エネルギーの脱炭素化と経済成長の両立を可能とする新たな経済社会構造への移行を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)。日本全体にとって極めて重要な国家戦略であるとともに、個々の企業にとっても避けて通れない重い経営課題になっている。都市ガス会社は、自社の事業モデルの進化だけでなく、地域のGX推進において主要な役割を果たすことも期待されている。
◆【制度整備から実行へ、多様な脱炭素技術を支援】
GXとは、エネルギーの観点では、従来の化石燃料中心からクリーンエネルギー中心へと供給構造を抜本的に転換することを意味する。具体的には、すでに商用化されている再生可能エネルギーや原子力の活用に加えて、水素・アンモニアやe-メタンなどカーボンリサイクル燃料の社会実装を進めていく。
こうした取り組みを、日本の国際的な産業力強化につなげることがGXのもう一つの側面だ。地球温暖化の防止という人類共通の課題に対処するため、世界全体が早かれ遅かれ脱炭素型の経済社会構造に移行することは間違いない。そのため、脱炭素関連の新たな市場の創出を日本が主導できれば、日本企業が国際競争で有利な立場に立てるという思惑がある。2023年7月に策定された政府のGX推進戦略では、GXこそが日本経済を「再び成長軌道へと戻す起爆剤」だと位置付けている。
○10年で150兆円
こうした狙いから、GX関連の制度整備や推進体制の構築が、ここ数年で一気に進んだ。その大きなきっかけは、22年6月に策定された政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に「GXへの投資」という項目が盛り込まれたことだ。新しい資本主義とは、従来の新自由主義的な考え方を修正するもので、市場原理に委ねても解決できない問題があるとの認識に基づく。そうした問題の代表が地球温暖化で、実効的な対応を進めるには市場と国家の二元論を超えた新たな官民連携が必要だとされた。
同計画で、GXの新たな市場・需要の創出を実現するため、金融支援と規制・制度的措置を一体的に講じるという政策の大きな方向性が示された。具体的には、官民連携により今後10年間で150兆円規模のGX投資を実現するとの目標を設定。その実現に向けて、民間投資の「呼び水」となるGX経済移行債を創設することになった。
先行的な取り組みとして、21年度から2兆円を超える規模のグリーンイノベーション(GI)基金により、20のプロジェクトが組成されている。エネルギー分野では、e-メタンを含む水素やペロブスカイト太陽電池、アンモニア発電、全固体蓄電池などが支援先に選定された。
GX経済移行債を償還する財源を生み出すため、排出量取引制度や炭素に対する賦課金といったカーボンプライシング(CP)の仕組みも導入される。CPには財源確保だけでなく、GXへの取り組みが市場競争でプラスに働くようにする狙いもある。つまり、温室効果ガス(GHG)を排出して作られた製品やサービスを炭素価格の上乗せにより割高にすることで、GX関連の製品の競争力を向上させるわけだ。これにより企業には他社に先駆けてGXを進めるインセンティブが生まれる。
CP関連の新制度はいずれも、23年5月に成立したGX推進法で法定化された。同法では、排出量取引の運営や化石燃料賦課金の徴収などの事業主体としてGX推進機構を設立することも定められた。同機構は7月から業務を開始する。GXは推進体制の構築から実行の段階へと移ってきている。
○水素、CCSの新法
政府は23年度以降の10年間、国会の議決を経た金額の範囲内でGX経済移行債を毎年度発行していく。移行債により調達した資金でGX推進に資する事業を支援する。支援の総額は最終的に20兆円規模になる。
支援対象は、民間のみでは投資判断が困難で、産業競争力の強化とGHG排出削減の両方に貢献することが大前提。こうした基本方針に基づき、昨年12月に今後10年程度の「分野別投資戦略」が取りまとめられた。エネルギー分野では「水素等」「次世代再エネ」「原子力」「CCS(二酸化炭素の回収・貯留)」が支援対象になった。水素等の価格差支援については、供給開始から15年間で3兆円規模という総額も示された。
エネルギー供給構造の転換に向けた法整備も並行して進んでいる。再エネや原子力の活用強化のためのGX脱炭素電源法は、GX推進法とセットで成立した。e-メタンを含めた水素のサプライチェーン構築を包括的に支援する水素社会促進法と、CCSの事業環境を整備するCCS事業法も今年5月に成立した。
GXの着実な推進のためには、地域社会での取り組みも重要になる。GX推進戦略では、金融機関や企業と自治体が連携し、各地域の特性に応じた脱炭素の取り組みを行うという方向性が示された。環境省の炭素中立型経済社会変革小委員会が22年12月に取りまとめた「GXを支える地域・くらしの脱炭素」でも、地域の官民の関係者が連携することで、地域ぐるみでの脱炭素投資の拡大や、地域全体での再エネ・省エネ需要の創出に取り組むとされた。ガス会社にとっては、こうした取り組みの一翼を担うことも重要な事業戦略になる。
○人材育成も課題
GXに挑戦する意欲を持つ企業が政府や研究機関と協業する場として、23年度からはGXリーグも発足している。参加企業は初年度の568社から、24年度は747社に増えた。ガス会社では大手4社の他、北海道ガス、広島ガス、静岡ガス、鳥取ガス、常磐共同ガスが参加している。
26年度の本格導入に先立つ排出量取引の試行実施が主な取り組みだが、活動内容はそれだけではない。脱炭素関連の市場創造に向けたルール形成にも取り組んでおり、23年度は「適格カーボン・クレジットWG」「GX経営促進WG」「GX人材市場創造WG」の三つの検討の場が設けられた。このうち企業などにおけるGX推進において求められるスキル(能力)の標準化を目指した人材市場創造WGには、北海道ガスと広島ガスもオブザーバーとして参加した。
【e―メタンはGXの現実解/JGA・津田晶博企画部長に聞く】
日本全体でGXを着実に推進する上で、都市ガス業界への期待は大きい。次世代の都市ガス原料の本命と位置付けられるe―メタンは、カーボンニュートラル(CN)の時代にも日本全体で効率的で安定的なエネルギー供給体制を保つため、着実な社会実装が求められている。日本ガス協会(JGA)の津田晶博企画部長に話を聞いた。
◇◇
――CNに向けた取り組み状況は。
JGAでは2021年6月策定の「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」で、ガスCN化のための大きな道筋を示した。トランジション期には天然ガスの普及拡大とe―メタンの社会実装に取り組み、50年には到達点の一例として供給するガスの9割をe―メタンに置き換える目標を掲げている。
