを紹介する。

サンドブラストは、水道管から漏えいした水が土砂を巻き込んで吹き付けることにより、付近のガス管などを損傷する現象だ。これまでも複数の都市ガス事業者で大規模な供給支障が発生している。2021年9月23日午前6時半頃、新発田ガス本社には、複数の需要家から「コンロの火が付かない。ガス機器が使えない」といった電話通報が入り始めた。通報の状況をみて、新発田ガスは午前7時頃に、携帯電話を貸与している社員へはメールを一斉送信し、その他の社員へは電話により緊急招集をかけた。

「道路上で水があふれている箇所がある」との通報もあったことから、工務部ではサンドブラストの可能性が高いと判断。グループの協力工事会社に、ガスの供給支障が発生しているエリアの掘削調査を依頼した。その結果、新発田市内の住宅街で低圧本管(口径150ミリメートル)に3・5センチ×1・5センチの楕円形の穴が開いていることを確認。ガス管から約4センチの離隔距離で設置されていた水道管からの漏水でサンドブラストが発生してガス管に穴が開き、水道水が流入して本支管、供給管、さらには需要家敷地内の灯外内管を閉塞し、供給支障が発生していたことが判明した。

新発田ガスは、ガス導管で水が入っている範囲を特定するために、1件ずつ需要家を訪問し、ガス機器が正常に使用できているかを確認。ガスの供給が停止となっている地域を絞り込んだ。最終的に、マッピングシステムから供給停止範囲内の需要家を抽出、そのデータと需要家台帳とを照合しながら、新たに供給停止需要家リストを作成、そのリストと現場からの情報を基に保安閉栓戸数を確定した。

復旧対応では、導管の抽水作業を行うために、協力工事会社を通じてバキュームカーを2台調達、さらに北陸ガスに抽水作業の応援を依頼、同社から採水車2台とともに作業員4人の応援を得ることができた。導管網で差し水の範囲が広がることを防ぐため、対象エリアの導管の切断とブロック分割を行った上で、抽水作業を進めた。

抽水作業や北陸ガスから10人の応援を得ながら行った開栓作業は深夜にまで及んだため、広報車やSNSによる広報を行い、地域の町内会にも通知した。供給停止が最長4日間に及んだこともあり、入浴できない需要家への対応を行った。市内の入浴施設の協力を得て自社で入浴券を作成し、供給停止になった全世帯に配布した。復旧完了後には、おわび文書とクオカードを郵送した。

サンドブラストによるガス管損傷は将来も起こる可能性があり、その場合は迅速に対応する必要がある。新発田ガス工務部の林健一氏は「今回は昼夜問わず作業を進めたが、今後、こうした事態がまた発生した場合、交代要員を確保して、計画的に復旧作業を実施するためにも普段から従業員と工事店への教育や訓練は重要と改めて感じた。昨年の供給支障では必要な導管関係の部材在庫があったため、うまく対応できた。現場ごとに必要な部材は異なるため、多様な部材を緊急時でも速やかに入手できるよう、取引業者との連絡体制の構築を検討していきたい」と話す。

●締め付け不足を防止—ねじ配管工事用トルクレンチ

京都機械工具のねじ配管工事用トルクレンチは、コーナーレンチから置き換えて使用でき、締め付け不足による施工不良を防止、施工者の技量に依存しない確実な施工を実現する。重量や寸法は一般的なコーナーレンチと同等で、優れた作業性と高強度を確保している。大阪ガスネットワークとの共同開発品で、昨年から大型物件の内管工事で積極的に活用している。

ねじ配管は主に高層ビルや集合住宅、ショッピングセンターの共用部など、ガス使用量の多い低圧需要家の内管に使用される。ねじ配管の締め込み作業は、現状では施工者の感覚や技量に頼ることが多く、締め込みトルクの不足によるガス漏れも一定数発生している。今後ますます施工者の高齢化・多様化が見込まれる中、施工品質のばらつきが懸念されている。

