![第13回ウィズガスCLUBシンポジウム「近未来、その先の住まいと暮らし」](https://www.gas-enenews.co.jp/wp-content/uploads/2018/07/20180716-tokusyu-pdf.jpg)
ウィズガスCLUB(住宅生産団体連合会、キッチン・バス工業会、日本ガス石油機器工業会、日本ガス体エネルギー普及促進協議会=コラボ)は6月14日、東京都千代田区のホテルグランドパレスで「ウィズガスCLUBシンポジウム」を開催した。テーマは、「近未来、その先の住まいと暮らしについて〜変わる豊かな暮らしのカタチを求めて〜」だ。エネファームの普及拡大を目指す「エネファームパートナーズ」も同日、同ホテルで総会を開き、補助金に頼らない市場の自立化を2020年代に目指す方針を確認した。主催するウィズガスCLUBの活動も紹介する。
〇基調講演「アンチエイジングな暮らしと住まい」岩前篤近畿大学建築学部長
建築家やハウスメーカーなどは自ら手掛けた家を「快適な家」と表現する傾向がある。ある関西の有名建築家も、出世作となったコンクリート打ちっぱなしの構造の建物について、「夏は暑くて冬は寒い」と説明する一方、快適だとも表現する。従来いわれた快適は「室温二十数℃、湿度何%」という明確な数値があったが、そこから大きくかけ離れている。
もちろん、温度や湿度とは関係なく、独特な形状の建物に暮らす満足感が快適につながるという側面もある。一方で、快適な家に住めば、健康になるという全く根拠のない思い込みを、われわれはしていないだろうか。
快適と健康は一致する場合もあるが、本質的に快適と健康は違うものであるとの認識を持つことが必要だと思う。
快適は数量化できないが、健康は医療費などで明確に数量化できる。何か努力して去年に比べ医療費が下がったのであれば、それは健康改善効果として表現できる。
こうした理由から、私は「家作りにおいて、快適という言葉を使うのをしばらくやめて、健康という言葉を使いませんか」と提案している。
ちなみに医療の世界では、快適と健康は別種のものであるということが常識となっている。特に私が健康の観点で注目しているのは家の中で発生するカビだ。年に200軒くらいの家からほこりをサンプリングしてきて、そのほこりからカビを抽出する。どのような家にカビが多いのかを調べたところ、(1)締め切ってエアコンをかけている部屋と、(2)風を通して拭き掃除をする部屋、(3)締め切ってほったらかしの部屋の中では、(3)の部屋が最もカビが多いという明確な答えが出た。
◇低温による死亡者数は年間最大で12万人
厚生労働省の人口動態統計によると、家庭内での死亡者数で最も多いのは溺死の年間約5000人、次に転落・転倒の約3000人、熱中症の約1000人と続く。熱中症についてはメディアに取り上げられる機会が多いが、人数の多い溺死や転落・転倒の危険性はあまり指摘されない。
一方で低温が原因の死亡者の数は年間最大12万人という。3年ほど前に英国の医療専門誌で取り上げられた論文によると、世界13カ国で気温と死亡の関連を調べた結果、7・3%が低気温が原因であることが分かった。世界の約7500万例のデータを分析したところ、日本については、高気温による死亡率が0・3%である一方、低気温による死亡率は9・8%となった。日本の年間死者数に9・8%を掛けると、およそ年間12万人になる。
日本の月別の死亡割合を見ると、1950年以降、夏場に少なく、冬場に増える傾向がある。循環器系を原因とする死亡者も夏に減って冬に増えている。これらのデータについてはいろいろな専門家も注目しており、ヒートショック(急激な温度変化で血圧が変動し、心筋梗塞や脳梗塞などを起こすこと)が原因だろうという見方がされている。
月別死亡率の最も古いデータを見ると、現在とはかなり異なる。1910年のデータでは冬場よりも夏場に多くの人が亡くなっている。このデータを20年ごとに見ていくと、明確に一つの方向性がある。夏に亡くなる人が減少し冬に亡くなる人が増えている。つまり日本人の死因が変わったといえる。