このうち天然ガスの普及拡大については、高効率ガス機器の導入や他燃料からの転換、クレジットを活用した都市ガスの供給などに取り組んでいる。一方、e―メタンの社会実装に向けた最初の目標は30年にガス導管への1%注入だ。その達成のためサプライチェーン構築の検討が世界各地で進んでいる。
――e―メタンは国のGX政策にも盛り込まれている。
昨年末に示されたGX経済移行債による投資支援対象16分野のうち、e―メタンを含む「水素等」に15年で3兆円規模の支援が措置された。5月に成立した水素社会推進法でもe―メタンは支援対象に含まれた。e―メタンは導入当初はLNGより生産コストが高くならざるを得ないため、特にファーストムーバーに対する支援は不可欠となる。
30年の目標達成のため、ファーストムーバーは来年度には最終投資決定(FID)を行う必要があり、支援制度はできるだけ早期に整備されることを期待している。e―メタンの社会実装に向けた取り組みは少しずつ足元で成果の芽が出始めているが、それが花開くために24年度は非常に重要な年になる。
――24年度はエネルギー基本計画も改定される。
次期計画では天然ガスと共に、e―メタンを将来のエネルギーとして適切に位置付けてほしい。安定供給を保ちながらCNを実現するには幅広い選択肢を持つべきで、既存の都市ガスインフラをそのまま使えるe-メタンは、社会的コストを抑制しつつシームレスにCN化を進められる重要な現実解の一つだ。
国の政策では、カーボンプライシング(CP)関連の詳細設計にも注目している。GX経済移行債は炭素に対する賦課金制度などCP導入により将来得られる収入を財源とするが、賦課金は制度設計によってはエネルギーの安定供給や産業政策に影響しかねない。試行的に始まった排出量取引制度もコストの負担方法など本格稼働に向けた具体的な制度設計はこれからで、いずれも丁寧で慎重な検討が必要とされている。
――FIDのためには国際ルールの整備も必要だ。
国内外でのCO2カウントルール整備も重要な課題だ。今年1月にISO専門委員会で、e―メタンのライフサイクルGHG(温室効果ガス)の算定方法を含む国際規格が成立した。これにより燃焼しても大気中のCO2を増加させない価値が認められたことは大きな前進だ。さらにその価値を最終的にe―メタンを消費する需要家に帰属させることが必要だ。企業向けの国際ルール「GHGプロトコル」は25年までに改定される見込みで、このタイミングでe―メタンを含むカーボンリサイクル燃料の扱いを明確にするよう、各国のガス協会などとともに事務局への働きかけもしている。
4月の日米首脳会談の成果文書で、両国間でのe―メタンのプロジェクトについてCO2の二重計上回避を企業当事者間で合意していることを歓迎する旨が記載されたことは、こうした文脈でとても意義深い。今後の協議でCO2カウントルールが整理されれば、米国のプロジェクトについては需要家へのCO2の削減価値の帰属が明確になるからだ。そのことはGHGプロトコル改定に追い風になり、国内のSHK制度(温室効果ガス算定・報告・公表制度)への反映にもつながると期待している。
◆【GX特集】CNの具体的道筋を公表/東京ガス
東京ガスグループは3月、カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けた具体的な道筋となる「CNロードマップ2050」を発表した。2040年に国内エネルギー供給に関連するサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を二酸化炭素(CO2)換算で22年度比6割削減、国内に供給するガス・電力のCN化率を5割まで高めることを目指す方針を掲げている。CNロードマップの全体像とCNに向けた「三つのアプローチ」の具体例を紹介する。
○40年にCO2排出6割削減、国内ガス・電力5割CN化
ロードマップは、21年の「CompassAction」で打ち出した「責任あるトランジション」を踏襲し、50年CNへの具体的な道筋として策定した。20年代はこれまで推進してきた天然ガスの高度利用と並行してガス・電力の脱炭素化の準備を進め、30年代はe―メタンや浮体式洋上風力発電などの脱炭素化技術を実装・拡大していく。これにより40年時点でCO2排出量の6割減とガス・電力のCN化率5割の実現を目指す。その後、さらにCN化率を高め、50年CNを実現する。
三つのアプローチによって「CN社会へのシームレスな転換」をけん引する。一つ目はベストミックスの観点「ガスも電力も垣根なく」だ。安定供給を確保しながらLNGサプライチェーン全体の温室効果ガス排出削減を徹底し、ガスはe―メタン導入、電力は再エネ拡大を主軸に脱炭素化を推進する。供給力と再エネ調整力の役割を担う火力発電所も水素、e―メタン、CCSなどあらゆる選択肢の活用を視野に入れ、リプレース等にあわせて脱炭素手段を実装し、ゼロエミッション化を実現していく。
二つ目は需要側・供給側の観点「お客さまと共に」。顧客先への太陽光発電やエネファーム、蓄電池など分散型機器の導入を進め、系統用蓄電池など自社の分散型リソースも拡大、これらを組み合わせてエネルギー利用を最適化する。顧客先での水素の利活用やカーボンリサイクルソリューションも拡大する。
三つ目はイノベーションの社会実装の観点「社会的価値を最適化」だ。脱炭素の手段を選択する上では、CO2削減に加えて、社会全体でのコスト抑制、安全性、安定供給性、快適性などの価値も重要な要素であることから、複数の選択肢を確保しながら柔軟に社会実装を進めていく。
(1)ガスも電力も垣根なく/浮体式洋上風力を早期実現
電力の脱炭素化で期待されているのが浮体式洋上風力発電だ。遠浅の海域が少ない日本では、水深が深くても設置可能な浮体式洋上風力のポテンシャルが大きい。東京ガスは1月、造船ドックに依存しない浮体式洋上風力発電の基礎部分の量産化手法に関する検証を完了し、妥当性を確認できたと発表した。グリーンイノベーション基金事業の一環として、22年4月から国の支援を受けて実施していた。
東京ガスは日本初の大規模浮体式洋上風力の実現に向けて、米国のスタートアップ企業プリンシプル・パワー社の浮体式基礎技術を活用し、日本の気象・海象に適合させるとともに、連続製造・施工技術の確立を目指している。これまで基礎部分は製造から組み立てまで造船ドックで行われていたが、風車の大型化やウィンドファームの大規模化を想定すると、造船ドックの不足が課題となる。
今回の開発では、1万5千キロワット規模の風車を想定して、実際に使用する基礎と同じ大きさのモックアップを製作した。浮体式基礎をブロックに分けて設計・製造した後、1カ所に集めて組み立てる作業工程などを確認した。実海域での小規模の商用運転を経て、浮体式洋上風力発電の早期実現を目指す。
