ベターリビングが主催し、日本ガス協会が共催する「『ガスとお湯の50年』シンポジウム~快適・健康な暮らしを目指して~」が2月10日、東京都中央区のAP東京八重洲で開催された。ガスとお湯の歴史やカーボンニュートラル(CN)を見据えた今後の住環境について、基調講演のほかパネルディスカッションで議論した。ハイブリッド形式で、約470人が参加した。
〇開会あいさつ「将来像を展望、住生活やCNを踏まえて」ベターリビング理事長眞鍋純氏
ガス瞬間湯沸器が、わが国で製造販売されて50年余が経過した。ベターリビングは優良住宅部品を認定しているが、初期の段階でガスの給湯器認定を開始して、そろそろ50年を迎える。この間ガスとお湯のある豊かな暮らしが、すっかり定着した。台所、浴室、洗面所だけではなく、床暖房や浴室の乾燥、暖房などガスとお湯は、生活と切っても切り離せない関係になっており、ガスでの発電も定着している。
関連の住宅部品設備の安全性、経済性、省エネ性さらに操作のしやすさも格段に向上して、私どもの生活にすっかり溶け込んでいる。こうした状況を踏まえ当財団が主催する「ガスとお湯の50年プロジェクト」は、ガスとお湯の技術や住生活の歴史、関連の住宅部品を振り返るとともに、今後のさらなる住生活やカーボンニュートラル(CN)を踏まえた上での在り方など将来像を展望する取り組みだ。
プロジェクトは約4年前に開始して、これまでの成果として出版物がある。一つは冊子「ガスとお湯の50年~時代とともに、暮らしを豊かに~」、もう一つは「マンガでわかる暮らしを変えたガスとお湯の物語」だ。
このシンポジウムもプロジェクトの一環で、日本ガス協会と共催している。シンポジウムは出版物で取り上げたテーマを掘り下げ、盛り込めなかった話題にも視野を広げるために企画した。
登壇者のこれまでの取り組みや課題を共有し、目指すべきCNと快適・健康な暮らしとの両立という困難な課題について、技術開発、業界間での連携、官民の共同、一般消費者の理解の醸成など多角的な視点の議論を期待する。
〇基調講演「ガスとお湯がもたらした豊かな住生活課題と今後の展望について」早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授田辺新一氏/省エネの推進とともに日本のお湯文化を守ることも重要
私は1958年の生まれで、小学生の中ごろまで自宅の風呂は、薪の五右衛門風呂だったが、小学生後半のころに、ガスのバランス釜と繊維強化プラスチック製浴槽の風呂になった。中学校の終わりには、初期の工業化住宅を新築し、ガス給湯器を設置した。この家は断熱性能が低く、非常に寒かったことを記憶している。
84年から2年半ほどデンマークに留学した際に住んだ家は古かったが、断熱が素晴らしく、生まれて初めて住まいが寒くない経験ができた。外気温がマイナス20度程度でも家の中は全く寒くなかった。この経験から快適や健康とエネルギーのバランスの研究をしようと決めた。
2002年にデンマークで客員教授をしていた時に、住んだ大学のゲストハウスも断熱性能が素晴らしく、窓も三重窓で、小さな放射パネルの暖房機だけでも十分暖かかった。一方で、当時のデンマークは、オイルショック後で、湯船に入らない運動を行っており、大きな家でもシャワーしかなく、浴槽につかりたくて仕方なかった。
そのせいか帰国すると温泉巡りが趣味になった。漫画で映画にもなった「テルマエ・ロマエ」のローマ人が日本に学んだという痛快な設定のストーリーがとても気に入っている。日本の風呂や温泉の文化は欧州では体験できないと感じており、日本独特の風呂にゆったり入る文化を守ることは非常に重要だと考えている。