明治より以前は夏に多くの人が亡くなる夏リスク社会だったが、今は冬に多くの人が亡くなる冬リスク社会に変わったと考えられる。昔と今では状況が大きく変わったと認識すると、吉田兼好が『徒然草』で残した「家の作りようは夏を旨とすべし」という表現は当時は正しかった。しかし今はそうではないといえる。
◇断熱改修で居住者の血圧が低下
スマートウェルネス住宅という住宅がある。エネルギー効率の良いスマートな住宅と、安心で安全、健康に暮らせるウェルネス住宅の二つの性能を持ち合わせた住宅を指す。2014年度から住宅の断熱化が居住者の健康に与える影響を検証する調査事業「スマートウェルネス住宅等推進事業」が、国土交通省の補助事業として実施されており、かなりはっきりとした結果が出ている。その事例を紹介する。慶応大学の伊香賀俊治教授を中心に、医療と建築の専門家が協力して、屋内環境と健康状態を調査したもので、わが国では類を見ない先進的な調査だ。
調査では、部屋と廊下の温度差をなくすなど一定レベルの省エネ基準を満たす断熱改修を実施した住宅で居住者の血圧変化などを測定。室内の温度が上昇したことで、居住者の血圧が下がったという結果が得られた。年代ごとの血圧の変動率も報告されている。室温が20℃から10℃に下がると80歳では血圧が11・2mmHG上昇する。60歳では8・5mmHG、30歳では4・5mmHG上昇する。現在、日本のほとんどの家では10℃の室温で暮らしており、20℃に上げることで、どの年代でも血圧の低下が期待される。
昨年度、既存住宅で断熱改修を実施した三十数軒の住宅を訪ねて、改修前後で屋内環境と健康状態がどう変わったのかを調査した。ヒアリングを実施した結果、「寝つきがよくなり、朝の目覚めがよくなった」「風邪をひかなくなった」「以前は暖房用エアコンを24時間連続でつけていたが、現在は就寝中は切っている」「室内で暑さ、寒さを感じることがなくなった」などの感想が得られた。
断熱効果を高めるために開口部を極力少なくした住宅もあった。直射日光をできるだけ入れないようにし、間接光の取り入れを施主が工夫した事例だ。高気密高断熱住宅は今まで一部の人だけに受け入れられてきたが、そういう状況は変わりつつある。高断熱にすることで快適を追求する生活から、健康を支援する生活に変わった。高断熱によって、健康寿命を延ばす「アンチエイジングな暮らし」を普及促進することが可能だと分かったからだ。
世の中がデータに基づき、健康ベースの家作りを進めていくようになれば幸いだ。
〇特別講演「IoT技術等を活用した次世代住宅の普及の促進」山下英和国土交通省住宅局住宅生産課建築環境企画室長
次世代住宅の実用化に向けた国土交通省の取り組みについて説明する。まず住宅政策を進めていく上での基本となる住生活基本計画は5年ごとに見直しをしており、直近では2016年に見直した。同計画では、住生活関連の新たなビジネス市場の創出や拡大を進めていくことを打ち出している。
17年6月に閣議決定された未来投資戦略2017では、さらに一歩進んであらゆるモノがネットにつながるIoT技術などを活用した次世代住宅の普及促進を盛り込んだ。
次世代住宅の展開イメージとして、電力使用量や発電量などの見える化によるスマートハウスの実現などを考えている。温度、湿度、風速をセンサーで測定するなどIoT化を通じて、ホームオートメーション化を進める。さらに人の活動データや住環境データを収集・蓄積、それを分析活用することで見守りや健康セキュリティーなど生活関連のサービスを提供し、暮らしの質を向上させていく。
国土交通省は住まい方の変化について調査している。それによると、世帯類型別の世帯数は、2010年に単独世帯が夫婦と子供の世帯を上回った。すでに世帯の半分以上が単身か2人暮らしとなり、小世帯化が進んでおり、50年には全体の約4割が単独世帯となる見込みだ。