洋上風力を安定して稼働するためのメンテナンスに関しては、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が、豊富な実績を持つ英ジェームズフィッシャーアンドサンズ社との協業契約を締結済み。東京ガスは英オクトパスエナジー社が設立した洋上風力投資ファンドにも出資しており、欧州の洋上風力開発のノウハウも獲得する。
(2)お客さまと共に/分散型リソースを活用
家庭用蓄電池の普及に向けて、東京ガスが4月に打ち出した大胆な施策が「IGNITURE蓄電池0円キャンペーン」だ。電力需給バランスの調整に貢献するソリューション「IGNITURE蓄電池」として、東京ガスが遠隔制御する蓄電池を抽選で100人にプレゼントする。対象は東京都内(島しょ部を除く)の持ち家戸建て住宅で太陽光発電設備が設置済みの世帯。申し込み期間は6月末まで。落選した場合も500人に「Wチャンス」として10万円をキャッシュバックする。
IGNITURE蓄電池は停電時の安心や、太陽光の余剰電力の活用による電気代削減など蓄電池自体の価値に加え、東京ガスが蓄電池の充放電を遠隔制御することで、再エネの普及拡大や電力供給の安定化にも貢献できる家庭向けソリューションとして提供する。東京都内から提供を開始し、順次提供エリアを拡大する。
国内系統用蓄電池事業にも本格参入する。再エネの出力抑制が頻発している九州エリアで計5・5万キロワット分の系統用蓄電池を取得した。自社グループ開発の国内第1号案件「角子原パワーストレージステーション」(大分市、2・5万キロワット)は26年度に商業運転開始予定。同年7月商業運転開始予定の「広原蓄電所」(宮崎市、3万キロワット)の運用権を得る「オフテイク契約」も締結した。
英オクトパスエナジー社が開発した分散型エネルギーリソース運用・管理システム「クラーケンフレックス」も導入した。自社設備に加え、家庭用を含む顧客の多様な電力関連資産を最適制御するデジタル取引プラットフォームの構築を目指している。
(3)社会的価値を最適化/カーボンクレジットを自ら創出・提供
熱の脱炭素化には、省エネ・省CO2やe―メタンに加えて、信頼性の高いカーボンクレジットなどオフセット手段の活用も重要だ。東京ガスはカーボンニュートラルLNG(CNL)に活用する高品質なクレジットの確保にも取り組んでいる。
農機具メーカー大手のクボタ、気候変動関連スタートアップのクレアトゥラ(東京都港区)とは、フィリピンで水田由来のメタン排出を削減する共同実証を行っている。一時的に水田から水を抜くことで、常時湛水時より多くの酸素を土壌中に供給し、メタン生成菌の活動を抑制する。ASEAN地域での農業分野における初の民間JCM(二国間クレジット制度)登録を目指している。
英ヴァートリー社とは、信頼性の高いクレジットの安定調達に向け、植林などの自然系クレジット創出プロジェクトの共同開発を目的とした戦略的パートナーシップを締結した。人工衛星によるリモートセンシングを活用して森林の育成状況などを分析する技術を保有するサステナクラフト(東京都千代田区)とは、自然系カーボンクレジット創出プロジェクトの評価・選定手法の高度化を目的とした業務提携契約を締結している。
◆【GX特集】メタネーション設備竣工、万博会場でも実証/大阪ガス
大阪ガスは、生ごみ由来のバイオガスに含まれる二酸化炭素(CO2)からe―methane(e―メタン)を製造するメタネーション実証設備を、大阪広域環境施設組合が運営管理するごみ焼却工場「舞洲工場」(大阪市此花区)の敷地内に設置し、5月から実証を開始している。環境省の「既存のインフラを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築実証事業」に採択されたプロジェクトで、舞洲工場での実証を終えたあと、8月からは設備を順次、大阪・関西万博会場(同区夢洲)に移設する。2025年4~10月の万博会期中は、会場内でe―メタン製造規模を拡大して実証を行う。
○生ごみ由来のバイオガス活用、微生物の力でCO2をメタンに
実証設備は昨年8月に着工し、今年3月に完成した。
大阪ガスの生ごみ由来のバイオガスを活用するバイオメタネーション設備としてはラボスケールの設備があるが、実証スケールの設備の建設は初めてとなる。
同設備を用いたe―メタン製造の流れはこうだ。
まず、スーパー大手ライフコーポレーションの9店舗から1日当たり約1㌧の生ごみを回収する。生ごみ受け入れ建屋内で前処理を施した後、大阪ガス子会社Daigasエナジーのオンサイト型バイオガス化システム「D‐Bioメタン」に投入。メタン6割、CO24割のバイオガスを作り出す。
次にDaigasグループの再生可能エネルギー電力を用いて水を電気分解し、グリーン水素を生成する。バイオメタネーション装置内で、このグリーン水素とバイオガス中のCO2を「メタン菌」と呼ばれる微生物で反応させ、e―メタンを製造する。
この時点で、バイオメタン中のメタン濃度は60%から80~85%まで高まる。しかし、さらに利用可能なCO2が残っていることから、触媒による「サバティエ反応」でメタンを製造する日立造船製のメタネーション装置を使ってe―メタンを製造し、メタン濃度を95~98%程度まで高める。最終的には合計毎時5立方㍍(一般家庭120件相当)のe―メタンを製造する。
・万博会場で製造量拡大、大気中のCO2も活用
万博会場では、会場から出る生ごみのうち、1日当たり約1㌧を原料としてe―メタンを製造し、会場内の厨房やガスコージェネレーションなどで利用する。
バイオガス中のCO2だけでなく、地球環境産業技術研究機構(RITE)が万博会場に設置するDAC(DirectAirCapture)設備を使い、大気から直接回収するCO2をメタネーションに使用。
e―メタン製造量を毎時7立方メートル(一般家庭170件相当)に拡大する。
一連の実証では、システムが安定的に稼働するかを中心に検証していく。
○「地産地消型」、社会実装へ、2030年の実用化目指す
大阪ガスは現在、三つのメタネーション技術の開発を進めている。
一つ目がサバティエメタネーションである。すでに技術が確立されており、現在は、30年実用化を目標に掲げ、INPEXと共同で製造設備の大型化に向けた実証等を進めている。
二つ目が、SOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーション。高効率なメタン製造が期待できる技術であり、30年までの技術確立、40年までの実用化を目指している。6月からはラボスケールでの実証が始まった。
三つ目がバイオメタネーションで、30年までの実用化を目標に掲げる。