話題を暖房に移すと、世界の住宅の世帯当たりエネルギー消費量の内訳を比較すると米国、欧州連合(EU)、英国は暖房の割合が多い。それに対して、日本の暖房エネルギー消費量の割合は極端に小さい。これは日本が世界一の省エネを実現しているのではなく、充分に暖房が行われていないためだ。住宅の断熱性能も悪く暖房も不十分で、先進国とは思えない住宅の寒さは健康問題を引き起こしている。特に高齢化社会では家の寒さは、非常に大きな影響を与えるため断熱リフォームが重要になる。一方、給湯でのエネルギー消費は、シャワーだけで入浴するライフスタイルの欧州よりも日本が多い。
日本では20年10月に菅義偉前首相が脱炭素を宣言したことで、産業や暮らしが大きく変わった。そのきっかけは2015年のCOP21で採択されたパリ協定だ。パリ協定では産業革命前からの気温上昇を1・5度以内とすることを目指している。1750年ごろから始まる産業革命以降の二酸化炭素(CO2)排出量を見ると、1950年ごろまでは先進国といわれる国が少なかったため、緩やかに上昇していた。それが50年以降、急増している。第2次世界大戦が終わり、極めて平和な社会が訪れたことが原因だ。
人間の活動の幅が大きくなるとともに、途上国も発展してきた。このCO2排出量が増えたことによる現在の問題は50年以降の、たった70年ぐらいの間のわれわれの行動が大きな原因と指摘されている。
産業革命の原動力は、石炭が使えるようになってエネルギー革命が起きたことだ。日本も石炭により、鉄鋼業や鉄道業をはじめ、機械工業が発展。鉄道革命が起き、近代住宅建築都市が出現した。
電気式エアコンはウィリス・キャリアが発明した。エリシャ・オーチスは現代の超高層の集合住宅になくてはならないエレベーターを作った。トーマス・エジソンは電球を発明した。これらは近代建築が大きく変わった要素だ。
一人当たり国内総生産(GDP)や世界人口が増加して、われわれはかなり幸せになった。今の幸せを享受し続けながら、いかに社会を次に向かって動かすか考えることが極めて重要だ。
・省エネと再エネが重要
産業革命後の近代建築の象徴として非常に有名なドイツのバウハウスは、現代に続くさまざまな設備が盛り込まれている。現在、欧州では脱炭素の問題に対して新しいバウハウスを考えようという運動「ニュー・ヨーロピアン・バウハウス」が起こっている。カーボンニュートラル(CN)により、産業とか社会構造が大きく変わる、産業革命並みの変化が起きる可能性があると認識している。
日本でも19年のCO2排出量のうち、約4割は住宅・建築部門からの排出で、大きな割合を占めている。建築物を低・脱炭素に改修することは社会貢献になる。何をやるかは意外と単純で、徹底した省エネと再生可能エネルギーを増やすことの二つだ。太陽光発電をもっと増やせと言う人は多いが、実は日本にすでに設置済みの太陽光発電の容量は56ギガワットで、ドイツの45ギガワットより多く、これ以上増やす余地は建物の屋根しかない。
一方、省エネについては、米国のエネルギー効率経済評議会によると、日本は産業部門では世界一なのに、建築部門は16位と不名誉なことになっている。日本の第6次エネルギー基本計画には省エネ量の目標として6240万キロリットルと記載されているが、現在日本の家庭で使われているエネルギーを全部ゼロにしても足りず、現在家庭で使われているエネルギーの1・3倍を減らさないと目標を達成できない。
家庭部門の具体的な削減目標は1208万キロリットルで、新築住宅の省エネルギー化で253万キロリットル、住宅改修による省エネルギー化で91万キロリットル、高効率給湯器の導入で264万キロリットル、高効率照明の導入で193万キロリットル、家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)の導入などで216万キロリットル、トップランナー制度による省エネ性能向上により170万キロリットル削減するとしている。高効率給湯器の導入に相当大きな期待がうかがえる。30年度には、CO2冷媒ヒートポンプは1590万台、潜熱回収型給湯器3050万台、燃料電池(FC)が300万台の普及が見込まれている。
