【エネルギー深論】石井彰/欧州電力危機と長期的LNG不足 【5面】
・オックスフォード・レポートの重要性
今年の1月中旬にオックスフォード大学のエネルギー研究所(OIES)から
衝撃的なレポートが出された。
いわく「EUの電力市場の価格メカニズムは破壊されており(broken)、遠くない将来に電力の安定供給が根底から危機にさらされる」。
これに続いて世界エネルギー会議(WEC)も2月の月刊ニュースレターで、全く同様の問題提起を掲載し、他の世界の参考とすべしとしている。
さらに3月末には、国際エネルギー機関(IEA)も、「電力の低炭素化をスムーズに進めるためには、電力市場の再設計の必要性、特に(再生可能エネルギー導入による電力供給不安定化を抑制するための)容量メカニズムの重要性」を指摘するレポートを出した。
OIESレポートやWEC記事等の趣旨は、以下の通りだ。
EU諸国では、FIT(固定価格買取制度)等の政策的補助を大きく受けた風力や太陽光発電等の、いったん設備が設置されてしまえば、限界発電コストがほぼゼロだが不安定な電源が、既に発電市場の一定割合を占めるようになった。その限界発電コストがほぼゼロという性格を反映して、電力卸売市場の価格が大幅に下落したため、電力供給安定化機能も持つが、限界発電コスト(総コストではない!)が高い従来型発電設備の採算が著しく悪化して、効率の良い新規設備ですら閉鎖、廃止が相次いでいる。
一方で、平均電力コスト(発電+送配電コスト)は大幅上昇しており、安定かつ機動性の高い電源(特にコンバインドサイクル等の天然ガス発電所)への新規投資は完全に止まってしまった。この事態は遠からず間違いなく、(天候や時間帯によって風力・太陽光発電が大幅低下した際に)突然の大規模停電を招来するだけでなく、電力需給全体のバランスが全く取れなくなる等の大問題を招来する。