バイオメタネーションの実用化の方向性について、5月17日の竣工式後に報道陣の取材に答えた大阪ガス後藤暢茂常務執行役員は「身近な未利用バイオマス資源を活用したメタネーションはこれからのカーボンニュートラル社会に不可欠になる」と説明。実用化に向けては「万博での実証が終わると次のステージに入ると考えている。スケールアップして地産地消型を実際に社会へと展開していきたい。この設備はそのスタートになる」と述べた。
Daigasグループが30年に都市ガスの1%にe―メタンを導入することを目標に掲げることについては、大規模プラントによるe―メタン製造がメインシナリオになるとしながら、「未利用のバイオマス資源を活用したメタネーションも一部、目標達成に寄与できればと考えている」と述べた。
なお、大阪ガスは22~23年度に下水汚泥を活用したバイオメタネーションの実証も実施した。
大阪市の海老江下水処理場に設置した試験装置に下水汚泥と水素を投入。下水汚泥をバイオガス化するとともに、バイオガス中のCO2と水素からメタン菌の力でメタンを製造した。
さらに、試験装置の中に廃棄バイオプラスチックを分解した乳酸を投入し、メタンの発生量を3倍に増やす実証も行った。
○環境省「脱炭素化に有効」、舞洲工場で竣工式開催
5月17日に大阪市此花区の舞洲工場で実施したバイオメタネーション実証設備の竣工式には、大阪ガスのほか、環境省、大阪市、大阪広域環境施設組合、ライフコーポレーション、日立造船などが出席した。
大阪ガス後藤暢茂常務執行役員は主催者あいさつで、「大阪ガスは実証を通じ、万博のCN化に寄与するとともに、CN社会の早期実現を目指す」と述べた。
来賓としてあいさつした環境省地球環境局の吉野議章地球温暖化対策課長は、脱炭素化に向けて、同省が地域資源を活用した地産地消型の水素サプライチェーンモデルの実証に取り組んでいると説明した。
大阪ガスのプロジェクトについては「再エネ由来の水素と、地域の生ごみから得られるバイオガスを活用して製造したe―メタンを、都市ガスの消費機器で利用する地産地消型のモデルとなる」と説明した。
また、e―メタンは天然ガスに関連する既存インフラ設備や消費機器をそのまま利用できるため、「脱炭素化を進めるに当たり、極めて有効な手段。天然ガスをe―メタンに代替していくことで、社会コストを抑えながら円滑な脱炭素への移行が期待できる」と述べた。
◆【GX特集】CN実現へ取り組み加速/東邦ガス
中計の重点施策に掲げ注力
東邦ガスは中期経営計画(2022~25年度)で掲げる「カーボンニュートラル(CN)の推進」に沿って取り組みを加速させている。4月には、推進体制を強化するため、CN全体戦略の立案や部門間調整を担う企画部CN推進企画グループと、社会実装案件の開発を推進するCN開発部を新設した。社会実装に向けては、合成メタン(e-メタン)の実用化に向けて、3月31日から国内初となるe-メタンの都市ガス原料利用の実証試験を開始したほか、国内外でさまざまなパートナーと連携し、取り組みの輪を広げている。
○推進体制さらに強化、具体化・多様化へ部署新設
東邦ガスは4月、企画部に「CN推進企画グループ」を新設したほか、新組織として「CN開発部」を立ち上げた。前者はCN実現に向けた戦略や方針の策定、経営資源の配分・リバランスを行い、後者がそれら戦略・方針を基にCNガス・水素などの社会実装に関する対応を進める。
新谷大輔CN推進企画グループマネジャー(GM)は、「これまでは複数の部署がそれぞれCN案件を同時並行的に進めていた。その結果、組織的な知見・ノウハウの蓄積や優先度・繁閑に応じた柔軟な要員配置、案件の優先順位付けに関して課題が生じていた。当グループはCN推進の全体統括に特化し、戦略策定や変化に応じた軌道修正、取り組みの取捨選択など、ガス・水素・電気の総合調整を部門横断で実施する」と新設の狙いを語る。
CN開発部の浅井実成部長は、「当部は2グループからなり、第一グループは主に海外案件、第二グループは国内案件を担当する。それぞれ社会実装に向けたプロジェクトの対応を進めるほか、外部連携も進め、新たな案件発掘も担う。部長・マネジャー・担当者の各層に、CN専従者を配置したことで、情報ネットワークの強化・拡充ができる」と説明した。
体制強化に加え、CN実現に向けたさまざまな取り組みにも着手している。
水素の供給に関しては、知多緑浜工場(愛知県知多市)に天然ガス改質型水素製造装置を設置。日量1・7㌧の水素(燃料電池自動車約340台分の充てん量に相当)の製造能力を有するプラントを整備し、水素サプライチェーンの構築に向けた取り組みを推進していく考えだ。
再生可能エネルギー電源の拡充にも力を入れている。今年度は八代バイオマス発電所(熊本県八代市、7万5千キロワット)、唐津バイオマス発電所(佐賀県唐津市、4万9900キロワット)が加わり、再エネ電源取扱量は足元の12万キロワットから18万キロワットに高まる見通し。さらに来年9月には国内最大級の「田原バイオマス発電所」(愛知県田原市、11万2千キロワット)が運転開始となる。中計で掲げた25年度25万キロワットの目標達成に向けて、電源種を限定せずに幅広く取り組む方針だ。
このほかにも、高効率・低コストの二酸化炭素(CO2)分離回収技術の開発にも取り組んでいる。
CN実現に向けて、ガス・水素・電気の上下流に幅広く対応すべく、今後は新設した二つの専門部署が機能し、取り組みがより加速していくものと期待される。
○e-メタンの実用化へ、国内外で進むパートナー連携
e-メタンの実用化に向けた取り組みについては、さまざまな企業と国内外で連携・アライアンスを進めている。
海外におけるe-メタンの製造・日本への輸出の事業化に向けた検討では、東京ガス、大阪ガス、三菱商事とともに、米国キャメロンLNG基地での2030年輸出開始を目指している。また、豪州サントスベンチャーズとは、30年ごろのe-メタンの製造・輸出を目指すべく、事業性検討を進めている。
e-メタンのサプライチェーン構築に向けては、ベルギーのTESと昨年12月、包括連携の覚書を締結。供給網構築に関する検討のほか、e-メタンの認知度向上や経済的支援などの制度設計に関する働きかけも共同で行う。
こうした取り組みについて新谷GMは、「ガス業界としてCNに向けた取り組みを推進しており、当社は、30年に『ガスのCN化率5%以上、再生可能エネルギー電源取扱量50万キロワット、CO2排出削減貢献量300万㌧削減』を目標に掲げている。目標達成に向けて幅広い企業との連携を図るとともに、さまざまなプロジェクトに参画し、供給量を長期的に確保することが重要だ」と語る。
e-メタンの世界的な普及を目指して、東京ガス、大阪ガス、三菱商事、欧米の大手エネルギー企業など7社とともに国際的アライアンス「e-NGCoalition(イーエヌジーコーリション)」を設立する。
