![「暮らしまち未来会議2019」~健康・快適、レジリエンス・環境へ貢献~](https://www.gas-enenews.co.jp/wp-content/uploads/2019/12/20191209-tokusyu-pdf.jpg)
ウィズガスCLUB(住宅生産団体連合会、キッチン・バス工業会、日本ガス石油機器工業会、日本ガス体エネルギー普及促進協議会=コラボの4団体で構成)とエネファームパートナーズ、日本ガス協会は10月31日、東京・千代田区の東京会館で「暮らしとまち未来会議2019」を初開催し、関連業界から約560人が参加した。住まいにおける「健康・快適」をテーマとしたパネルディスカッションや特別講演のほか、エネファームパートナーズ総会とまちの未来シンポジウムが行われた。
≪第1部暮らしの未来シンポジウム≫
開会あいさつは、ウィズガスCLUBを代表し、高松勝コラボ会長(東京ガス副社長)が行った。
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ウィズガスCLUBは政策提言、情報発信、社会貢献、環境貢献の四つを柱に活動している。今年は「暮らしとまち未来会議2019」を初開催する。第1部「暮らしの未来シンポジウム」では人生100年時代を見据え、住まいにおける健康・快適をテーマにパネルディスカッションを行う。皆さまの活動や取り組みに生かしていただきたい。
<パネルディスカッション>
・住宅満足度に世代差
池本今住んでいる賃貸住宅への満足度は20代と40代以上で大きく異なる。40代以上は実家の断熱性が低かったので「今の賃貸の方が良い」と考えている人が多いが、10代20代では「実家の方が良い」という回答が増える。実家の築年別で見ると、2001年以降に建った実家で育った人は圧倒的に「実家の方が良い」と回答している。
法律に基づく住宅性能評価制度が00年から始まり、分譲住宅や注文住宅は性能が一気に上がった。ところが賃貸は「性能を上げても家賃が高くとれるか分からない」などの理由でなかなか浸透しなかった。今の20代は恐らく「性能評価書」の付いた高性能な住宅で育ってきたのだろう。賃貸住宅のオーナーには「これからは断熱などの『見えない性能』を向上させないと若い人は住んでくれませんよ」と言っている。
住宅性能評価書の交付率は、18年度に26・1%と過去最高を記録した。住宅性能に対する関心は明らかに高まっており、事業者の対応も進んできている。しかし、特に分譲マンションや賃貸に関しては、入居時の消費者の省エネ性能に対するニーズが高くない。一方で入居後は不満が出てくる。今は表面化していないだけかもしれない。
そこで国交省からも支援を受け、大手ポータル3社で省エネ性能を目立つ位置に掲載する取り組みを進めている。家賃のすぐそばに月間の推定光熱費を表示すれば、省エネ性能が広告上で評価されて入居者を集める効果を生み出し、一気に普及が進む可能性があると思っている。
・快適空間で効率向上
梶本私の専門は疲労医学。疲労の原因になっているのは脳の中の自律神経だ。研究の中で居住空間が自律神経に密接に関係していることが分かってきた。「不快な環境」は、自律神経を最も疲弊させる原因の一つ。オフィスやリビング、寝室の環境を改善すれば仕事や睡眠の効率が上がり、自律神経が癒やされる。
筋力などに比べ、自律神経機能は加齢で大きく低下する。40代では20代の半分、60代では4分の1くらいになる。筋力が20代の半分になったら歩けないが、自律神経は40代で半分になっている。自然界の動物は、この状態で半分くらいが死んでしまう。50代以上のわれわれは「ほぼ死んでいる」ということ(笑)。人間が50代以降も元気に生きていられるのは、服を着てエアコンをつけているからだ。