15年以降、ネットゼロエネルギー住宅(ZEH)の普及が急速に進み、21年度の統計では、ハウスメーカーの注文住宅の61・3%、一般工務店は10・7%、合計では26・8%がZEHになっているが、この割合をさらに上げる必要がある。建売住宅でも、ハウスメーカーのZEH化率は5割を超えている。一般工務店全体では2・6%なので、今後の普及策が重要だ。
・生活様式を変えて省エネ
112件のZEHの年間エネルギーの実測値を比較した。ZEHにはオール電化、ガス併用、FC併用の3方式があるが、いずれも家電製品を含んでも平均値ではネット・ゼロを達成した。特に、FC併用住宅は、最近、課題になっている冬季の電力自給率を高めるのに有効な結果となった。
欧州では家電製品をスマートフォンに置き換えようと提唱するグループが出てきた。いわゆる黒もの家電の電力消費量449ワットをスマホ1台に置き換え可能で、2・5ワットの待機電力も削減できる。実はこれは、既に日本でも若い人はやっている。日本の家電メーカーがトップランナーで省エネしている間に、生活様式が変わってしまう可能性も考えられる。
・快適性や健康も
省エネという視点の一方で、快適性や健康の視点も重要だ。建築環境総合性能評価システム(CASBEE)の健康チェックリストの合計点が高いと各疾病の有病割合が少なく、また暖かさの得点が高いと冬の風邪の発症率が低いことが分っている。その暖かさの得点を、室内環境から算出した。これを比べると同じ断熱仕様でも、床暖房があると暖かさの得点がアップする。温度の高低だけでなく、暖房方法の違いによる影響などを学術的に研究する必要がある。エネルギーと快適の両方を評価することが極めて重要だ。
別の非常に大きな問題として、日本がエネルギーの89%を海外に依存していることがある。エネルギー自給率が低いので、省エネの実施や再エネの増加、エネルギーの安定調達を考える必要がある。
最後に、話題になっている人工知能(AI)の「ChatGPT」に「脱炭素社会におけるガス給湯器はどのようになるか」と聞いてみたところ、「CO2排出の削減が求められることからより高効率なものに置き換えられる」と回答した。また、「環境に配慮した仕様が求められることが予想される」との回答で、給湯器以外にも節湯になるシャワーヘッドや高断熱浴槽も重要だとAIが示唆しているということだと思う。
脱炭素やエネルギー安全保障など大きな波が来ており、産業社会構造の変化が生じる可能性が高くなっている。わが国ではなんとかこのまま乗り切りたいと思っている人が多いかもしれないが、そのような考えはよろしくない。悲観するだけではだめだ。わが国のお風呂とお湯の文化は世界一だと思う。私は五右衛門風呂からスタートして、いろんな変革を経験したが、だめだと思ったことはない。転んでもただでは起きないような世界戦略が今こそ必要だと考えている。
〇基調講演「カーボンニュートラルの実現に向けた住宅政策について」国土交通省住宅局住宅生産課長山下英和氏
カーボンニュートラル(CN)を進めるために、住宅政策ではまず省エネ対策を行う。全体を底上げする規制的な取り組み、より高い性能を目指して誘導する取り組みなどを進める。
国として掲げている2050年CNに向けて住宅分野では、50年にはストック(既存建物)全体でネットゼロエネルギー住宅(ZEH)や、ネットゼロエネルギービル(ZEB)の水準達成を目標にしている。
これに向けて、まず30年に新築でZEHやZEBの水準の省エネ性能確保を目指している。そのための第一歩として、昨年6月に改正建築物省エネ法が成立した。これに基づき、全体の底上げ策として、省エネ基準の適合義務化を25年4月に実施するための準備を進めている。さらにこの義務の基準を30年までに、ZEHやZEBの水準までに引き上げる予定だ。