働き方や暮らし方、ライフサイクルの変化も分析している。働き方の変化については、女性の就業率が上昇し、共働き世帯が片働き世帯より200万世帯以上多い状態になっており、働くシニア層も増加している。暮らし方では、女性の家事時間が減り男性が家事に関わる割合・時間が増加している。
ライフサイクルの変化では、リタイアしてからの時間が長くなり、シニア層が働きながら、介護に直面する状況も増加している。一方で介護や宅配分野における人手不足が顕在化しつつある。
住宅に関する消費者ニーズについての調査結果を踏まえ、国土交通省は16〜17年に住生活関連サービスの提供事業者や消費者代表らによる「IoT技術等を活用した次世代住宅懇親会」を設け、論点を取りまとめた。そこでは、高齢者の自立支援や防犯対策の充実、働く世代の家事負担の軽減や時間短縮、コミュニティーの維持・形成などが必要とされ、国土交通省が支援すべきテーマとして挙げられた。
次世代住宅の実用化に向けてはサステナブル建築物等先導事業等で、健康管理の支援や家事負担の軽減を図るプロジェクト等を補助している。
〇「ロボットと暮らす未来のデザイン」松井龍哉フラワー・ロボティクス代表ロボットデザイナー
去年から今年にかけて、新聞などのメディアで人工知能(AI)という言葉を見ない日はないと言えるほどAIは社会的に話題になっている。この状況は欧米やアジアも同様だ。
今後、AIとロボットが私たちの生活にどのような影響をもたらすのか、世界中で注目されている。当社は少し先の未来の新しいライフスタイルや産業を見据えたビジネスモデルの構築に取り組んでいる。これから先の暮らし方を考えるヒントにしてほしい。
フラワー・ロボティクスは2001年に設立したベンチャー企業だ。人々の暮らしに自然と溶け込むロボット製品の開発・販売を行っており、人が違和感を覚えないデザインを重視している。
当社の事業目的は、ロボットにより21世紀の産業を創ること。20世紀に人間の生活を大きく変えた新しい産業に自動車産業と情報産業がある。それと同様にこれから100年の前半はロボット産業が人類の力になると考えている。後半は遺伝子技術の発達で、バイオテクノロジー系の産業が発展するだろう。
当社は自動車やパソコン、スマートフォンと同じく、日常生活にロボットがある世界を目指している。10年前は日常生活でスマートフォンを見かけることはなかった。しかし、たった10年でスマートフォンを見ない日はなくなった。このようにロボットも急速に普及すると考えている。
ロボットという言葉の語源は労働を意味するチェコ語の「ロボッタ」と言われている。人がロボットに求めるのは生産性の向上と労働からの解放だろう。
わが国は他国に先駆けて、自動車製造用のロボットアームの技術開発が進んだおかげで、ロボット製造に関係する特許の数が多く、人材も豊富だ。
ロボットの定義は、コンピュータ—のような知能制御系とセンサー、駆動系の三つの要素技術がシステムとして統合されていることとされている。ロボットは、センサーで周辺の環境を認識し、知能系で最適な選択を行い、行動に移す。
二足歩行ロボットは、最初はうまく歩けないが、データを蓄積し、最適なバランスを学習することで、スムーズに歩行できるようになる。そのようなロボットをわれわれは「目的を持った第三者」と呼んでいる。周囲の環境の中から情報を得て、行動基準を作る自立型ロボットの製造に力を入れている。
まず人間の生活があり、そこにロボットが適応して、人間と共存共栄することが重要。ロボットが人間の生活に入り込んでいる「21世紀の自然」を作りたいと考えている。
世界規模でロボットの研究者が参加する自立型ロボットのサッカー大会「ロボカップ」が年1回開催されている。
この大会の最終目標は、2050年に人間の世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットのチームを作ること。ロボット同士だけでなく、ロボット対人間のゲームも試験的に行われている。