兵庫県姫路市では今夏、市役所の空調設定を28度から25度に下げる実験を行った。電気代・ガス代は7万円ほど増えたが、業務効率が上がって残業時間が一人当たり月平均2・9時間も減り、全体では約4000万円もの人件費削減になった。残業時間が減ればCO2排出量も減る。
エコナビスタが理化学研究所と共に進めている「くらしミマモリAI開発プロジェクト」では、見守り機器を通じて睡眠中の呼吸・心拍・体動や、温度・湿度などの施設環境、日々の活動量まで約1600人のデータを24時間365日、自動でサーバーに集積している。これが5年、10年たつと、寝室環境や外出回数など「どういう生活をしている人が長生きするのか」が分かってくる。
例えば「早寝早起きは健康に良い」と思われているが、実は科学的な根拠は全くない。当社は現在、非接触センサーで「(熱中症や心筋梗塞などの)事故が起きる前に予兆を知らせる」健康アドバイスをサービス化しているが、こうしたビッグデータを使えば「あなたにとって最も健康長寿な生き方」を提案できるかもしれない。
・省エネと「快適・環境」の両立を
田辺私は九州小倉の出身。実家は、私が高校生くらいの時に父が建てたものだが、今思うと寒かった。80年代にデンマークに留学して初めて「暖かい住宅」を知った。外はマイナス10度なのに、体験したことがないほど暖かい。これが「建築の快適や健康について研究しなければならない」と感じたきっかけだ。
消費者庁は毎年「冬季に多発する入浴中の事故」に対する注意喚起を行っている。日本では浴室や脱衣室が寒いことによって、いろいろな病気や事故が起きるからだ。ヒートショックによる死者数は年間1万7000人とも言われ、交通事故による死者数の約4倍。これは家を暖かくすれば解決する問題で絶対にやらなければならないことだ。
居住者が暖かいと感じる住宅では、糖尿病や心疾患やぜんそくの症状が改善することが分かっている。冬の風邪の発症率も低下する。暖かさに関する居住者の評価には、床の表面温度の寄与が非常に大きい。実はエアコンを入れて断熱をしっかりしても、床の温度は必ずしも床暖房を入れた時ほどには上がらない。住宅に関する評価には「快適・健康」を入れる必要がある。省エネも重要だが、二つを両立させていくべきだ。
・住まいはより快適で健康に
池本今までは、寒さをどうしのぐかとか、狭さから広さへといった「住まいの不満・不安の解消」が住宅政策の中心であり、住宅事業者のビジネスチャンスだった。ただ、これからは「より快適で健康に」という方向に変えていくべきだと感じている。とはいえ、まだまだ住宅の販売現場では、快適性・健康性への希求はそれほど強くないとも感じる。この辺をどう考えるか。
田辺みんな「知らない」だけだと思う。暖かいところで暮らしたことがないと、寒くても不満を感じない。今の学生は「東京のワンルームマンションは寒い」と言う。私のころは実家も寒かったので、寒いアパートに何の不満も感じなかった。意識が変わったのはデンマークに行ってから。体験することが重要だと思う。シニア世代でも、マンションに一度住んだ人は、質の悪い戸建てに引っ越すとよく分かるのではないか。
梶本家庭のリビングは、昼間は主婦が活動する場所だが、夜は休息の場でもある。そうした部屋の環境は24時間同じ制御ではだめ。仕事をする場所と癒やされる場所が同じということは(自然環境の中では)あり得ないわけで、居住者が「仕事と休息」の切り替えをちゃんとできるように、照明や空調の設定を統合的に変化させる必要がある。
快適性や心地よさというものは、日本では「ぜいたく」みたいなイメージがある。実際には、快適性を高めることはパフォーマンスの向上につながり合理的。シンガポールやムンバイ、ドバイなど赤道に近い都市が経済発展できたのは、エアコンで業務効率が上がったおかげだ。快適性の向上は経済発展まで加速させる。「合理的かどうか」で判断すべきだ。
・レジリエンスも重要
池本台風19号、21号では大きな被害が出た。気候変動問題をどう考えているか。