浅井部長は、国際的アライアンス設立の意義について、「e-メタンの輸出入に伴いCO2の取り扱いが国境をまたぐことになる。一つの国だけで対応する制度を作っても意味がない。各国が制度構築で足並みをそろえる働きかけが必要。加えて、世界的な普及に向けた仲間づくりや対外的な発信力強化も重要な観点だ。そのために国際的アライアンスを設立し、世界的なうねりにしていかなければならない」と指摘した。
○e-メタン製造実証開始、地域資源を都市ガスに活用
東邦ガスは、3月31日から知多LNG共同基地(愛知県知多市)でe-メタンの製造実証を開始した。
この実証の注目ポイントは大きく二つ。一つは、知多市と連携し、バイオガス由来の二酸化炭素(CO2)を活用してe-メタンを製造すること。もう一つは、製造したe-メタンを国内で初めて都市ガス原料として利用すること。その都市ガスの供給を需要家と合意しており、地域資源を都市ガス原料に生かし、地域で活用する環境性の高い取り組みとなる。
実証期間は2024年度から26年度までの3年間。業界初となる取り組みの成果を関係業界と共有し、e-メタン普及の仕組み作りにつなげていく方針だ。
東邦ガスは、同基地に隣接する同市南部浄化センターの下水汚泥処理で発生するバイオガス(主成分メタン)を17年度から都市ガス原料に活用している。今回の実証では、このバイオガス精製時に分離されるCO2をe-メタン製造に利用する。
e-メタン製造に必要な水素は、同基地において、LNGの冷熱を利用した冷熱発電による電力で水を電気分解して製造する。水素とCO2を反応させ、年間約3万立方㍍のe-メタンを製造する計画だ。
設備としては、e-メタン製造装置(サバティエ方式、メタン製造能力毎時5ノルマル立方㍍)や、水素製造装置(PEM型水電解方式、水素製造能力毎時20ノルマル立方㍍)、CO2貯留タンク、圧縮機などを設置した。
実証では、e-メタン製造に加え、付帯設備も含むシステム全体の効率性・信頼性・環境性などのほか、主要部の触媒反応装置や水素製造装置の耐久性を評価し、将来的な製造設備の大規模化、低コスト化などにつなげる。
技術研究所カーボンニュートラルの萩野卓朗課長は、「ガス事業法に基づき設計・建設した初めてのe-メタン製造プラントだ。実証で得られる成果や実績を踏まえ、技術課題の解決につなげるとともに、環境価値(CO2削減量など)をしっかりとお客さまに届けられるよう、e-メタンの普及に必要な仕組み作りにも貢献していきたい」と語った。
地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)のSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)やクリーンガス証書など、e-メタンが持つ環境価値が各制度に適切に反映されることを期待したいとしている。
◆【GX特集】幅広い手段で低・脱炭素化へ/西部ガスグループ
西部ガスグループは「2050年カーボンニュートラル(CN)化」を実現するため、21年9月に「西部ガスCN2050」を策定した。22年12月にはそれをより推進するため、数値目標を含む具体的な内容を明示した「CNアクションプラン」も策定し、取り組みを進めている。CNやGXの実現に向けては移行期の取り組みが重要と捉え、徹底した天然ガスシフトによる低炭素化を着実に進める。その上でメタネーション・水素利用による都市ガスの脱炭素化や再生可能エネルギーの普及拡大による電源の脱炭素化を推進する。同社グループの多様な取り組みの中から(1)地域の原料を活用したメタネーション実証(2)カーボンリデュースクラブ(3)LNG燃料船ガステスト事業――の三つの取り組みを紹介する。
○地産地消目指す、メタネーション実証事業
西部ガスはe―methane(e―メタン)導入に向けた準備として、日照条件がよい九州の地域特性を生かし、太陽光発電の余剰電力などを活用する地産地消のメタネーション実証事業に取り組んでいる。ひびきLNG基地(北九州市)に製造能力毎時12・5立方㍍のメタネーション装置を設置する。製造したe―メタンは熱量調整や付臭後、既存の都市ガスと混合して都市ガス導管で供給する計画であり、実証期間は2023年12月から26年3月までだ。
この「地域原料活用によるコスト低減を目指したメタネーション地産地消モデルの実証」は、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業(二次公募)」に採択されている。この事業には代表事業者の同社だけでなく北海道ガス、広島ガス、日本ガスなど都市ガス4社のほかに、IHI、JCCL、九州大学、日本ガス協会(JGA)、ひびきエル・エヌ・ジーの9者が参加する。
西部ガスがプロジェクト総括と実証設備の建設・運転・評価を担当。ひびきエル・エヌ・ジーは実証フィールドを提供し、実証設備の運転・評価を行う。IHIがe―メタン製造コスト最適化システムとCO2トレーサビリティプラットフォームの開発を担当し、JGAが当該プラットフォームの運用検証・評価を行う。JCCLと九州大学はCO2分離回収装置の設計・開発・実証を行う。北海道ガス、広島ガス、日本ガスの3社は、実証の成果を基に各地域での地産地消モデルを検討する。
この実証事業は地域の原料を使って低コストなe―メタンの製造を目指していることが特徴だ。e―メタンの製造コストの大部分は水素価格が占める。日照条件がよい九州は、太陽光発電設備の普及が著しい。
そのため安価な余剰電力が発生しやすく、それを活用して水電解で水素を製造する。一方、卸電力価格が上昇する夜間は水電解装置を停止し、近隣の工場から収集した副生水素をe―メタンの原料として使用することで低コスト化を図る。
もう一つの原料である二酸化炭素(CO2)は、コストとCO2排出を抑制するため近隣の工場などから排出されるCO2を液化してローリーで同基地に輸送する。さらにコストや環境負荷低減のために、同基地の熱量調整装置用ボイラーなどから排出される低濃度・高湿度の排ガスから効率良くCO2を分離・回収してe―メタンに利用する装置の開発も進める。
実証設備を設置するひびき基地は、工業地帯にあるため、周囲にはCO2を大量に出している工場が多い。将来的にメタネーション設備のスケールアップにも対応できるスペースもあり、利点が多い。
今年11月ごろにメタネーション設備に着工し、来年4月ごろに竣工予定だ。試運転後、来年6月ごろからe―メタン製造をはじめる計画になっている。
製造コストが最小となるよう時間帯別に複数の原料を組み合わせた原料調達計画や製造計画を自動立案する「e―メタン製造コスト最適化システム」も開発する。同システムを用いた低コスト化と安定供給の両立が可能かも検証する。