当社の家庭用ロボット「Patin(パタン)」は、人工知能を持った靴をイメージして設計した。台車型ロボットで、扇風機や照明、スピーカーなど上部に接続する。スマートフォンとアプリケーションのように、当社はパタンを提供し、ほかの企業が上部に接続するさまざまな機器を開発・販売することを考えている。
ほかの機器と同様、自立型ロボットもインターネットと接続されたコネクテッドロボットが今後の技術的トレンドになる。単に生産性を高める機械ではなく、新しい人工生命としてのロボットに取り組んでいる。10年先には大きく普及するだろう。
〇「『ライフスタイルを編集する』暮らしとは」川島蓉子伊藤忠ファッションシステム取締役ifs未来研究所所長
私は「広義におけるファッションの位置付け」を考えながら30年以上仕事してきた。広義におけるファッションとは、街と店と人のトレンドがもっとも早い段階で現象化したものと考えている。例えばパンケーキのブームや工芸的な雑貨を暮らしに取り込む動きもファッションになる。衣食住などのライフスタイルはすべてファッションだ。
これからのライフスタイルの提案には、(1)最先端と伝統的な技術の融合、(2)ものの美しさとともに、それが使われるシーンやユーザーの気分を考慮すること、(3)ブランドや製品が目指す価値を顧客に正確に伝えること—の三つが欠かせない。特に3番目は単に「伝える」ではだめで、「伝わる」のが重要。顧客が共感して購買するまでが「伝わる」といえる。顧客にリピーターになってもらうのが目的だ。老舗のブランドほど「伝わる」ことに力を入れている。
買い物を合理性だけで判断するとインターネット販売が圧倒的に有利だ。そのような状況でリアルな店舗はどうすればいいのか。その答えが講演テーマのライフスタイルの編集だ。
例えば、デパートの伊勢丹新宿店は、5階にある生活雑貨や台所用品売り場の中心にカウンターキッチンを設置している。顧客は調理や盛り付けの体験ができ、暮らしの中でどのように使うかを想像できる。
土地代や人件費を考慮すると販売効率は悪いが、このような施策を実行しないとリアルな店舗は生き残れない。
服飾ブランドのYAECA(ヤエカ)の東京都港区白金のブティックは閑静な住宅街にあり、顧客は駅から歩く過程も買い物の一環として楽しむ。同様な店舗が最近、人気を集めている。新潮社は東京都新宿区の神楽坂にあった書庫をリノベーションし、「lakagu」(ラカグ)というライフスタイルショップをオープンした。洋服や雑貨、家具などを取り扱い、カフェもある。顧客に自分の生活にも取り入れられるというリアリティーを感じさせることが重要だ。
均質化したチェーン店ではなく、ライフスタイルが発信される場所は注目を浴びる。実験的な取り組みが必要だ。ようかんで有名な和菓子店の虎屋は「伝統は革新の連続」という理念に基づき、チャレンジを繰り返している。同社が東京都港区のミッドタウンに出店する際、当時25歳の女性社員がリーダーとなり、若手社員中心のプロジェクトチームで店舗のコンセプトを作り上げた。
経営会議で役員に何十回も企画案を却下される過程で、若手は伝統を学ぶとともに、役員もチャレンジの必要性を学んだという。
ようかんを食べる人が減少しつつあるなかで、同社は新しい製品作りにも取り組んでいる。和菓子研究のため静岡県御殿場市に設置している「とらや工房」では実験的な和菓子を製造・販売している。根本(伝統)を守りつつ新たなチャレンジをする、このような機関(場所)をつくることは、企業が強くなっていくための必要要件だと考える。
フランスのファッションブラントのエルメスを3年にわたって取材した時も、虎屋と同じく、伝統に頼らず創造に挑む企業姿勢を感じた。同社社員は、ものだけでなく使う豊かさを提供することを自覚している。
価値観が多様化する時代、企業にはまず、いろんな実験を始めてほしい。