田辺世界的に気候非常事態宣言(CED)を出す動きが広がっている。これだけ大規模な自然災害が増えると、単にCO2を減らすだけでなくレジリエンスも大事。例えば、台風の被災地でネットゼロエネルギー住宅(ZEH)がどうなっていたのかを調べることは重要だ。停電時発電継続機能を備えたエネファームは台風15号の停電時にも稼働していた。
梶本科学の進歩から生じた弊害は、科学によって克服していくしかない。風水害に対する警報をITを活用して早期に出したり、見守りシステムをうまく使って、台風が来る前に災害弱者を先行して避難させるというような工夫は、今後できると思う。
・快適性の啓発を
池本今日は私も知らないことがたくさんあった。こうしたことを国民にもっと知ってもらう必要がある。
田辺建築物省エネ法が改正され、建築士には省エネに関する説明義務が課された。その中で「寒い住宅は良くない」とか「床を暖かくしたほうが良い」というような説明を加えてもらうことを運動としてやっていくべきだ。
「暖かい家・暖かい床」を体験する施設も増やす必要がある。ガス事業者は住宅の中に入れるのが強みだ。この信用をIoT(モノのインターネット)やビッグデータと組み合わせて、何に生かせるかを考えることが未来につながると思う。
池本ポータルサイトができることは、良質な建物を適正に評価して世の中に情報発信していくこと。省エネ性能の表示は間違いなく進んでいく。次に出てくるのが快適性だが、こうしたことに関するポータルサイト上の情報も進化していくと思う。ぜひ期待してほしい。
<リノベーションに注目/池本氏講演>
これから住宅着工はどんどん減っていくが、住宅市場を見る上では中古流通市場や賃貸市場も重要だ。17年実績で新築の一次取得は住宅市場全体の20%に過ぎず、70%が賃貸住宅。30年に向けて新築マンションと注文住宅の供給量は減っていくが、新築分譲一戸建てと賃貸は横ばい、既存のマンション・戸建ての流通量は増えるとみている。「中古マンションを買い取り、リフォームして再販する」ビジネスモデルが広がっている。
賃貸の部屋探しのときに重視されるのは間取り・設備・内装だが、入居後の改善ニーズは遮音と断熱になる。「季節によって室内の温度差が激しい」と感じる人は入居者の7割に達しており、21・5%はそれを理由に「引っ越したい」とまで言っている。10戸のうち2戸が空室になるリスクがあるということで、賃貸住宅のオーナーからすると無視できない数字だ。
首都圏の分譲一戸建ての床暖房設置率は00年以降2割で横ばい。一方、分譲マンションは同年以降4割まで増え、今では新築の6割に設置されている。こうしたデータは、どこに床暖房を売り込む余地があるのかを考えるのに役立つだろう。床暖房には、中古住宅の価格下落を抑制する効果もあり、その影響度は築年数が古く立地が悪いほど大きくなる。
最近の傾向としては「時短」重視がある。特にリノベーション物件では、L字型の壁付けキッチンや「見せる収納スペース」など家事効率を考えた設備が増えている。もう一つは「リビ充」。在宅勤務が増えてきたため、仕事ができるロングテーブルやリビング脇に設ける「室内窓付きのワークスペース」が人気だ。
住宅の設備・間取りトレンドを知りたいなら、新築よりリノベーション物件を見るべき。リノベーション物件にこそ、今の消費者ニーズが反映されている。
●田辺新一氏(パネリスト)/早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授
日本学術会議会員、空気調和・衛生工学会会長。専門は建築環境学。主な著書に『ゼロ・エネルギーハウス』など。1982年早稲田大学理工学部建築学科卒、同大学大学院修了。工学博士。84~86年デンマーク工科大学研究員、92~93年カリフォルニア大学バークレー校研究員、92~99年お茶の水女子大学助教授、99年早稲田大学理工学部建築学科助教授、01年から同大学教授。