さらに地域原料を活用したe―メタンの環境価値を顧客に提供する手段も検証する。具体的には「クリーンガス証書制度」を活用し、原料の産地を証明する形式で管理可能なプラットフォームの構築を目指す。
西部ガスカーボンニュートラル推進部推進グループの江夏量マネジャーは「30年時点で都市ガス販売量に対するe―メタン導入量1%の業界目標を実現するには、製造コスト低減のほか、製造設備のスケールアップや、e―メタン原料の調達先の確保など解決しなければならない課題は多い。今回の実証事業で得られる知見を活かしながら、30年1%の目標をクリアする道筋を明らかにしていきたい」と話している。
○環境価値創出を代行、カーボンリデュースクラブ
西部ガスは4月1日、同社が運営し、主に中小企業の環境価値創出を代行する会員制の団体「カーボンリデュースクラブ」の対象機器を従来のボイラーから太陽光発電設備に拡大した。国が認証するJクレジット制度を活用し、顧客が削減したCO2排出量を取りまとめて、Jクレジットを創出する。顧客には削減したCO2排出量に応じた金額を還元する。中小企業からのCO2排出量削減を進めることで社会全体の低・脱炭素化に貢献する。
同社は2021年11月から小口業務用ボイラーの燃料転換促進のため省エネ由来のJクレジットを創出する「西部ガスカーボンリデュースクラブ(ボイラー)」を開始した。中小事業者は地球温暖化対策推進法(温対法)で温室効果ガス排出量の報告義務がないため、CO2排出量削減で創出した環境価値を活用する場がなく埋没していた。
また、Jクレジットを使って環境価値の売却等も可能だが、手続きに手間と費用が掛かるため、大企業に比べるとメリットが少なく、ほとんど利用されていない。
そこで西部ガスは、書類作成などの煩雑な手続きを代行し、環境価値を創出。削減したCO2排出量に応じた金額は顧客に還元し、同社が得たJクレジットは、自社の事業活動などに幅広く活用する。
このスキームを太陽光発電設備に応用し再エネ由来のJクレジットを創出するのが、「カーボンリデュースクラブ(太陽光)」だ。主な対象顧客は業務用・産業用。グループ会社の西部ガステクノソリューション(STS)が約2年前に開始したPPA(電力購入契約)を利用する既存客のほか、PPAを提案する際に付加価値サービスとして入会を勧める。
Jクレジット化する対象は太陽光で発電した電気のうち他社への売電分を除く自家消費分。固定価格買取制度(FIT)の買取価格の低下などにより、最近は太陽光発電を自家消費するメリットが増加している。
コストメリット以外に再エネ電力を使用する環境価値が含まれているが、中小企業の場合、単独ではJクレジット化が困難なため環境価値は利用されないことが大半だった。
「カーボンリデュースクラブは入会費や年会費、クレジット化に関わる費用など全て無料。手間要らずで環境貢献がPRできる。従来、Jクレジットの証書化によるコストメリットが出しにくかった小規模な設備容量のお客さまでも利益を享受できる。太陽光発電設備の普及促進と環境価値の創出で、カーボンニュートラル社会の実現に貢献したい」と西部ガス広域産業エネルギー開発部技術ソリューショングループの高橋康範マネジャーは話す。
現在、同クラブ(ボイラー)に2社、(太陽光)には5社が加入する。(ボイラー)では既に約800㌧分のCO2削減が図れており、クレジットの認証手続きを行っている。
○LNG燃料船普及に貢献、トラックツーシップガステスト事業
西部ガスはLNG燃料船の普及拡大に資するTracktoShip(トラックツーシップ)ガステスト事業を2023年10月に初実施以降、注力している。ひびきLNG基地(福岡県北九州市)から長崎市の公共岸壁「小ヶ倉柳埠頭」まで複数のローリー車を使用し、LNGを輸送。そこで福岡造船(福岡市)が同社長崎工場(長崎市)で建造した国内初のLNG燃料ケミカルタンカーに試運転(ガステスト)および燃料チャージ用にLNGを供給した。
新造LNG燃料船はLNGタンクや配管に窒素を充てんして気密試験を行う。試験後、窒素を天然ガスに置換する。その後、少しずつLNGを充てんしてタンクや配管、その他機器を均一に冷却し、最終的にLNGを充てんする必要がある。
西部ガス広域産業エネルギー開発部LNG開発グループの高田研磨マネジャーは「LNG燃料ケミカルタンカーを受注した福岡造船さまから、LNGの供給の相談を受けた。当社も初の試みだったので、供給方法や作業手順などを検討しながら実現した」と説明する。
LNGの輸送距離は約228キロ、時間は約3時間半掛かる。14㌧積のLNGローリー車延べ17台を使用し、延べ人数約60人で、約1週間作業した。ローリー、乗務員の手配や、置換用にローリーから長時間天然ガスを供給するための技術的課題のほか、長崎県庁へのLNGの貯蔵許可申請など数々の課題をクリアしたという。
同社は今年4月にも同じ福岡造船のLNG燃料ケミカルタンカー向けのトラックツーシップガステストを実施した。今年度中には、さらに2隻分のガステストも予定している。
同グループの前﨑春太氏は「初回に陸側と船側との間で、無線でやり取りしながらバルブの開閉など細かく作業した状況を手順書に落とし込んだ。その作業手順を2隻目で、ブラッシュアップしている。今後は九州管内のほかの造船事業者さまへのLNG供給を目指していく」と話している。
◆【GX特集】団体・企業のグリーントランスフォーメーションへの取り組み
都市ガス事業者だけでなく、メーカーや団体もカーボンニュートラルに取り組んでいる。
積極的な取り組みを展開する6者のメッセージを紹介する。
●水素混焼大型貫流ボイラ「Ifrit」誕生~段階的なカーボンニュートラルへの備えに~/川重冷熱工業問い合わせ営業・サービス企画部マーケティンググループ電話03-3645-8251
水素混焼大型貫流ボイラ『Ifrit』誕生
川重冷熱の水素混焼大型貫流ボイラ『Ifrit(イフリート)』は、高温・高圧の熱利用ニーズや整備途上である水素供給体制の課題を解決し低炭素化に向け段階的な準備を可能とした高効率・大容量の貫流ボイラです。
【水素混焼大型貫流ボイラIfritの特長】
(1)3モード燃焼バーナ搭載
水素とLNGの混焼モードと二つの燃料を個々に燃焼する専焼モードを切り替えることができる3モード燃焼(水素専焼・水素/LNG混焼・LNG専焼)のバーナを搭載し、混焼時は水素を熱量比0~30%までの任意の割合で利用可能としました。
水素供給開始前や供給中断時の場合にはLNG専焼モードで、少量でも水素供給がある場合にはLNGとの混焼モードで運転が可能なシステムとなっており、これらのモードは簡単な操作で切り替えが可能です。
(2)水素専焼仕様もラインアップ
水素の導入初期段階から普及後までを見据え水素専焼仕様もラインアップし、水素供給体制の進捗に合わせたカーボンニュートラルへの備えを提供します。