〇あいさつ
開会あいさつは、事務局を代表し日本ガス体エネルギー普及促進協議会(コラボ)の高松勝会長(東京ガス副社長)が行った。◇ウィズガスCLUBは、豊かで潤いのある生活の実現を目指し、住環境のさらなる充実・整備を進めていくことを掲げ、住宅関連事業者、キッチン・バスメーカー、機器メーカー、ガス体エネルギー事業者の4団体により、2006年6月に設立された。これまで政策提言、情報発信、社会貢献、環境貢献の四つの柱を軸に活動をしてきた。具体的には、ウィズガスCLUBシンポジウムと、全国親子クッキングコンテストの開催が主な活動だ。シンポジウムは毎回、時節に応じたテーマを設定し、有識者の知見をいただきながら、政策提言、情報発信を行っている。クッキングコンテストについては、食育活動を通じた社会への貢献を目指している。環境貢献活動としては、エネファームやエコジョーズなど高効率給湯器の普及促進を図り、植樹活動の支援を行うブルー&グリーンプロジェクトにも協賛している。
今回のシンポジウムは「近未来、その先の住まいと暮らしについて」と題して4人の方から講演いただく。モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)などのデジタル技術が進化する中、近未来に求められる住まい、暮らしとサービスは何か、生活者のライフスタイルはどう変化していくのか。未来の大きな潮流を踏まえ、ウィズガスCLUBを構成する住宅業界、住宅設備業界、エネルギー業界の今後の活動や取り組みに生かせる機会にしたいと考えている。
閉会あいさつは、日本ガス石油機器工業会の内藤弘康副会長(リンナイ社長)が行った。◇本日の講演ではアンチエイジング、IoT、ロボット、ライフスタイルと、住まいとの関連についてさまざまな大変深い示唆をいただいた。今後の住まいづくりに求められる課題やニーズを聞くことができ、給湯器、ガスコンロ、暖房機等を扱う機器メーカーの団体としての責任の重さと期待の大きさを改めて認識した。
講演の中に断熱とカビに言及した部分があった。数年前にわが家をリフォームして以来、1階の奥の部屋に湿気がたまるようになってしまった。エアコンを作動させて除湿しているにもかかわらず効果が低く、カビが発生している。
ドイツにはどんなに貧しい人にも最低限の住環境を提供する制度があると聞いた。ドイツには結露するような部屋がある住宅はほとんどないそうだ。わが家はドイツではありえないほど劣悪な環境かと残念な気持ちになった。このように日本の住宅はまだ改善する余地があり、われわれが活躍する場は多い。
日本ガス石油機器工業会は高効率給湯器エコジョーズや床暖房、浴室暖房乾燥機、全口に安全装置を搭載したSiセンサーコンロの普及促進に努めている。今後も安全・安心な機器、高効率機器の普及促進を進めていく。〇ウィズガスCLUBとは
2006年6月13日、ガス、住宅、キッチン・バス、ガス石油機器の業界4団体によるコンソーシアム「ウィズガスCLUB」が設立され、今年で12年が経つ。ウィズガスCLUBの設立経緯とこれまでの活動内容を振り返ってみよう。
異なる業界団体が業界の垣根を超え、「ガスのある暮らし」の普及に向けて一致団結する動きは、都市ガス・LPガス・旧簡易ガス業界のガス3団体が05年10月20日に立ち上げた日本ガス体エネルギー普及促進協議会(コラボ)が出発点だ。コラボにキッチン・バス業界、日本ガス石油機器工業会、住宅生産団体連合会が加わり、ウィズガスCLUBが発足した。
その基本方針は「人々の豊かで潤いのある暮らし」の実現だ。住環境のさらなる充実や整備に向け、住宅業界団体と連携を図る。(1)政策提言、(2)社会貢献、(3)環境貢献、(4)情報発信—の四つの活動を軸に、これまでさまざまな活動に取り組んできた。
まず、政策提言の一環として「ウィズガス住宅」を提唱した。快適で環境性に優れ、家族に団らんと幸せをもたらす住宅を、最新の省エネ住宅・ガス機器でかなえようという構想だ。