●梶本修身氏(パネリスト)/大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授エコナビスタ取締役会長
文部科学省「疲労と疲労感に関する分子神経メカニズム研究班」において疲労の定量化技術の開発に従事。「産官学疲労定量化および坑疲労食薬開発プロジェクト」では責任者を務める。ニンテンドーDSのソフト「アタマスキャン」をプログラムし「脳年齢」ブームを起こす。大阪市立大学医学部発のメディカルITベンチャー「エコナビスタ」では疲労医学とIoTを融合した24時間快適・安全・安心空間制御プログラムを開発。
●池本洋一氏(ファシリテーター)/リクルート住まいカンパニー『SUUMO』編集長
1995年リクルート入社、住宅情報編集部に配属。2011年より住まいに関する総合情報サイト『SUUMO』編集長。既存住宅流通、地域活性化、シニアの住まい、省エネなどに関する住宅コメンテーターとして活躍。国土交通省の既存住宅市場活性化ラウンドテーブル委員をはじめ、経済産業省、環境省、内閣官房などで多くの委員を歴任。
≪第2部暮らしとまち未来会議≫
<特別講演>SDGs×消費者・生活者」を考える~変わる消費者像と地域共生~
東京への人口一極集中が進む中、単身世帯が増加している。全世帯に占める割合は、2015年に34・5%だったが、いずれ40%になると見込まれる。その中で、消費者庁として注視しているのは、22年に予定される成年年齢の18歳への引き下げの影響だ。これまで高額商品の購入に際し、20歳までなら親に連絡があったが18歳で当事者判断となる。このため若者を狙った悪質商法の被害が増える可能性がある。すでにSNS(会員制交流サイト)を通じたマルチ商法の被害事例も出ている。
さらに興味深いデータとして年代別の「移動回数」(1日当たり)がある。20代の移動回数は05年に60代を下回り、15年には70代も下回った。元気なシニアと出掛けない若者の構図が鮮明だ。諸外国でも同様の傾向がある。
一方で国際化に伴い日本でも外国人居住者が増えている。総人口に占める割合は2%弱だが、東京都新宿区は12%、豊島区は10%というように、自治体によっては外国人居住者が1割を超えてきている。この中には、日本の慣習に戸惑う外国人も多い。
消費者被害の中で最近多いのは、ネット取引トラブルや義援金詐欺、保険金詐欺などだ。背景にはデジタル化や自然災害の多発がある。消費者被害・トラブル額は、年間約5・4兆円、GDP(国内総生産)の1%に相当する。
消費者庁は、中国製冷凍ギョウザ中毒問題やこんにゃくゼリー窒息事故などを契機に09年に発足し、今年で10年が経った。この間、悪質業者対策や使い方次第で事故につながる消費機器問題などを手掛けてきたが、今、われわれは、「絆を失う高齢者」「基盤を築けない若者」「戸惑う外国人」という時代状況の中にいる。それを認識して、消費者行政に取り組むことが重要だと考えている。
そこで重要なのは「地域との共生」だ。単身世帯が増えると、頼れるのは家族ではなく、地域になる。働き方改革は、自分の住む地域を見直すよい機会だ。一人一人が主体的に考え、地域全体で消費者を支える社会を構築したい。
具体的には地域包括支援センターの福祉ネットワークに消費生活センターも加えて、高齢者らへの見守り活動の中で消費者被害を未然に防ぐ、あるいは早期に解決する仕組みを各地で構築していく。地域に根差すガス事業者には、福祉や防犯・防災などさまざまなネットワークの中で、ぜひ見守り活動に協力していただきたい。
また、消費者保護と消費者の自立支援にも取り組んでいる。だまされない賢い消費者になるための教育に注力していきたい。
併せて、SDGs(持続可能な開発目標)への対応もしていきたいと考えている。SDGsには12番目に「つくる責任つかう責任」がある。何を作るか、何を使うか。これは、ここにいる皆さんに関係することだ。「自分が売っているものが本当に好きか、友人にも20年後の自分にも自信を持って勧められるか」と立ち止まって考えることが、本当の意味でのSDGsにつながると思う。