(3)大容量対応混焼仕様・専焼仕様とも
換算蒸発量毎時3000キロ㌘、毎時4000キロ㌘の大容量対応で、少缶設置により、工事費削減、メンテ負担軽減、省スペース設置などのメリットを提供しています。
(4)ボイラ効率98%達成
これまでのIfritシリーズ同様、高性能エコノマイザー搭載により、ボイラ効率98%を達成しました。
さらに連続PID燃焼制御・給水PID制御により、部分負荷効率も高めています。これにより燃料消費量・二酸化炭素(CO2)排出量を削減するとともに、押込送風機・給水ポンプにインバータを標準装備し、運転時の消費電力も大幅に削減しています。
※ボイラ効率条件
蒸気圧力0・49メガパスカル、給水温度15℃、吸気温度35℃
(5)高圧対応かつ安定した蒸気供給圧力
最高使用圧力3・2メガパスカルまでの高圧対応が可能で、PID制御を採用したことにより蒸気の負荷変動があっても蒸気圧力変動幅±0・005メガパスカルと安定した蒸気圧を保ちます。
(6)蒸気乾き度99・8%以上
燃費や生産品の品質に大きな影響を与える蒸気の乾き度を、蒸気の流れに旋回力を持たせる構造の気水分離器を採用したことで急激な負荷変動時においても、高い乾き度を維持します。
川重冷熱は、今後も川崎重工グループの一員として、水素利活用製品の技術開発を継続し、水素利活用製品の提供を通じカーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。
●「GX社会を支えるコージェネレーションシステム」/コージェネレーション・エネルギー高度利用センター問い合わせ普及促進部電話03-3500-1612
2050年カーボンニュートラル社会実現に向け、最初に取り組むべき課題は徹底した「省エネルギーの推進」であると考えられます。「省エネルギー」すなわち「エネルギーの高度利用」は、現時点で即効性のある脱炭素技術で、再生可能エネルギー導入と併せて両輪で推進する必要があります。
そのような中、コージェネは、省エネの推進はもちろんのこと、天候等に左右される再エネ導入拡大に伴う電力変動を補完する調整力の提供、激甚化する自然災害に対するエネルギー強じん性向上など、喫緊の社会的課題を解決する優れたエネルギーシステムとして期待を高めています。
脱炭素成長型経済構造移行(GX)を目的とした「GX実現に向けた基本方針」(23年2月閣議決定)や「GX推進戦略」(23年7月閣議決定)においても、需要サイドにおける徹底した省エネの推進が、エネルギー安定供給の大前提と位置付けられています。
コージェネは、多様な脱炭素燃料に対応可能であり電力だけでなく熱の脱炭素も同時に達成するエネルギー変換ツールであるとともに、調整力や強じん性の強化の面でもGX社会に大きく貢献していきます。
コージェネ財団では「コージェネ大賞2024」を募集中。応募期間は7月1日~8月30日です。詳しくは財団ホームページをご参照ください。
●豊かな暮らしと地球への貢献を両立できる社会の実現に向けて/ノーリツ問い合わせ電話0120-911-026
ノーリツグループが製品や事業活動を通じて排出する二酸化炭素(CO2)は日本全体の約1・6%に及びます。ガスエネルギーを燃焼させる機器メーカーの責任として、今年2月に発表した中期経営計画「Vプラン26」では、カーボンニュートラルや資源循環促進への取り組みを最重要課題のひとつに設定しました。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを策定し、まずは、30年までを「低炭素化フェーズ」と位置づけています。現フェーズでは、既存インフラの活用を想定し、エコジョーズやハイブリッド給湯システムなどの環境配慮型商品の開発・拡販を促進しています。特に、既築住宅での非エコタイプからの取り換えに向け、高効率な環境配慮型商品に、生活の悩みや社会課題を解決する機能をあわせて提案しています。
昨年には、“キレイなお湯を使いたい”、“心地よく眠りたい”などの身近な課題を解決するため、業界初のオゾン水を使った除菌機能「AQUAOZONE(アクアオゾン)」と、快眠に向けた入浴を提案する「HIITO(ヒート)」の二つの技術を搭載した給湯器「GT―C72シリーズ」を発売しました。また、コンロでは“楽しく調理をしたい”という声に応え、調理中の現在温度を見える化した独自の「温度クック機能」を搭載したビルトインコンロ「Orche」も発売しました。社会課題に寄り添う付加価値によって環境配慮型商品の価値をさらに高め、製品を通じて排出されるCO2削減に貢献していきます。
また、今後のエネルギー開発を視野に入れて、CO2排出ゼロの水素100%燃焼の給湯器の開発に成功しています。水素インフラが整ったあとの実用化に向けて、国内での実証実験や、各国のインフラ整備や規制に合わせて製品化の準備を進めています。
脱炭素型の資源循環の推進に向けては、11年からノーリツ独自モデルの給湯器リサイクル「“人に笑顔”プロジェクト」に取り組んでいます。特例子会社エスコアハーツのグループ会社であるリハーツが、ビジネスパートナーから使用済みの給湯器を回収し、福祉事業者に分解・分別を委託することで、障がい者の就労機会を創出しています。22年には給湯器リサイクル累計50万台を達成し、23年は7万台をリサイクルしました。今後も取り組みの輪を拡大していきます。
ノーリツでは、GX推進に向けた潮流を機会と捉えています。豊かで快適な暮らしを提供するとともに、持続可能な社会の構築に貢献してまいります。
●純水素型燃料電池のグローバル展開でGXを加速/パナソニック問い合わせエレクトリックワークス社電材&くらしエネルギー事業部電話06-6908-1131
パナソニックは、純水素型燃料電池事業によりGXの取り組みを強化しております。
2021年10月に5キロワット純水素型燃料電池「H2KIBOU」を発売しました。さらに22年4月には、当社の滋賀県草津拠点内にある燃料電池工場の製造部門の全使用電力を100%再生可能エネルギーと水素で賄うことを目指す「RE100化ソリューション」の実証施設「H2KIBOUFIELD」を稼働。99台の純水素型燃料電池(495キロワット)と太陽電池(約570キロワット)、蓄電池(約1100キロワット時)の三つの電池を組み合わせ、天候変動や需要変化に追従したエネルギーの地産地消の実現に向け、当社独自のエネルギーマネジメントシステム(EMS)を用いた電力需給運用の技術開発・検証を行い、燃料電池工場で使用する電力の約98%を自前で賄えることを確認できました。
国内外から900以上の企業や政府・自治体などが同施設を見学し関心を持っていただき、英国やドイツからは政府要人にも訪問いただきました。ウクライナ危機以降、この2カ国では電力料金が一時約6倍になるなど、エネルギーの価格と安定供給に課題がありました。また、現地ではカーボンニュートラルに向けた地域分散型エネルギーを導入する機運が高まっています。