また、より高い水準への誘導として、長期優良住宅をはじめとしたより高性能な住宅に誘導して行く基準も、ZEHやZEBの水準まで引き上げる。ZEHやZEBの早期の普及を実現するため、補助・税・融資などの支援策に、関係省庁が力を合わせて取り組んでいる。大手の住宅メーカーが供給する住宅の省エネ性能を向上してもらうことを目的とした住宅トップランナー制度では分譲マンションを追加してより高い性能を目指してもらう。
さらに省エネ性能を表示する制度により、省エネ性能も比較検討して住宅が選択される市場環境の整備を目指す。建物だけではなく、建材や設備でもレベルを高める取り組みが必要だ。
また、ストックの対応も極めて重要なテーマで、50年に向けてストックも全体のレベルアップを図る必要があるが、規制的な手法はなじみにくい領域なので補助・税・融資などを総動員して取り組みを進めていく。
新しい取り組みとして「こどもエコすまい支援事業」を創設した。昨年秋の経済対策に盛り込まれ補正予算で準備している。エネルギー価格も高騰する中、省エネ投資を下支えする目的もあるが30年に新築でのZEH水準の省エネ性能を目指す第一歩といえる。
こうして省エネ住宅の供給促進を図る。子育て世代・若者夫婦世帯に限りZEHを建設する場合、1戸当たり100万円を補助する。一方、住宅リフォームの補助は、世帯の形式に関わらず、省エネ改修やそれに関連したさまざまなリフォームが行われた場合に、その工事の内容に応じて支援する。省エネに寄与する高断熱浴槽も対象にしているし、家事楽になるビルトイン食洗器、自動調理対応コンロなども対象にしている。この二つを合わせた予算額は1500億円を用意した。
従来の支援策は「広く薄く」だったが、今回は経済産業省、環境省、国土交通省の3省が連携して、高効率給湯器や高断熱窓の設置など省エネ効果が高いものに絞ってより手厚く支援するメニューを盛り込んでいるのが特徴だ。
それぞれの省庁が行う別事業だが、使い勝手を優先してワンストップで申請を受け付けることを考えている。支援総額2800億円とこれまでにない規模の予算を用意した。
国交省住宅局として23年度予算でもCNに向けた省エネ対策として、新築は全体の底上げとより高い水準を目指した取り組み、ストックはリフォームの支援の強化、公営住宅については他に先駆けて取り組んでもらえるよう進めていきたい。
〇パネルディスカッション「カーボンニュートラルな社会と、ガスとお湯による豊かな暮らしの実現に向けて」
ファシリテーター
・「ガスとお湯の50年」編集委員長ベターライフリフォーム協会顧問神﨑茂治氏
パネリスト
・東京ガスカスタマー&ビジネスソリューションカンパニー企画部エネルギー公共グループ住環境チームリーダー東郷悟史氏
・住宅生産団体連合会住宅性能向上委員会WG主査(積水ハウスESG経営推進本部渉外部グループリーダー)田村智氏
・スイコー代表取締役澤口司氏
・リンナイ開発本部第一商品開発部第三温水設計室室長林泰平氏
神﨑この50年を振り返えると、各者の努力によってガスで沸かしたお湯が生活者の暮らしを豊かにしてきた。それと同時に、暮らしにおける生活者の不満やリクエストに応えてきた時代だった。快適・健康でより良い暮らしを実現するためのこれまでの取り組みを聞きたい。
林当社はさらなる省エネや快適性、利便性を追求する中で、毎日使うお湯の価値を高めるような商品の開発に取り組んでいる。中でも高効率給湯器エコジョーズとヒートポンプを組み合わせた家庭用ハイブリッド給湯器は、ガスの持つ快適性のメリットを生かしつつ、ヒートポンプ給湯器よりも省エネ性で勝る商品として開発した。
ハイブリッド給湯器の熱源はガスと電気。どちらかが使用できなくても、いずれかの熱源でお湯を沸かすことが可能で、災害時のレジリエンス強化になる。
澤口当社は主に住宅リフォームを行っている。単に従来の住設機器を交換するリフォームだけでなく、フルリフォームを行い、家全体の性能を上げることに取り組む。