そして、事業者と消費者の協働による持続可能な消費社会の実現を目指したいと考えている。消費者庁は、10月から食料ロスの削減にも各省と連携して取り組んでいる。日本では子供の7人に1人が貧困に苦しむ一方、1年間に1人が食べるお米の消費量とほぼ同じ量の食品ロス(約51㎏)がある。このロスをなくすには企業も消費者も変わらなくてはいけない。
かつて消費者と企業は対立軸で語られることが多かったが、これからは協働の時代、融合の時代だと思う。
●伊藤明子氏/消費者庁長官
1984年旧建設省入省。2010年国土交通省住宅局住宅総合整備課長、12年住宅生産課長、14年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長兼内閣府地方創生推進室次長、16年国交省大臣官房審議官(住宅局担当)、17年住宅局長、18年内閣官房まち・ひと・しごと創生本部地方創生総括官補、19年7月より現職。
<暮らしとまち未来会議宣言>
半日にわたり開かれたシンポジウム、総会の参加者が最後に一堂に会した。沢田聡コラボ事務局長(日本ガス協会専務理事)は「本日、暮らしとまちの未来について共に考える場として『暮らしとまち未来会議2019』を開催した。人生100年時代を見据え、多くの時間を過ごす住まいにおける健康・快適の重要性が高まっていることや、地震や台風など大規模自然災害が近年相次いで発生し、インフラの強靭化への関心が高まっていること、環境面でも優れたまちづくりが目指されることを背景に、パネルディスカッションや講演が行われた。伊藤消費者庁長官のご講演では、変わる人・変わる社会の中で、われわれ事業者に、消費者・地域と共に持続可能な社会を実現してほしいというエールを送っていただいた」と総括。「われわれウィズガスCLUBとエネファームパートナーズならびに本会議にご参加の皆さまで、豊かで潤いのある未来の暮らしやまちづくりに向けての決意を『暮らしとまち未来会議宣言』として発表し、確認したいと思う」と述べた。
それに応じて、主催者を代表して5人が登壇。代表して高松勝コラボ会長が「新しい技術の積極的導入や適切な温熱環境の実現を通じて、健康・快適な暮らしの創造に貢献します。エネファームをはじめ、レジリエンス性と環境性に優れたコージェネレーションシステムの普及に努め、安全・安心・持続可能なまちづくりに貢献します」と宣言した。
<10年で30万台に到達、停電時も持続可能な住まい/第6回エネファームパートナーズ総会>
家庭用燃料電池エネファームの普及促進団体「エネファームパートナーズ」の第6回総会も開かれた。住宅関連業界、エネファーム製造業界、エネルギー業界が業界の枠を超え、2013年に結成した団体で、この日は、近年日本各地で発生した台風に伴う停電発生時に発電を続けたエネファームの紹介や、発売10周年を記念し制作した映像の放映があった。
冒頭、事務局がエネファームの累計普及台数が10月末で30万台に到達する見通しを報告した。白井俊行資源エネルギー庁新エネルギーシステム課長兼水素・燃料電池戦略室長は「水素・燃料電池への関心が世界中で高まっている。背景には、水素が脱炭素化の切り札であるという認識がある。わが国では官民連携で世界に先駆けて水素の国際間サプライチェーンの実証事業に着手している。中東やブルネイ、豪州などの資源国は低コストな未利用化石燃料資源を水素に変換して供給することへ関心を深めている」と説明。需要面では燃料電池自動車の普及が米国やアジア、ヨーロッパで進んでいることを指摘した。エネファームに対する国内外での関心の高さを示す事例としては、35カ国・地域機関から累計600人が参加した今年9月の水素閣僚会議で、各国代表団から初期コストや政府支援など日本の取り組みに対する質問が多くあったことを紹介した。