◇食育がテーマ
社会貢献では、食育をテーマに掲げる。中心となる活動は「ウィズガス全国親子クッキングコンテスト」だ。都市ガス・LPガス・簡易ガス事業者が小学生とその保護者に参加を呼び掛ける。今では食育の観点から夏休みの課題に採用し、学校単位で応募する小学校も多い。このため、応募総数は第1回(08年度)の2008組から毎年増え続け、17年度の第11回大会は5万8234組にまで拡大した。
今年も6月19日(食育月間の食育の日)に募集を開始した。9〜12月に全国各地で書類選考と実技予選を行い、来年1月27日、東京ガス・新宿ショールームで全国9地区を代表する11組の親子による全国大会が行われる。
◇高田松原を再生
環境貢献では、ベターリビングが主催する「ブルー&グリーン(B&G)プロジェクト」に協賛する。同プロジェクトは「ガスで森をつくる」を合言葉にした植樹活動で、ブルーはガスの炎、グリーンは樹木を意味する。06年6月、BL—bsガス給湯・暖房エコジョーズ、エネファーム、エコウィルの出荷1台につき、ベトナムに1本の樹木を植樹する取り組みとしてスタートした。「省エネ機器の普及」と「森林増加」のダブル効果を狙うものだった。
14年度まで約8年にわたり約2200haに390万本を植樹し、樹木の成長と機器の普及分を合わせ、年間105万tものCO2削減効果を上げた。これは日本の家庭約21万世帯の年間排出量に相当する。現地では、森林形成による環境改善のほか、林業分野における雇用創出などの効果ももたらした。
15年度からは、東日本大震災で津波の被害にあった岩手県陸前高田市の名勝「高田松原」の再生支援事業に乗り出している。NPO「高田松原を守る会」と協力して、松苗の育成から試験植樹、本植栽に取り組む。16年6月、18年4月には、市民やボランティアに加え、ガス事業者やガス機器メーカー、住宅事業者も協力し、「再生植樹祭」を実施。総勢約300人が、同市の竹で作った苗木の初期生育を促す竹簀(たけず)とともに、1本ずつ心を込めて苗木を植樹した。
同プロジェクトが提供するマツ枯れに強い1万本の松苗は「ブルー&グリーン苗」と呼ばれ、来年までの3年間に2haの植樹が完了する予定だ。
◇シンポジウム開催
「豊かで潤いのある暮らし」を発信する場として年に1度、6月に開催する「ウィズガスCLUBシンポジウム」がある。
「豊かで潤いのある暮らし」の意味合いは、少子高齢化や情報通信技術の発達など、社会の変化に応じて変わっていく。そこで、「ストック時代の『住まいと暮らし』の未来像」「住まいと街の“創り方”」など毎年、時流に合わせたテーマを設定し、官民学の有識者などによる講演やトークセッションが繰り広げられる。ウィズガスCLUBを構成するそれぞれの団体が考えるべきことを確認する貴重な機会となっている。
また、国土交通省が推進し、住宅生産団体連合会が取り組む10月の住生活月間に行われるイベントにも、ブースを出展し、ウィズガスCLUBの活動を紹介している。
〇2030年に530万台へ、業界の枠を超え一致団結/エネファームパートナーズ
ウィズガスCLUBシンポジウムの開催当日、家庭用燃料電池エネファームの普及促進組織「エネファームパートナーズ」の第5回総会が開かれた。同組織は住宅関連業界、エネファーム製造業界、エネルギー業界が、業界の枠を超えて2013年に発足。この日の総会では、20年代に補助金に頼らない市場の自立化、30年に全世帯数の1割に当たる530万台の普及目標に向け、関係者が一致団結して取り組むことを確認した。
エネファームは、家庭用エネルギーシステムの中でも最高クラスのCO2削減効果があり、家庭部門のCO2を削減する重要機器と位置付けられる。09年5月、世界で初めて市場投入され、普及台数(補助金交付ベース)は7月2日に25万台に到達。530万台が達成されると家庭部門のCO2排出量を約4%(年間約800万t)押し下げる効果があるという。