そこで当社では24年度中に英国やドイツの自社拠点で概念実証(PoC)を開始する予定です。特に英国は再エネを活用したグリーン水素利活用に積極的で、導入に向けた英国政府による初期投資や水素価格に対する補助金も存在しておりRE100化ソリューションを実証するには適しています。
24年1月には英国のグレーターマンチェスター市とCN化に向けてMOUを締結しました。同市は38年までにCN達成を目指しており、グリーン水素サプライチェーンの構築が喫緊の課題となっています。今回のMOU締結により、工場や病院などに純水素型燃料電池の活用が期待されています。
パナソニックでは、純水素型燃料電池を中心としたRE100化ソリューションを強みに現地のさまざまなパートナーとGXの取り組みを加速してまいります。
●パナソニック空質空調社のGXの取り組み/パナソニック空質空調社問い合わせ住宅システム機器事業部日本事業ビジネスユニット特販営業部電話03-5470-2355
パナソニックグループは、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立に向け、長期環境ビジョン「PanasonicGREENIMPACT」を掲げ、2030年までに自社の事業に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロに、また50年に向けては、現時点の全世界の排出総量約330億㌧の「約1%」にあたる3億㌧以上の削減貢献インパクトの創出を目指し、事業活動に取り組んでいます。
当グループは、工場で製品を生産する過程などの事業活動を通じて年間約220万㌧ものCO2を排出しています。当社製品使用時の消費電力によるCO2排出量は年間約8600万㌧と試算されます。それらを含めた自社バリューチェーン全体で排出されるCO2はおよそ1・1億㌧もの膨大な量です。私たちは、この現実に真摯に向き合い、まずは30年までに全事業会社のCO2排出量を実質ゼロにします。
さらに、自社バリューチェーン全体のCO2排出をゼロにするためには、製品の省エネ化だけでなく、再生可能エネルギーへの移行やCO2削減につながる製品やソリューションの提供が必要です。これらの取り組みは、一般の生活者に負担を強いることなく、豊かな生活を送りながら社会のCO2削減に貢献することを目指しています。その取り組みとして、ペロブスカイト太陽電池や純水素型燃料電池などの製品・技術を活用して社会のエネルギー変革に貢献しています。
また、サーキュラーエコノミーにも注力し、資源効率の向上や地球上の天然資源の消費削減に取り組んでいます。循環型モノづくりの進化やサーキュラーエコノミー型事業の創出に取り組み、お客さまやパートナーと協力して循環志向の経営や製品使用の新しいあり方を実現しています。これにより、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、地球環境への負荷を減らすための取り組みを行っています。
空質空調分野では、将来、空調・換気機器のCO2排出量が増加すると予想されます。環境変化に対応するため、省エネ化と室内空気の質のトータルコーディネートを進めます。空質空調社として、30年までにCO2排出量を約40%削減し、20年のレベルに抑えることを目標にしています。空調の温度調節と熱交換気扇を連携運転させるとともに、各種システムの融合やセンサーによる最適な制御運転を行い、エネルギーロスを可能な限り小さくします。
「ガス温水式浴室暖房乾燥機連動タイプ熱交換気システム」は、浴室換気時、熱交換気ユニットの排気量を自動で抑え給気と排気のバランスをコントロールすることで、隙間からの外気侵入を低減するシステムです。室内への花粉の侵入を低減するとともに、換気により失う熱エネルギーを回収し、外気を室温に近づけてから取り込むことで、快適性・省エネ・CO2削減に貢献します。
私たちは、今後もグループ一丸となり環境取り組みを加速していきます。
●カーボンニュートラル社会実現のためさまざまな取り組みを推進しています。/三菱化工機株式会社問い合わせ企画部広報・CSR課電話044-333-5377
脱炭素化に貢献する水素エネルギー社会の実現に向けて、水素を「つくる・ためる・はこぶ・つかう」の各技術開発の推進は不可欠です。これまで三菱化工機、那須電機鉄工、日本フイルコンの3社は水素吸蔵合金配送システムの開発を共同で進めてまいりました。水素吸蔵合金配送システムとは、製造した高純度の水素を専用のタンクに貯蔵し、電気を必要とする利用先まで運搬後、水素を再び取り出し、燃料電池を使って電力を供給・利用する一連のプロセスです。本システムは、水素の貯蔵や運搬が容易なことから、災害時やイベント時など、比較的小規模かつ場所や使用期間が固定されない場所での電力供給に大きな優位点があります。今後3社は、実証実験を重ねると同時に、商業利用の可能性をさらに追及していくことで、水素エネルギーを活用した持続可能な社会の実現に向けて協働してまいります。
さらに、トヨタ自動車および豊田通商と、タイのカーボンニュートラル実現に貢献すべく鶏糞や廃棄食料由来のバイオガスから水素を製造する装置を納入しました。本装置は、当社の保有する水蒸気改質法による水素製造技術に、現地事情を加味した設計変更を加えるとともに、各社およびそれぞれの現地事業体との強固な連携により、2023年11月からタイ現地における水素を「つくる・ためる・はこぶ・つかう」ことの実証を開始することができました。今後も、タイでの脱炭素社会実現を目標とした種々の実証に本装置を活用していく予定です。
国内でも、日本製鉄様より、製鉄プロセスにおけるカーボンニュートラルの実現に向けて、水素還元製鉄実証用水素製造設備「ICI式水素製造設備」を受注しました。これにより製鉄プロセスにおいて排出する二酸化炭素(CO2)を最大50%以上削減することを目指しています。これまで鉄鋼の製造にあたっては、主に炭素(コークス)を用いて鉄鉱石を還元する方法が用いられてきましたが、この製造過程では大量のCO2の排出が避けられず、これを削減するために製鉄プロセスの抜本的な転換が求められています。製造過程でのCO2削減につながる新たな方法として、鉄鉱石の還元に炭素ではなく水素を用いる水素還元製鉄という技術が期待されています。当社は、1964年に天然ガス等を原料とする水素製造装置の国内1号機を手掛けて以来、約60年にわたる納入実績があります。今後も当社は、水素関連技術を通じてクリーンエネルギーの促進に努め、さらに水素サプライチェーンに係る製品の開発を推進してまいります。