「従って、皆さまは海外展開も視野に入れてエネファームの導入・普及に取り組んでいただきたい。販売台数の拡大で生産コストが下がり、国内の普及にも弾みがつく好循環を期待している。国内では大規模災害が続く中、レジリエンス(強靭性)の強化の観点から、停電時にも電気と熱を供給するエネファームが注目されている。政府もできる限りサポートをしていく」とあいさつした。
柏木孝夫コージェネレーション・エネルギー高度利用センター理事長(東京工業大学特命教授)は「今年6月のG20大阪サミットでは環境と経済の好循環というテーマの中で、イノベーション、民間資金活用、ビジネス環境の充実という三つのワードが掲げられた。イノベーションとは新たな技術開発にとどまらず、技術開発がもたらす経済社会システムの構造変革・改革によって導かれる新たなビジネスモデルや付加価値モデルの創生を意味する。この観点から言えば、エネファームは社会システムへの波及効果の大きい技術開発だ。私は最近『SDR』という言葉を作った。Sは持続可能、Dはデジタル、Rはレジリエンスを指す。電力需給を需要側でも制御できるようになれば、エネルギーシステム全体がシステマティックでコンパクトになり、適切なエネルギーミックスが実現する。分散型電源が入ることで強靭な暮らしも担保できる。ネットゼロエネルギー住宅の普及促進に当たっても、強靭化に資するエネファームを設置するプランも加えた形の制度改革を強く望んでいる」と述べた。
藤原正隆大阪ガス副社長は、まず昨年9月の台風21号大規模停電下におけるエネファームタイプS(SOFC・固体酸化物形燃料電池)の稼働状況を説明した。
9月4~5日の2日間、関西地方では最大約240万戸の停電が発生したが、停電時発電継続機能を持ち、同社のサーバーと接続しているエネファームの約90%に当たる853台の自立運転を確認した。サーバーと未接続のタイプを含めると、約2000台が自立運転したと推定されるという。自立運転したエネファーム設置宅からは「シャワーを浴び、浴槽にお湯も張れた。エネファームのリモコンが明かり代わりになった」「携帯電話が充電できたほか照明や扇風機も動かせた」など、エネファームがあって良かったと感謝する多くの声が寄せられた。
エネファームタイプSは連続運転によってマイコンメーターがガス漏えいと誤って感知しないように、27日ごとに約28時間発電を停止するシステムになっている。大阪ガスは停電がこの期間に重なることのないよう、今年からIoT接続を用いた遠隔操作により、発電停止日を前倒しするサービスを開始。既に今年8月と10月の台風到来時にこのサービスを提供した。
大阪ガス研究所の気象予報システムから大型台風接近のアラート(警報)を上陸5日前に受信し、IoT接続機能により遠隔操作で発電停止日を台風上陸の5~2日前に前倒し作動させる。8月10日には449台の発電停止日の前倒しに成功した。
さらに、藤原副社長は今年9月7~8日に千葉県を襲った台風15号におけるエネファームの活躍を紹介した。大多喜ガス、京葉ガス、東京ガスがまとめたお客さまの声によると「コインランドリーがどこも大行列の中、わが家では洗濯機が使えて助かった」「残暑が厳しい時期だったので、冷蔵庫が無事で入浴できたのがありがたかった」などが挙がった。発電停止中のエネファーム(PEFC・固体高分子形燃料電池)を顧客自身が携帯型発電機で起動させた例や、千葉県をはじめ横浜市や鎌倉市ではサービスショップ社員が巡回して起動させた事例も報告された。
藤原副社長は「停電時にエネファームが発電した事例が全国で多数報告されている。省エネ性に加え、レジリエンス性という新たな価値がお客さまから認められつつある。普及台数530万台の早期実現に向け、一致団結して取り組んでいきたい」と総括した。
■ウィズガスCLUBの活動■
(1)政策提言—ウィズガス住宅の提唱
(2)情報発信—シンポジウム開催、住生活イベントへの出展(3)社会貢献—クッキングコンテストの開催