トルクレンチは、ねじの締め付けトルクを測ったり、決められたトルクで締め付けたりするための工具。従来のトルクレンチは、一般的に使用されるコーナーレンチに比べて大型で重く、作業性・安全性に難があった。そのためガス配管工事では、締め込み作業はコーナーレンチで行い、トルクレンチはトルク確認用のためだけに使われることが多かった。

両社が共同開発したトルクレンチは50A、80A、100A用の3種類で、コーナーレンチの役割を完全に代替する。設定トルク値に達すると「カチッ」というクリック感が手に伝わり、締め付け完了を確認できる。ジョイント部を中空構造とすることでコーナーレンチと同等の重量・寸法を実現した。設定トルクは日本金属継手協会の基準に準拠している。

強度と耐久性もコーナーレンチと同等を確保している。設定トルク値以上の締め付けが必要となるため、従来のトルクレンチではできなかった「継手の向き合わせ作業」(管の取り出し方向の調整)にも使用でき、10年相当の使用回数に耐える設計とした。トルク検知機構部は、水の侵入を防ぐ構造とし、屋外作業中の急な天候変化にも対応する。

●緊急時対応で3チームを設置—応援受入体制など整備/大和ガス

近年、地震や豪雨災害などの災害が頻繁に起きており、これらに起因するガス漏えいも発生している。また、大和ガス管内では、保安上重要な建物の経年内管対策などがまだ残っている。大和ガスは、災害発生や日常的な保安業務に機動的に対応するため、2014年から22年にかけて、社内横断的な組織を三つ設け、保安体制の強化や災害発生時の対応力の向上を図っている。

14年には、管理本部の係長職9人で組織する「保安リスクマネジメントチーム」を発足させ、緊急対応、保安教育、経年管対策の3本柱に取り組んでいる。緊急対応では、移動式ガス発生設備の作動点検や緊急時に必要な工具・部材のチェックリストを作成しており、リストを毎月確認し、必要な工具・部材の補充を行っている。保安教育では、若手社員のスキルアップや技能講習を行っている。ガス漏えい対応時に備え、移動式ガス発生装置、抽水装置、仮設配管、本管工事などについての講習を毎月実施している。経年管対策では、保安上重要な建物の経年灯外内管の取り換え対象の需要家に対して取り換えの提案を進めている。

「応援隊受入準備チーム」は、総務部門、営業部門、管理部門から課長職以上の社員17人が参加し20年に発足した。大和ガスが地震などで被災し、他事業者からの応援が必要になった際に備えて準備を進めている。日本ガス協会の作成した応援事業者を受け入れる際のマニュアル「応援要綱」に照らし合せると、自治体への協力、応援隊の受け入れスペースの確保や食料の調達について不十分な部分があったため、この取り組みを進めている。

応援事業者を受け入れる際には前進基地を設置するための広い土地が必要なため、自治体に対し、緊急時に駐車場、グラウンドなどを提供してもらえるよう、協定の締結作業を進めている。現在二つの自治体は協定を締結しており、さらに二つの自治体とは協定締結に向け協議を進めている。食料調達については、食品配達業者に、緊急時に一定量の食品を配送してもらえるよう、協定を締結した。

日本ガス協会の訓練に参加する形で、台風豪雨災害情報収集訓練、サイバー攻撃情報報告訓練を行っている。社内では、災害時電話対応ロールプレイング訓練を行っている。これは、平時に電話対応業務を行っている者が他業務の社員にガス顧客役となって電話をかけ、応対の技術向上を図るものだ。新入社員に対しても同様の電話訓練を行っている。

22年には、保安リスクマネジメントチーム、応援受入準備チームの活動を把握し、方向性を導く組織として「管理本部防災チーム」を発足させた。管理本部の課長職以上の社員が参加している。二つのチームから取り組み報告を挙げてもらい、方向性をまとめる役割だ。