エネファームは、住宅の省エネルギー基準適合義務化やネットゼロエネルギー住宅の推進など、国が進める住宅の省エネ強化の動きに合致する。第5次エネルギー基本計画では最も普及が進んでいる水素関係技術とされた。エネファームパートナーズの会員数は発足当時の2・5倍の158団体・事業者へ拡大している。
総会では、資源エネルギー庁の山影雅良水素・燃料電池戦略室長が「昨年末に策定された水素基本戦略では水素社会を実現する有用なアプリケーションとしてエネファームを位置付けた。現在策定中の第5次エネルギー基本計画でも業務用・産業用を含め広く燃料電池技術を使うことを考えている。皆さんと歩調を合わせ、強力に普及を推し進めていきたい」と語った。
コージェネ財団理事長の柏木孝夫東京工業大学特命教授は「エネファームに追い風が吹いている。省エネの要として太陽光など再生可能エネルギーとエネファームをセットにすれば、調整用電源としても仮想発電所としても機能する。ネットワーク社会が本格化する中、この分野で日本がトップランナーであるのは間違いない」と鼓舞した。
エネファームには電解質の違い等によって、PEFC(固体高分子形燃料電池)とSOFC(固体酸化物形燃料電池)があり、前者はパナソニック、後者はアイシン精機が製造している。
総会でパナソニックは、街区全体でエネファームの電力を融通し、再生可能エネルギーによる不規則な出力変動を調整するスマートタウン構想を紹介。アイシン精機は大阪ガス等が行うエネファームの余剰電力買い取り制度が全国のガス事業者にも広がることを期待した。
住宅生産団体連合会の小田広昭専務理事は「住宅の省エネ化へエネファームは欠かせない。50万円という消費者負担の実現と、既存の集合住宅にも付けられる機器の開発をお願いしたい」と要望した。
〇合同懇親パーティー開催
ウィズガスCLUBシンポジウム、エネファームパートナーズの総会後、会場を移し、両団体合同の懇親パーティーを行った。ウィズガスCLUB構成団体、エネファームパートナーズ総会出席者など約300人が参加した。
主催者を代表し、住宅生産団体連合会の竹中宣雄副会長(ミサワホーム社長)が「ウィズガスCLUBは2006年6月に住宅に関連する4団体が『豊かで潤いのある暮らし』の実現を目的に設立した。一方のエネファームパートナーズは13年5月、エネファームの普及拡大に向けて関連業界が立ち上げたコンソーシアムだ。先ほどのシンポジウムではデジタル技術が進化する中、住まいやライフスタイルがどう変化していくのか、今後住環境に求められる課題や住環境事業の新たな可能性について、期待や市場の展望を伺った。並行して行われたエネファームパートナーズ総会では、ネットゼロエネルギー住宅(ZEH)の実現あるいは省エネ基準適合義務化といった高度省エネ・省CO2社会の対応策としてエネファームの果たす役割の大きさを再確認し、改めて取り組みの重要性を認識した」とあいさつした。
建築環境省エネルギー機構の村上周三理事長は「政府の掲げる家庭用部門の40%省エネの実現に向け、重要な機器の一つがエネファームだ。国際公約に向け、努力してほしい」と乾杯の発声をした。
キッチン・バス工業会の林良佑会長(TOTO取締役常務執行役員)は「シンポジウムでは岩前先生からヒートショックは夜間の寒いトイレが危険との指摘があり、TOTOとしてトイレを空間として進化させなければならないと思った。これまでの『快適』に『健康』を加えて、明日から住宅設備作りに励んでいきたい。TOTOもSOFC(固体酸化物形燃料電池)の開発を続けている。エネファームパートナーズの取り組みを伺い、改めて先行2社の開発力の高さを実感した。当社の開発陣に奮起を促し、当社だからこそできる製品を開発したい。ガス体エネルギーが世界に誇れる日本のエネルギー業界として発展されることを願っている。メーカー側も皆さまのご支援をいただき、頑張っていきたい」とあいさつし、三本締めで締めくくった。