(4)環境貢献—ブルー&グリーンプロジェクトの推進
主な活動
2006年6月に、ガス、住宅、キッチン・バス、ガス石油機器の業界4団体によるコンソーシアム「ウィズガスCLUB」が設立され、今年で13年が経つ。異なる業界団体が業界の垣根を超え、「ガスのある暮らし」の普及に向けて一致団結する動きは、前年の05年10月、都市ガス・LPガス・旧簡易ガスのガス3団体が立ち上げた日本ガス体エネルギー普及促進協議会(コラボ)が出発点だ。コラボにキッチン・バス工業会、日本ガス石油機器工業会、住宅生産団体連合会が加わりウィズガスCLUBが発足した。
「人々の豊かで潤いのある暮らし」の実現を基本方針に掲げ、(1)政策提言、(2)情報発信、(3)社会貢献、(4)環境貢献—を軸に、さまざまな活動に取り組んできた。政策提言では「ウィズガス住宅」を提唱した。快適で環境性に優れ、家族団らんをもたらす住宅を、最新の省エネ住宅・ガス機器でかなえようという構想だ。
情報発信では、昨年まで6月に行っていた「ウィズガスCLUBシンポジウム」を見直し、「暮らしとまち未来会議2019」を新たに開催した。また、国土交通省が推進し、住宅生産団体連合会が取り組む10月の住生活月間中央イベントでもウィズガスCLUBの活動を紹介している。
社会貢献では食育をテーマに、「ウィズガス全国親子クッキングコンテスト」に取り組む。同コンテストは07年度から毎年実施しており、13回目の開催となる19年度の応募総数は5万8402組となった。来年1月26日、東京ガス・新宿ショールームで全国9地区の大会を勝ち抜いた11組の親子によって全国大会が行われる。
環境貢献では、ベターリビングが主催する「ブルー&グリーン(B&G)プロジェクト」に協賛する。06年6月に、BL—bsガス給湯・暖房エコジョーズ、エネファーム、エコウィルの出荷1台につき、ベトナムに1本の樹木を植樹する取り組みとして始まり、15年度からは東日本大震災で津波被害にあった岩手県陸前高田市の名勝「高田松原」の再生支援事業に乗り出した。今年4月には第3回「再生植樹祭」が行われ、今年度中には当初計画の2haの大半の植樹が完了する予定だ。
<まちの未来シンポジウム>
●分散型エネの普及推進を、国・自治体との連携で環境整備へ
まちの未来シンポジウムは、コージェネなど分散型エネルギーシステムの環境性や強靭(レジリエンス)性の価値、今後の方向性を示す講演で構成した。3都市ガス事業者が国や自治体と連携した取り組み事例を発表した。
日本ガス協会の沢田聡専務理事は開催目的を「従来のコージェネ推進連絡会の活動を広げ、多様なステークホルダーに対して分散型エネルギーの主力としてのコージェネの価値の発信と、さらなる水平展開のために、暮らしとまち未来会議のテーマセッションの一つに加えた」と開会あいさつで述べた。
下堀友数経済産業省資源エネルギー庁ガス市場整備室長は「今年は台風被害が多く、広範囲で停電も発生したが、ガスコージェネや分散型エネルギーシステムによる電力供給で地域の皆さまに貢献した。国土強靭化に資するシステムとして国も補助制度などで普及を後押ししている」とあいさつした。
山崎琢矢資源エネルギー庁省エネ・新エネ部政策課長兼熱電併給推進室長が「エネルギー需給構造の転換と需給一体型モデルの推進」をテーマに、基調講演を行った。
山崎課長は再生可能エネルギー100%の電力を求める需要家の増加、固定価格買取制度(FIT)の期間を満了した住宅用太陽光発電の出現などにより、今年はエネルギー需給構造の転換(エネルギー・トランスフォーメーション)の節目の年であると指摘。エネ庁は再エネの大量導入時代に向けて、需要規模別に「家庭」「大口需要家」「地域」の三つのエネルギー需給一体型モデルを推進しており、その確立にはエネルギー事業者だけでなく自治体などさまざまなプレーヤーが融合した取り組みが必要になると述べた。同庁は分散型エネルギーを推進する際の課題抽出や解決のための議論の場として「分散型エネルギープラットフォーム」を設置したと説明した。