こうした中、あるお客さまから言われた印象深い言葉がある。ご主人の定年を機にリフォームを計画し、当初、お風呂と水回り、キッチンのリフォームを予定していた。家全体の耐震性能を上げながら省エネ、断熱性能を上げるフルリフォームを提案し、採用された。その後、そのお客さまから「人生観が変わった」と言われた。リフォームによって生活の質が変わり、家庭で過ごすご主人が第2の人生をスタートできたと非常に喜んでもらえた。お客さまの生活に寄り添った提案をしていくことの大切さがスタッフにも浸透してきた。
東郷われわれガス事業者は、入浴文化の継承という点でガス機器メーカー、住宅メーカーと連携して商品開発や情報発信に取り組んできた。
例えば、昔のお風呂は狭さや寒さが問題で、シャワーも途中でお湯が水になるなど、さまざまな不満があった。そういった不満の一つ一つを商品開発により解決してきた。その積み重ねが現在の快適なお風呂になっている。
お風呂が快適になり、お風呂での過ごし方が変わってきたことを踏まえ、睡眠改善のための入浴プログラム「おうち湯治」や、入浴を親子のコミュニケーションの時間にする「浴育」など、お風呂の新しい楽しみ方の情報発信に努めている。
田村住宅は、居住者のライフスタイルや価値観の変化に合わせて進化してきた。
お客さまには、住宅内の安全性確保に重点を置きつつ、その上で断熱性能を高め、高効率な設備を導入することで省エネ性が高く快適・健康で心地よい暮らしができると提案している。例えば、床暖房は部屋全体がむらなく温まり乾燥しにくく、快適で健康な暮らしをもたらしている。生活者の目線に立ち、丁寧に説明することで住宅の購入やリフォームにつなげる。会員企業とともにこうした取り組みを通じて、お客さまへ快適な住空間を提供している。
・50年CN達成に向けて、省エネ設備の導入を推進
神﨑50年カーボンニュートラル(CN)実現に向けて、徹底的な省エネに取り組む必要がある。どういったことに取り組んでいるか。
田村CNに向けて戸建住宅はネットゼロエネルギー住宅(ZEH)、集合住宅はネットゼロエネルギーマンション(ZEH—M)の普及促進に努めている。
CN達成には新築住宅の省エネ化だけでなく、住宅ストックの省エネ改修も不可欠だ。解決策として、エネファームなどの高効率給湯器やエコな住宅設備の導入、窓や床、壁、天井の改修を推進。豊かな暮らしの実現に向け、高い省エネ性能と創エネ、蓄エネ設備、これらを備えた住宅供給に取り組む。
省エネ性能の高い住宅を整備し、誰もが健康で豊かな住生活を享受できるようなストック型社会の実現に向けて、取り組みを続ける。
澤口当社は、お客さまにとって住宅や住宅設備機器などがオーバースペックにならないよう、売れれば良いという利己主義に陥らないようバランス感覚を高める社員教育を続けていく。長寿命化時代において、住居費負担の軽減や安全・安心・快適を追求しつつ住生活の生涯価値を高める取り組みを推進する。
林30年までの低炭素化に向けて、従来から進めている高効率給湯器のエコジョーズ、ハイブリッド給湯器の普及拡大を加速する方針だ。50年CNに関しては、メタネーションやプロパネーションといったガスのCN化に向けた技術開発の動向を注視しつつ、既存の機器を継続利用できる方法を探っていく。
東郷ガス事業者は都市ガスのe—methane(e—メタン)化を進めていく方針だ。e—メタンは、既存の設備や機器を使用できるため、お客さまに負担をかけることなく、脱炭素に貢献できる。
しかし、e—メタン化にはもう少し時間が必要だ。それまでは、需要側の徹底した省エネが重要だ。エネファームやエコジョーズなどの普及に加え、省エネ教育などの取り組みも推進していく。
ただ、過度な省エネは長続きせず、健康に悪い住まい方につながる可能性もある。生活者視点に立って快適や健康といった視点で住まいや住まい方を提案していきたい。