山崎課長は「ガスコージェネこそがもっとも歴史のある分散型エネルギー。エネルギー・トランスフォーメーションを正面から受け止め、主要プレーヤーとして市場の拡大を目指してほしい」と述べた。
国交省都市局、宇都宮市副市長等を経て、現在UR都市機構で都市再生担当理事を務める荒川辰雄氏は「地域振興のためのコジェネレーションシステムへの期待」をテーマに特別講演を行った。
荒川理事は国交省都市局で、コージェネや清掃工場からの排熱利用を通じた低炭素まちづくりを目指し、熱導管による広域的エネルギーネットワークの構築を検討した事例や、宇都宮市副市長時代に清原工業団地で業種の異なる複数の工場間で電気と熱を融通するスマートエネルギーネットワークの構築を官民連携により実現した事例を紹介。昨年の北海道胆振東部地震による停電中にガスエンジンで自立発電したほか、余剰電力を北海道電力に売電したJFEエンジニアリングの農業施設の事例も説明した。
荒川理事は「地域エネルギーを有効活用するには自治体の都市開発部局とエネルギー担当部局が連携することや国の手厚い財政的支援が重要」と述べた。
大阪ガスビジネス開発部の大内敏弘マネジャーは日本海水が兵庫県赤穂市の工場で行う木質バイオマスとガスタービンを融合した停電対応型コージェネでのCO2削減の事例、西部ガスビジネスソリューション部の牛島玄氏は福岡県北九州市で住宅街区のゼロカーボン化とタウンマネジメントに取り組んだ事例、京葉ガスエネルギー開発部の佐藤昌弘公共営業グループマネージャーは千葉県柏市の沼南庁舎に停電対応型ガスエンジンコージェネやGHPを導入し、低炭素化とともにレジリエンス性を向上させた事例を発表した。
最後に日本ガス協会天然ガス普及ユニットの高橋稔ユニット長が、各地のガス事業者や地方部会が推進する「地方コージェネ協議会」の活動や先進的なコージェネ普及活用事例を紹介。「天然ガスの高度利用によって地域価値の向上に貢献する」と述べた。
■懇親パーティー開催■
暮らしとまち未来会議2019の終了後、懇親パーティーが開かれた。主催者を代表してあいさつした竹中宣雄住宅生産団体連合会副会長(ミサワホーム会長)は、次のように語った。
「ウィズガスCLUBは、豊かで潤いのある暮らしの実現を目的に2006年に設立されたコンソーシアムだ。エネファームパートナーズは、エネファームの普及拡大を目的として13年に設立された。本日の暮らしとまち未来会議2019では、第1部で暮らしの未来シンポジウム、まちの未来シンポジウム、エネファームパートナーズ総会を行った。第2部の暮らしとまち未来会議では、伊藤明子消費者庁長官にご講演いただいた。また、本日ご参加いただいた皆さまとともに大事にしたい考え方として『暮らしとまち未来会議宣言』を発表した。住団連としても健康・快適な暮らしの創造や安全・安心・持続可能なまちづくりに貢献していきたい」
乾杯の音頭を取った村上周三建築環境・省エネルギー機構理事長は「政府はSDGs未来都市を推進している。その大きな柱の一つが『自律的好循環の実現』。地域に投入された資金やエネルギーが地域の中で還流して、地域がますます豊かになるということだ。自立分散型電源であるエネファームの普及を通じて、自律的好循環に貢献していただきたい」とあいさつした。
中締めのあいさつに立った林良祐キッチン・バス工業会会長(TOTO取締役常務執行役員)は「伊藤消費者庁長官の講演にもあったが、住宅設備事業に携わっている当工業会としても20年間使うことを考えたモノづくり、20年後も『使ってよかった』と思われるモノづくりをぜひ進めていきたい。エネファームは販売10周年で30万台まで普及した。道のりはまだ半ばだが、われわれ住宅設備業界も一緒になって頑張っていきたい。安全・安心やSDGsなど、いろいろなことを考えて、これからも励んでいきたい」と述べた。