・省エネと快適・健康な暮らし、断熱改修や機器効果の周知
神﨑省エネを推進しながら、快適で健康な暮らしを追求する。その両立についてはどうか。
澤口省エネに関して、生活者は月々の光熱費が安くなるかどうかに意識が向いてしまう。しかし、そこの部分だけで話が進むと非常に方向性が限られてしまう。そういう思い込みや決め付けをいかに崩していくかが重要になる。
そこで、一次取得者向けには初めての家づくりセミナー、既存住宅に20、30年住んでいる人には国や自治体の政策を含めた補助金活用セミナーを、60代前後にはこれからの生活を考える老活セミナーを案内している。
田村住団連は既存住宅の流通を専門に扱う「住宅ストック委員会」を設置し、住宅ストックのリフォーム推進についてもさまざまな情報を会員企業・団体に提供している。
住宅ストックの課題は、戸建住宅全体を断熱改修しようとすると1~2階の全ての床やサッシを変更する必要があるため、費用面などで難しいことだ。日常的に使用するリビングや水回りなど部分的な断熱改修でも省エネ性を向上できるということを消費者に広く浸透させていきたい。
林省エネになる高効率給湯器の普及拡大を進めながら、毎日使うお湯を通じて人々の生活をより豊かにする商品開発を行う。例えば、微細の泡を放出するマイクロバブルによる新たな入浴体験などだ。
今後はIoT(モノのインターネット)機器を搭載した給湯器や、当社のアプリを通じて得られた機器データを有効活用し、お客さまの要望を先回りして提供できるような商品を開発していく。
東郷省エネ機器の普及について、特に既存住宅は脱炭素・低炭素化する手段が限られ、その中でエコジョーズへの切り替えが効果的だと考える。継続的な啓発活動が必要で、関係者と連携した活動が重要と考えている。
ガス事業者はお客さまのニーズを理解し、住まいに応じて新たな暮らしを提案できるのが強み。快適な暮らしという点では、床暖房や浴室暖房機によって良好な温熱環境を実現する知見を有している。
さらに、入浴時など急な温度変化が体に与える「ヒートショック」防止の啓発や適切な入浴に係る情報発信などの取り組みを通じて、低炭素かつ快適・健康な住まいと住まい方の普及浸透を図っていく。
神﨑ガスが沸かしたお湯が豊かな暮らしに貢献してきたことが分かった。消費者に上手なお湯の使い方を一層提案していくことがより快適で健康な暮らしに貢献するのではないか。低炭素、CN実現と快適・健康な暮らしの両立には、生活者に「省エネ=光熱費の削減」だけでなく健康への付加価値があることなどを理解してもらうことが重要である。
〇「ガスとお湯の50年」プロジェクト
「ガスとお湯の50年」プロジェクトは、ガス瞬間湯沸器の誕生、ガス給湯器の優良住宅部品(BL部品)認定開始から約50年が経過するのに伴い、ベターリビングが主体となって発足した。
プロジェクトは、これまでのガスとお湯にまつわる技術進歩や住生活の向上、住宅部品の発展を振り返りつつ、さらなる住生活の充実と今後の機器開発の将来像を展望する。
同プロジェクトの企画委員会の委員長は、田辺新一・早稲田大学教授、委員をベターリビング理事長や日本ガス協会専務理事などが務める。
編集委員会を設置し、冊子「ガスとお湯の50年時代とともに、暮らしを豊かに」と「マンガでわかる暮らしを変えたガスとお湯の物語」を製作した。
冊子はA4判、カラー259㌻。写真や図をふんだんに用いてガスとお湯に関する歴史を解説しつつ、ガス機器メーカーやガス事業者による座談会、次世代に向けた提言も掲載し充実した内容になっている。マンガ版はA4判カラー22㌻で、一般の人にも分かりやすくまとめられている。いずれも特設ウェブサイトからデジタルブックとして無料で閲覧が可能だ。
シンポジウムなどを通じて、ガスやお湯、住生活の発展やその周知を図っていく予定だ。